第5話 今日集まった四人でなにしようかな
金曜日の放課後。
明日から始まるのはそう、土曜日、日曜日と二日間続く休みである。学生達は思い思い、やりたい事を胸に帰って行く。部活に熱中する生徒達もいる。
そして、帰りもせず、部活に熱中しない者もいる。
「明日…土曜日か」
思い出したようにぼそっと呟くのは、今のところ皆勤賞で登場している仁だ。読んでいた雑誌をパタンと閉じて、ん〜〜と背伸びをした。
「急にどうしたんだ、仁」
武器の手入れを行なっていた六花が反応した。彼は杖に仕込んだ銃以外にも、身につけた様々な物に武器を隠しており、いざという時にすぐ使えるよう日頃から手入れを行なっているのだ。
「いや、明日は土曜日だと思ってな」
「そうだな…2回も同じこと言って、疲れてるんじゃないか?」
そうか?と問いかける仁の右目はまるで睨みつけているかのような、見るもの全てを傷つけそうなくらいに鋭いものとなっていた。
「まぁ…疲れているのは事実だ。なんせ、昨日も大変だったからな…」
ふぁ〜と欠伸をする仁。そんな彼にサササッと近づく少女。
「ならこれを食え仁!イチゴのショートケーキだ!」
そう言って、仁の口にケーキを丸ごと突っ込んだのは、スイーツ大好き少女こと緋音である。
「ふごごごご!?」
「うまいだろ、おいしいだろ?糖分の摂取はオマエの脳を活性化させるぞ!」
「いや、流石に丸ごと食わせるのはどうかと思うんだが…」
普通じゃないのか?と首を傾げる緋音に、ダメだこりゃと六花はため息をついた。
「緋音てめぇ!窒息死させる気かぁ!?」
「おお、元気になった!」
今にも斬りかかりそうな仁を気にもせず、はははーと笑う緋音。確かに、気迫は恐ろしいものだが眼の鋭さは和らいでいる。
「まったく騒々しいな…私の大事な発明中に騒がしくしないでくれたまえ!」
「「「お前にだけは言われたくないわ!!」」」
トリプルつっこみをされるのはそう、前回も登場した華乃だ。今日も白衣を身につけて、何かを作っている最中のようだ。
「ちなみに、今日は何を作っているんだ?」
「聞いて驚け。ある人物より極秘で依頼されたものを作っているのだ」
極秘なのに言っちゃてるよこの人…と六花が呟く。
華乃が右手を上げると、空中に洗濯機のようなものが現れた。華乃は発明品を無から作り出すが、このように作りかけの物を空中に出現させる事も出来る。
「なんだこれ?家電?」
「わかった!小型爆弾か?そうなのかー?」
「ふふ、残念ながら違うぞ緋音。これは全自動洗濯機だ」
「まんまじゃねーか!」
「いや、まだ分からないぞ仁。華乃が作るんだから、きっと何か特別な機能があるはずだ…」
気づいてしまったか…と芝居がかった口調で華乃が言う。
「こいつにはとんでもない仕掛けがあってな…なんと、服を洗うのではなく、服を再構築して汚れた繊維そのものを新しくする画期的な洗濯機なのだ」
な、なんだってー!と驚く3人に、いいリアクションをありがとうと、華乃が礼を言う。
「では、私が実演してやろう」
そう言うと華乃は、自身が着ていた白衣を脱ぎ出した。
「この白衣を見たまえ。そこじゃない、ここだ。昨日こぼしてしまった、たこ焼きのソースがついている。確認したまえ」
そう言って華乃は、仁に白衣を手渡した。
「…確かに、たこ焼きのソースだ。青のりも少しだけ付着している。華乃の匂いとたこ焼きの匂いがミックスされて…変な匂いだな」
嗅がんでいいわぁ!と白衣を奪い取る華乃。ゴホン、と咳払いをすると、洗濯機に白衣をいれた。
「そして、スイッチオン。こうすることで繊維一つ一つが再構築されるのだ」
数秒経つとチンッと音が鳴り、蓋が開いた。
「どうかね皆の衆。この新品のような白衣は!」
そう言って華乃が広げた白衣は、ソースがついていたとは思えないほど綺麗になっていた。青のりも跡形もなく消え去っている。
「すごいな、まるで新品だ」
「そうだろうとも。仁、試しにそのブレザーを入れてみるか?」
おお分かった、とブレザーを脱ぎ洗濯機に突っ込む仁。
再びチンッと音が鳴り、華乃が取り出した。
「おお〜俺のブレザーが…新品の学ランになってんじゃねぇかテメェ!?」
紺色のブレザーだったはずが、金のボタンが輝く学ランへ変わってしまっていた。
「たまに再構築をミスると、こんな風に別のものに変わってしまうのだ」
テヘペロ、と舌を出して笑う華乃に学ランを投げつける仁。
「今すぐに戻さないと、お前の髪の毛をおかっぱ頭にしてやるぞ…!」
「分かったから、刀をしまってくれないか」
そう言うと華乃は学ランを洗濯機に突っ込んでスイッチを入れた。再び取り出すと、学ランは無事に元のブレザーに戻っていた。
「この技術が広まれば、一々服を買わなくても済むようになるな!なぁ六花」
感心した…うんうん、と頷きながら緋音が言う。
「毎回ランダムで服出てくるのは嫌だろ…」
その後、依頼人が来ないかと部室で待ってみたが、特に誰かが来る訳でもなく時間だけが過ぎていった。
「…帰るか」
下校時間を知らせる鐘の音に、仁が顔を上げた。
「そうだな、せっかくだし飯でも行くか?」
杖をカツンと鳴らし、六花が立ち上がった。
「賛成だ!スイーツパラダイスに行こう!」
ガタッと立ち上がり緋音が言う。スイーツと聞き、仁の顔が曇った。
「いや、ここはもんじゃ焼きを食べに行くべきだと私は提案しよう」
それはない!と3人から即座に却下される華乃。
以前、皆んなでもんじゃ焼きを食べに行った際に、
「もんじゃ焼きって、食後2時間くらい経った胃の内容物みたいで興奮するよね」
という話を華乃が延々と語って全員の食欲を奪い、1人は鉄板に吐き出してしまった。後にゲロもんじゃ事件と呼ばれ、今もなおその爪痕は残されている。
「あの店出禁になったの、忘れてないからな」
「まぁまぁ、ゲロの話で吐き出すのもどうかと、私は思うぞ」
わいわいと話しながら通学路を帰っていると、遠くから悲鳴が聞こえてきた。
「…なんでこの街は、こんなにも頻繁に事件が発生するんだ?」
はぁ〜とため息をつくと、仁はカバンを置いて走り出した。
「私はパスだ。君達のような戦闘向きの能力は持っていないんでね」
よっこいしょと仁のカバンを拾う華乃。
「華乃、ワタシのブレザーもよろしく頼んだぜ」
緋音はそう言ってブレザーを脱ぎ捨てると、背中がモゾモゾと動きだした。そして、ワイシャツを何かが突き破る。
服を破って飛び出したのは、肩の辺りから生えた翼だ。
コウモリのような翼をはためかせると、緋音も悲鳴が聞こえた方向へ飛んでいってしまった。
脱ぎ捨てられたブレザーを拾う華乃。
「お前は駆け出さないのか?六花」
「おれ、義足よ?」
「本当は杖なしで歩けるんだろう?私はいいから、早く行ってきたらどうだ?」
分かった、と六花もカバンを渡して駆け出した。
「とは言ったものの…カバン二つにブレザーは重いな」
「やぁぁぁぁぁッ!」
襲いかかる敵を次々と薙ぎ倒している少女がいた。彼女の名前は
彼女は手で握る、もしくは触った物のサイズを自由に操る能力を持つ。今も巨大化させたボールペンを用いて、迫り来る黒い人形達と戦っていた。
「やるじゃない…最近の学生さんは、能力も戦闘センスもいいみたいだね」
パンパンと拍手を送る男。この男こそ、今回の騒動の原因である。
人形を作り出し、操る能力。今も道路に含まれているアスファルトを用いて、無数の人形を作り出していた。
「貴方こそ、資源と能力の無駄遣いは辞めた方が身の為よ!」
迫るアスファルト人形を、朝妃が振るうボールペンが次々と粉砕していく。本来、ボールペンで道路を壊すことは出来ないが、朝妃が能力を使用した物は、とてつもない強度を持つ。
最後のアスファルト人形に、朝妃がボールペンを突き刺した。
その時、朝妃の視界がグニャリと歪み、膝から崩れ落ちてしまった。それもそのはず、朝妃がいくら人形を破壊しても、男は次から次へと道路から人形を作り出し、休む間もなく襲わせ続けたのだ。いくら能力者といえど、いずれ肉体は限界を迎えてしまう。
「能力の使用と肉体的疲労で、動けなくなったか…まだまだ子供だね」
舌なめずりをしながら、男が指を鳴らす。大量のアスファルト人形達が、彼女の手足を押さえつけた。
そして、ビリビリと破られる衣服。滑らかな素肌が、可愛いピンク色の下着が、夕日の下に晒される。
「だが、その子供こそ至高の味!アイツらはそれを理解していない…」
疲れ果て、意識が朦朧としている朝妃にはもう、抵抗する気力すら残っていなかった。
「じゃあ、いただきま「公衆の面前でおっぱじめようとは、さてはMM号の見過ぎか?」
振り返る男の顔面に、刀が叩き込まれた。
「はぐぅぅおぉ!?」
吹き飛ばされ、ゴロゴロゴロゴロと転がる男。鼻血を噴き出しながら痛がる男を、刀を持った仁が見下ろしていた。
「ロリコンは犯罪って学校で教わらなかったのか?まぁ、お前みたいなクズは常識を学ばないとな」
朝妃を押さえつけていた人形達を一太刀で切り捨てると、仁はブレザーを脱いで胸部を隠すように被せた。
「このガキ…鼻が曲がっちまったじゃねぇか…!」
「大丈夫、鼻は序の口だ。その曲がりきった性根を叩き直してやる!」
やってみろ!と男が叫ぶと、アスファルト人形が仁へ襲いかかる。
「いくら雑魚が群れても、敵じゃないんだよぉぉぉ!」
まるで切れ味の良い包丁で野菜を切る時のような勢いで、人形を叩き斬る仁。
久しぶりに峰打ちではなく、敵を斬り倒せる事に喜びを感じているのだろうか。仁の表情は清々しいものになっていた。
「雑魚が…群れやがっても…敵じゃ…ゲホッゲホ!?」
いくら能力使用中は超人的な身体能力を持つ仁でも、無限に湧き出る敵を前に、いつの間にか息を切らしていた。
のでは、ない。偶然にも活動を停止した人形が、細かな粒子となって周囲を漂っていたのだ。それを吸い込んだ仁は、盛大にむせていた。
「さっきの威勢はどうしたぁ!両手両足引きちぎってやらぁ!」
刀を地面に突き刺し、ゲホゲホと咳を吐き出す仁へ、アスファルト人形が押し寄せる。
しかし、次の瞬間にはアスファルト人形が粉々に砕け散っていた。高速で飛んできた緋音が、アスファルト人形を一瞬で破壊したのだ。
「ふがふはは、ひん!」
口をモグモグさせて、緋音が言う。
「お前、やけに遅いと思ったら買い食いしてやがったな…」
そう、緋音は紙袋一杯のシュークリームを抱えながら、片手でアスファルト人形達を蹴散らしたのだ。
「モグモグ…ごくん。ワタシの大好きなシュークリーム屋台があったからな!オマエも一個食べるか?」
いらんわ…と元気なさそうにしている仁の口に、無理矢理シュークリームを突っ込む緋音。ただでさえ酸欠気味の仁は、トドメをさされたように静かに咀嚼を始めた。
「さてと、甘いの食べたし…本気出しちゃおうかな」
ペロリ、と指についたクリームを舐めとった緋音の目が、鮮血のような真っ赤な色に変わっていた。
迫り来るアスファルト人形に、緋音はナイフのような鋭さを持つ爪で応戦する。
「ハハ、いい刺し応えだ!」
ズバズバッと人形の胴体を何度も突き刺す緋音だったが、ガシッと腕を掴まれてしまった。
「おっと?」
身動きが取れなくなった緋音を、集まった人形達がボコスカと殴り始めた。
「はははは!どうだ小娘!痛かろう!泣いてもいいんだぞ〜」
「泣きもしないし、痛くもないぜ?」
ケロッとした顔の緋音がニヤリと笑う。
バサっと勢いよく広げた翼が、アスファルト人形達を吹き飛ばした。
「さぁて、そろそろ人形じゃなく本体を頂いちゃおうかな」
高速で突っ込んできた緋音に対し、男は後退りしようとしたが二人の距離は一瞬で縮まった。
緋音の振るう爪が、男の喉を掻き切ると誰もが思ったであろう。
爪は何もない空を切り裂いた。男がパタリと倒れてしまったからだ。
「馬鹿野郎ぉぉぉ!人殺したらぁぁ!めんどくさい事になるだろうがぁー!」
銃を構えた六花が、遠くから怒鳴り声をあげている。緋音が面倒を起こす前に、麻酔弾で処理しておいたのだ。
「悪い悪い、ちょっと上がっちゃったぜ☆」
あはは〜と笑う緋音と、まったく…と呆れながら歩いて来る六花。
「あれ、そういや仁は?」
「おい、起きろ。風邪ひくぞ」
シュークリームを食べ終えた仁は、気を失ってしまった朝妃の頬をぺちぺちと叩いていた。
「…あれ、私…負けたの…?」
「勝負には負けたかもしれないが、最後まで戦ったのは見事だったぞ」
そう、と上半身を起こす朝妃。そして、バッと顔を逸らす仁。
「なに…?」
「いや、乳房と乳首が見えそうだから…」
朝妃は下を向いて、自身の服がビリビリに裂かれている事を確認した。ボンッと音が出そうな勢いで、顔が真っ赤に染まる。
「あんたねぇ…言い方ってもんがあるでしょ!?何よ、乳房と乳首が見えそうって!?デリカシーゼロなの!?脳味噌の代わりに何味噌が詰まってるの!?赤味噌!?赤味噌なの!?」
はぁ!?と今度は視線を逸らさずに朝妃を睨みつける仁。
「誰が胸丸出しで寝てるお前に、ブレザーをかけてやったと思ってんだ恩知らず!それ、俺のブレザーな!さっきから素肌に擦りつけやがって、思春期の男になんちゅう仕打ちをしてくれるんじゃコラァ!」
「はーーーーー!?あんた、もしかして私の匂いを染み込ませる為にブレザー脱いだの!?最低!人間の屑!生きる性欲の権化!」
「思春期の男の子は性欲の権化なのっ!ってぇ、俺に何を言わせとんじゃ!だったら返せ!今すぐにブレザー返せ!手ブラでこのまま寮に帰りやがれ!」
上等よ!とブレザーを突き出す朝妃と、見せるな馬鹿やろ!?と右目を覆う仁。
「君達ぃ…夫婦漫才は他所でやってくれないかな?」
そんな二人を、華乃が見下ろしていた。
「「誰が夫婦じゃー!!」」
ほら、息ピッタリと華乃が笑う。
「話は聞かせてもらったよ。そこのお嬢さんはワイシャツとブラジャーが破けてて、仁はブレザーに匂いが染み付いているらしいじゃないか」
パチンと指を鳴らすと、部室で見せた洗濯機が現れた。
「二人の問題を解決するのが、この全自動洗濯機だ。ささ、入れたまえ」
華乃は白衣を朝妃に被せてから、破けたワイシャツとブラジャーを受け取る。そして仁からブレザーを受け取り、洗濯機につっこんだ。
「え、一緒に入れるの…?」
「なんだその、お父さんと一緒に洗濯しないでって顔は?お父さん泣いちゃうぞ?」
パパは別よ!と朝妃がブチギレていると、チンッと洗濯が終わった音が鳴り響いた。
「さぁお二人さん、見たまえ!生まれ変わった衣服達を!」
華乃が服を取り出す。何という事でしょう。ビリビリに破けたワイシャツは再構築され、ボタンが無くなってしまっているではないですか。
下着は色は変わらず、素材が透け透けのセクシーなものに。
そしてブレザーは匠の技によって、袖が無くなっているではありませんか。
「「こんなの着れるかー!?」」
朝妃は下着とワイシャツを奪い取ると、仁を睨みつけた。
「今日の借りは、必ず倍にして返すからね!」
覚えてなさいー!と走り去る朝妃は、夕日の中に消えていった。
「ふざけやがってクソ女が…!新聞部に下着の色をリークしてやろうか…」
「うーん。そういう所だぞ、仁」
「散々な目にあった…」
はーと息を吐き出すのは、ワイシャツ姿の仁だ。その後何度試してもブレザーは元の姿に戻らず、休み中に直せと華乃に叩きつけたのだった。
「まあまあ、かわい子ちゃんと仲良しだったみたいじゃないか〜」
このこの〜とツンツン触ってくる六花に、フォークを突き刺す仁。
「あんまふざけっと細切れにすんぞ?」
「あはは、冗談に聞こえない〜」
ケタケタ笑い続ける六花と、容赦なくフォークを突き立てる仁。
「ワタシが見た限りだと、あれは恋をしている目だったね」
「私も緋音の意見に同意だ。あれはコイニハッテンシテ…な顔だったね」
ね〜!と笑い合う緋音と華乃。ねーよ!と仁は六花の眼球にフォークを突き刺した。
「さっきから、俺だけ当たり強くない…?」
「お前はどうせすぐに治るだろ!」
そんなこんなで、彼らはファミレスで語り合い、そして帰ってゆく。
不穏な影が、この街に近づいていることに、彼らはまだ気付いていない。
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