第6話 告白

「なんかいいね。無邪気で」

 俺は無理して笑う。

「発達障害の子って言葉が遅い子が多いから、シャボン玉でよく遊ぶんです。そしたら、口の周りの筋肉が鍛えられて、訓練になるんですって」

「へぇ。そうなんだ」

「長く息を吐く練習」


 普通の子が当たり前にできることでも、発達障害の子は訓練しないとできないものなんだなと知る。俺の発達障害なんて多分大したことない。

「そうか。楽しみながら訓練になるならいいね」

 俺は当たり障りのないことを言う。爽君は一人でずっとシャボン玉をやっていた。

 見ていても話すことがない。

「すごいイケメンだね」

「ふふ。何回もスカウトされて。でも、うちは興味ないんです。って、断ってるんです」

 満更でもないようだった。


「へえ。すごいね」

「もし、障害がなかったら、やったかもしれないけど、無理だから」

「子どもを人前にさらすなんてやめた方がいいよ。変な人も多いし」

「そうですよね。でも、習い事もできないし・・・」

 美須々がシュンとなる。

「できないってことないよ。スイミングとかは?」

「水を怖がっちゃって・・・ダメで」

「そっか・・・じゃあ、ピアノとか絵画とかは?」

「そうですよね・・・でも、地元に住んでるから、あまり出かけたくなくて。噂になるし・・・爽に申し訳ないけど、一緒にいるのが恥ずかしくて」

「全然恥ずかしくないよ・・・かわいいよ」

 俺は爽がかわいそうになって言った。俺が親だったら恥ずかしいなんて感覚はないだろう。自分自身が十分恥ずべき人間だからだ。

「じゃあ、新幹線で東京まで出てくれば?すぐだろ?」

 美須々は頷いて、涙を流し始めた。自分が悪い親だと反省している感じだった。根はいい子なんだ。

 そして、俺の腕にしがみついた。俺は美須々の反対側の肩を抱いた。

 大きな胸が当たって俺は赤面する。

 上から見ると谷間が見える・・・。

 まずい・・・不倫してると思われる。

 俺は美須々の体を押し戻して、ちょっと距離を置いた。


「ごめんなさい」

「大宮じゃなくても、都内まで出てくればいいじゃん。・・・池袋とか上野ならすぐ出られるだろ?」

「はい。そうですよね。それに、主人も子供のことを嫌がってて・・・発達障害だってわかってたら結婚しなかったって言われて」

「黙って結婚したの?」

 俺はびっくりして聞き返した。自分が騙されて泣いたくせに。


「はい。言ったら受け入れてもらえないかなと思って」

「そんなにその人がよかったの?」

「そうじゃないけど、言うのが怖くて・・・」

「言うべきだったんだよ。爽君のためにも」

「そうですよね・・・でも、どうしても言えなくて」

「離婚することになったらどうすんの?」

「わかりません・・・もう、どうしていいか」

「親がしっかりしなくてどうすんだよ!自分の子どもだろ?」

 俺はかっとなって怒ってしまった。

「ごめんなさい・・・」

「大変だと思うけどさ。子どもが一番君を必要としてるんだから」

「でも、私もう育てられない・・・あの子をかわいいと思えなくて」

「何言ってるんだよ」

「もう、私ダメかもしれない・・・本当は爽は今実家で暮らしてるんです。もう顔を見れなくて・・・わぁっ・・・」

 美須々は泣き崩れた。


「美須々ちゃん、大丈夫?」

「私、出産前からずっと鬱で・・・」

「あ、そっか・・・ごめん。きついこと言っちゃって」

「本当にダメな親なんです・・・」

「そんなことないよ。優しいし、一生懸命やってるよ」

「もう、死にたい」

 美須々はベンチから崩れ落ちそうになった。

 俺は仕方なく美須々を抱きしめた。死ぬくらいなら不倫を疑われた方がましだ。

「そっか・・・君も色々大変だったよね。Aさんみたいな変な人と一緒になっちゃって」

「何でこんな風になっちゃったんだろう、っていつも思うんです。何でAさんのことを信じちゃったのかなって」

 

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