第5話 再会

 俺が美須々と再会した場所は、なぜか公園だった。お互いの家だと近所の人に見られていたり、興信所に跡をつけられているかもしれないから、そこになった。

もちろん、爽君も一緒。俺が会いたいのは実は子供の方だ。


 俺たちは週末、東京駅で待ち合わせをした。

 2人は改札の外に立っていた。5年ぶりに会った美須々は前より大人びてて、やっぱり美人だった。俺を見て会釈した。完璧な笑顔。

「お久しぶりです」

 体の線がわかるようなピッタリした服を着てて、相変わらずスタイルは抜群。

 突き出した胸に目がいってしまう。

 あんなおっさんに取られたと思うと悔しい。

 でも、エルメスのバックを持ってるのを見て、俺には買ってやれないと気が付く。

 2人はいかにもなセレブだ。


「はじめまして」

 俺は言ったが爽君は黙っていた。目を合せない。発達障害の子は挨拶が苦手だそうだ。

「爽。挨拶されたら、同じことを返せばいいんだよ」

 美須々は息子に優し気に言う。ほんと性格いいなこの子と思う。それでも息子は黙っている。

「じゃあ、また今度言って」

 俺が言うと美須々は笑う。

「挨拶が苦手で・・・ごめんなさい」

「大丈夫」


 俺たちは連れ立って皇居外苑に向かった。

 傍からみたら親子だろう。それにしては、俺が貧乏臭すぎるか。

 爽君は美須々と手をつないだままずっと黙っていた。

「すみません。公園なんかで」

「いいよ。俺も外にいるの好きだし。ここまでどうやって来たの?」

「新幹線で」

「え?大宮から?」

 俺はローカル線があるのに金がもったいないなと思う。

「はい。電車が好きで」 

「ああ。大宮って色んな電車が止まるんだよね」

 俺が言うと「よく知ってますね!」と美須々は喜んだ。

「爽君、大宮の駅って何の電車が通るんだっけ?」

「え~とね。草津、きぬがわ、スペーシア。あとは、かがやき、はくたか、つるぎ、あさま、とき、たにがわ、こまち、はやぶさ、やまびこ、なすの、はやて、Maxとき、Maxたにがわ、つばさ、とき、たにがわ」

 一気にまくし立てた。引くレベルだった。

「すごい。よく覚えたね」

 俺は一応、褒めた。美須々は嬉しそうに笑った。親バカってのは微笑ましい。


「Maxときは、この間ラストランだったんだよね」

 俺はテレビのニュースを思い出して言った。

「よく知ってますね!あの時は駅まで見に行って・・・」

「え、そうなの?・・・俺も行きたかったんだけど、なくなるとちょっと寂しいね」

「ええ。私も若い頃、ああいうのに乗ってスキー行ったな~って。懐かしくて」

「ほんと懐かしいね」

 俺も話を合わせた。彼女はしばらくスキーの話をしていた。その頃はこんな風になってるとは思ってなかっただろう。

 

「爽君、スキーもできるんじゃない?」 

「いいですよね。行けるといいなぁ」

「旦那さん、忙しい?」

「ほとんど出張ばっかりで」

「そんなに大きい会社なの?」

「ええ。全国に支店があって」

「え、なんていう会社?」

「〇〇〇〇。っていう所で、上場してるんですけど、知らないですよね」

「へぇ。すごいね」

 俺はてっきり地元だけでやってる不動産屋だと思っていた。

 そこまでの金持ちだったら、ああいう脂ぎったおっさんでもいいかもしれない・・・。

「いい人と結婚したね」

「どうかなぁ・・・」

 美須々は笑った。

「亭主元気で留守がいいっていうだろ?」

「そうですね・・・」

 何だか幸せそうには見えなかった。


 俺たちは東京駅から皇居外苑まで歩いた。道幅が広くて歩きやすい。

 普通はこんなところに子供連れてこない気がするけど、大宮からならちょうどいいかもしれないと思った。


 美須々はベンチに荷物を置いて、爽君に「シャボン玉やろうか?」と言った。

 2人でシャボン玉で遊び始める。

「わー、きれい」

 美須々がはしゃぐ。爽君がその透明な丸いほらを追いかけて走り回る。無心にシャボン玉を見つめている。ほほえましいけど、俺は何をしてるのかと思う。2人は他人だから。こういう時にスマホなんかをいじってたら白けるから、動画を撮っていた。後で送ってやろうと思って。


 爽君はAさんによく似てかなりのイケメンだった。美須々は毎日どんな気持ちで育ててるのかなと胸が痛む。顔を見るたびに思い出すだろう。消したいほどの嫌な過去を。


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