第4話 相談(恋愛)
爽君は4歳になって幼稚園に通うことになった。いつも、おばあちゃんが連れてってくれるそうだ。美須々はママ友を作りたくないそうで、幼稚園には行かないらしい。シングルマザーで、子供は発達障害の疑いがあるってことで・・・、現実と折り合いつけるのが難しいようだ。地元だから「あの美人の美須々ちゃんが!」と噂にもなるだろう。
気持ちはわかる。以前、ダウン症の子を連れたお母さんが、子どもに辛く当たっていてかわいそうだと思ったことがある。もちろん、子どもが一番気の毒だかが、お母さんも辛いだろう。他の家庭のように習い事させたり、英才教育したかったかもしれない。よその子供を見ると、わが子と比べてしまうだろう。それで、他人から「かわいそう」なんて言われると悔しい。みんなが持っている物が自分にないという苦悩。子供はかわいいけど、かわいがれない自分に対するジレンマ。
「人にどう思われるかなんて関係ないんだ」と言い切れる親は、多分いい親だ。
それにしても、相変わらず美須々から毎晩電話がかかってくる。あちらはシングルで夜は予定がないんだろう。俺もないけど、たまに用事がある時はLineで「今日はちょっと飲み会で電話は取れないよ」と送る。すると、「じゃあ、また明日」となる。
「恋愛の方はどお?」
俺は定期的に尋ねる。もう4年以上も会ってないんだから、美須々もそろそろ俺を諦めたらしく、色んな男の話が出て来るようになった。美人だから歩いててもナンパされる。派遣先でも誘われ、近所や親せきからお見合いの話があったり、元彼や同級生からいきなり連絡が来たりする。美人ってこんな感じなんだ~と俺は感心する。そりゃ、欲が出て商社マンと結婚したいと思うのも納得だった。彼女の好意をおざなりにして来たことが、急に惜しくなって来る。
「俺の話もしてるんだから、教えてよ」
俺のは作り話だけど。
「実は友達の紹介で知り合った人に・・・プロポーズされました」
「あ、そう。よかったね」
絶対やってるこの女と、俺は思う。俺に毎日電話して来るくせに、やることはやってる。計算高い女だ。
「もう付き合ってるの?」
「いいえ。まだ付き合ってるってほどじゃなくて・・・」
でも、大人の関係じゃないのに、プロポーズする人なんているんだろうか。
いや・・・いるらしい・・・Aさんはそうだった。もし、そうなら、相手の男に「あんた勘違いしてるよ。そんな真面目な子じゃないから」と教えてやりたくなる。
「どんな人?」
「不動産会社をやってる人で」
「へえ、社長なんだ。すごいね」
不動業界、怪しい人もいる・・・。
でも、俺としては、美須々には早く結婚してほしい。よくよく話を聞いてみると、相手の人は俺と同じく50くらいで、バツ2。子供が4人もいるらしい。さすが社長だけあって、エネルギッシュなタイプなのだろう。
「どうするの?結婚するの?」
「迷ってて。その人はバツ2なんですけど、1回は死別で」
「あ、そうなんだ。もしかして連れ子もいるってこと?」
「はい。でも、もう成人してて一緒には住んでないんです」
「じゃあ、いいじゃん」
「はい・・・」
迷ってるらしい。理由は金かと勘繰る。
そんなに好きじゃないけど、金持ちだから迷ってるんだろう・・・。
「爽は養子にしてもいいから、もう子供を作らないって言ってくれてるんです。子供が多いと遺産で揉めるからって」
「へえ、理想的じゃない?」
「はい」
5人で割っても、揉めるくらいの遺産ってすごいんだろうなと思う。億だろう。
結局、美須々はその不動産会社社長と結婚した。
写真見たけど、年齢なりのおっさん。小柄で小太り。頭髪が薄い感じの人で・・・男性ホルモンが多く、精力が
何で?金ってそんなに必要なわけ?もっと若くて、普通の人の方がいいんじゃない?何で年収500万じゃだめなわけ?と、俺は本人に聞いてみた。
「爽が将来、引きこもりとかになって仕事をしてなくても、生活できるようにした方がいいかなって・・・」
俺ははっとさせられる。母親の愛を感じた。
子供のために、脂ぎった中年のおっさんに一生を捧げるんだ。まるで鶴の恩返し。
やっぱりいい子だったんだな・・・と、俺は後悔する。
旦那に愛人がいても、全然文句は言わないだろう・・・。
でも、自分を安売りしすぎじゃないか?
自分を犠牲にして、その引き換えに得られる物って何・・・?
そんな風に何もかもやってやらなくても、爽だって、自立できるかもしれないだろ?
しかし、俺は他人だ。そんなことを言う資格なんかない。
美須々は、結婚前に仕事をやめていたが、旦那は土日も日本全国を飛び回っている。平日も飲みや接待でほとんど家にいない。いつも出張の準備をして、旦那を送り出して、やることと言ったらそれくらいだそうだ。
「家でご飯も食べないんですよ」
「随分楽だね」
「住み込みの家政婦みたい」
「旦那浮気してない?」
「たぶん、してますね。でも、いいんです。気にならない」
「好きじゃないんだ」
「いいえ。いい人だし、感謝もしてますよ」
俺は黙ってしまった。できた奥さんで羨ましくなったんだろうか。それとも、付き合わなかったことを後悔してるんだろうか。
美須々は何かを感じて言う。
「私たちって、このままずっと会えないのかな・・・」
「そろそろ会おうか。君も結婚したし」
俺たちは5年ぶりに再会することにした。
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