第3話 相談(子供が発達障害?)
結局、美須々は子供が2歳の時に働きだした。
派遣で仕事は事務。勤務先は外資系証券だったと思う。
凝りもせずに、まだ出会いを期待しているんだろう。
しかも、何と、職場の最寄り駅が俺と一緒!
わざとだろ!と思う。
証券マンと二股かけやがって、クソ!
「会えませんか?」と言われたけど、職場の近くで会うと噂になるからと言って断る。
「江田さんが働いてるビルを見ると、大きな会社で働いててすごいな~って思うんです」
っうか・・・あんた怖いよ。
「大きな会社で働いてても、いつ首になるかわからないからね」
俺はそろそろ彼女を切ろうかと思っていた。
「爽を母に預けてるんですけど、母がちょっと様子がおかしいって言うんです。全然笑わないし、目を合せないって。抱っこも嫌がるし」
「ああ、そうなんだ・・・」
急に引き寄せられる。
「他にもいろいろ気になるところがあって・・・言葉も遅くて・・・後追いもないし。赤ちゃんなのにずっと一人で遊んでるんです。普通は後追いして家事もできないくらいって言うけど、うちはそうでもなくて。発達障害じゃないかって気がするんです」
「そうなんだ。発達障害は遺伝するからね・・・小児科の先生とかに相談してみれば?早い方がいいみたいだよ。その方が本人の将来のためでもあるし」
「はい・・・。でも、どうしよう。Aみたいな、あんな変な人になったら」
「そうそうならないよ。大丈夫」
発達障害でもAさんは勉強ができて大企業勤め。新卒で入った会社を辞めないで勤めてるんだから、かなりマシな方かもしれない。一人目の奥さんとは15年くらい連れ添ったわけだし。
俺なんか、喋ってると普通に見えるかもしれないけど、転職回数がエグい。30過ぎて、このままではまずいからと長く働くように意識していた感じで。引越しもめちゃめちゃ多い。女はとっかえひっかえ。で、彼女も友達もいない。家も散らかってるし、プライベートでは時間を守れないし、お金の計算が苦手。
爽君はAさんよりひどい可能性もあるし、他人事ながら心配だった。
「俺でよかったら相談に乗るから・・・」
あ、やばい。変なこと言っちゃった。
「ありがとうございます・・・私、江田さんがいなかったら、生きていられなかったと思います」
美須々さんは感激して泣いている。
「いやぁ・・・そんな、俺何もしてないし」
会ってみようかと思ったりもする。お母さんじゃなくて子供の方と。
俺が子供の頃は発達障害という言葉自体がメジャーじゃなかった。
多くの子供の発達が見過ごされていたと思う。特に軽度の場合は。とりあえず学校に行けて、集団生活を送れていると、単に鈍いとか、落ち着きがない子なのかと親も先生も思う。俺は遅刻と忘れ物、なくし物が多くて、随分親に怒られたもんだ。小学校までは勉強もできなかった。スポーツは苦手だけど、背が高くて走るのだけは早かった。で、運動会は毎年リレーの選手。取柄はそれくらい。
中学からは様々な精神疾患に悩まされ(思い出したくないので割愛)、生きづらい人生で本当に大変だった。この50年というもの、毎日死ぬことしか考えていなかった。コロナのおかげで考え方が変わったけど。
爽君が俺みたいになったらかわいそうだと思う。
心の弱い人なら大人になるまで生きられない。発達障害の人は周囲に迷惑をかけているが、自殺未遂をしたりする人も多いんだ。
で、親のAさんはというと、実はあまり深い話はしたことがない。彼はプライベートに立ち入られることを嫌う。俺と違ってクリニックに通っていたが、自分はエリートでイケメンだからすごいんだ、という自信にあふれていたもんだ。普通の人から見たら嫌味なやつだったと思うけど、俺は彼が発達障害だと知っていたから許せた。
美須々は働き始めて忙しくなったら、電話して来なくなるかと思ったらそうでもなかった。きっと俺のことをまだ当てにしてる。だから、会うのは絶対ダメなんだ。
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