第2話

この光景には流石に驚いた。

 ー磁石だ。

 ふと、今日の理科の授業で行った実験を思い出した。先端が片方は赤、片方は青で塗ってある2つの磁石は近づけるとたちまちにピタッとくっつき、傾けるだけでは離れなかった。今のお母さんと例の車はまさにその様な関係に見えた。

 血はまったく見当たらなかった。恐らくは衝突の瞬間、車と接触したのは自転車だけだったのであろう。だから衝突の後、自転車だけが吹っ飛び、お母さんはそのままボンネットに乗り上げたのだった。

 「運のいい人。」

 ふとつぶやくと、まもなく聞きなれた二種類のサイレンの音がだんだんに近づいていることにやっと気が付いた。


 あれから、トントン拍子に事は進行した。お母さんはすぐさま救急車で近くの大きな病院まで運ばれたのだったが、その間僕はというと、警察の人にパトカーでやっぱし近くの大きな病院へ運ばれたのだった。パトカーから見る世界は意外といつもと変わりなく、相も変わらず僕には目に映る人すべてが同じ仮面をつけているように見えた。

 恐らくは、その仮面をよく見たらあるいは少しづつそれぞれに違いはあるのだろう。だがその違いは近づいてよく見てみないことには判別できないのだ。先生たちは、なぜだか僕たち生徒の顔をありのままに見えているのだと錯覚している。自分たちはその同じような仮面を被っていることにそれぞれが自覚を持ちながら……。

 だからだろうか、先生の言うことは時々とても難しい。妥協やあきらめを許してはくれないのだ。自分たちがつけている仮面をつけさせまいとしながら、僕たちはとうに仮面を被っていることに気づきはしないのだろうか。

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かいとの家族 @Umi1006

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