かいとの家族

@Umi1006

第1話


   「2009/06/15ぼく」

 目の前の光景に、何ら驚きはなかった。こんな細い一本道であんなに大きい車がまるで僕がこの自転車を一生懸命に力の限りを振り絞ってこいだかのような形相で僕をおいこしていったのだ。だから、どうしてか小学校を出てからずっとイライラしていたお母さんを、もう僕の目からは小さな点にしか見えなくなってしまったいたお母さんを轢いてしまってもなんら不思議はなかった。

 一昨日した体力測定の、50メートル走の距離と同じぐらい離れているだろうか、目の悪い僕ではぶつかった瞬間をしっかりとは見えないまでも突如車にはねられた自転車が宙に飛び、隣のブロック塀にバウンドして僕の足元まで跳ねてきた時は、流石に驚いて自転車をこぐ足を止めてしまった。

ーすごい、僕が頑張って走っても8秒はかかるだろうに。

 恐らくは2秒もかからず僕の足元まで飛んできてしまった自転車に思わず感嘆の声を漏らしてしまったが、ふと、ぐにゃぐにゃに変形した車体が目に入るととたんに阿保らしくなってしまった。

 ーそんな代償払ってまで、速く走れてもね……

 一方、お母さんのほうは僕の視界から完全に消えていた。

 自転車への関心もほどほどに、流石にお母さんのことが気になり、今では完全に停止してしまっている例の車のほうに自転車を進めた。

「噓でしょ……」

 目に入ったのは、例の車の前方のガラスにぴったりとへばりついてしまっているお母さんだった。

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