第2話 あれ?名探偵?

 待ちに待った放課後。僕は先生の「みなさん、さようなら」の挨拶に早口で返事をすると、ダッシュで傑の席へと駆けて行った。


「待てよ、これからその答えの場所に連れて行ってやるから」


 落ち着きのない僕を止めた傑。そして二人で学校を出たのだが、とうとう僕は我慢が出来なくなった。


「ねぇ、どこに行くのさ。答えを教えてよ、宝も気になるし」


 焦る僕を見ながら、傑は余裕のチッチッチを始めた。


「やれやれ、教えるのは簡単だよ?何せ名探偵が教えるんだからな。でも少しは自分でも考えてみなくちゃ」


「僕だって考えたさ。でもあるなしクイズってやったことないし、全然分からないんだよ」


「まあ歩きながら考えてみろ。ヒントとしては、あるの方に何か隠されている」


「隠されている?算数とチョークとメダカの世話とあやとりと基地ごっこに?」


「そう、なんだと思う?」


「なんだと言われてもなぁ・・・」


 僕は歩きながらしばらくメモとにらめっこしていたが、全く答えが浮かばなかった。


「・・・ダメだ、分からないよ」


 僕はとうとう諦めてしまった。今度こそ傑に答えを聞かせてもらおうと思ったのだが、何故だが今度は傑の方が困った顔をしている。


「どうしたの?」


 僕らはいつもの通学路とは違った道を歩いていた。そしてちょうど二つに分かれる道の真ん中で止まっていた。傑は左右の道を交互に見ている。どうやらどっちに行けばいいのか分からないらしい。名探偵でも分からない事があるようだ。


「仕方ない・・・」


 傑はランドセルを降ろすと、中からなんとスマートフォンを取り出した。


「わ!傑って、スマホ持ってるの!?」


 傑はちょっと恥ずかしそうにそのスマホを僕の前にかざす。


「まあね、この間買ってもらった」


「いいなぁ、僕のとこはまだお母さんが許してくれなくって」


「今は小学生でも持つのが当たり前だぜ?ほら、変な事件がニュースになったりするだろ?」


「え?住居侵入罪?」


「ちがうちがう、住居じゃなくて俺たち子供に侵入してくるヤバイ大人って感じ」


「誘拐とか?」


「そう、だからいつでも連絡取れるようにって母ちゃんが」


「でもさ、うちの学校スマホを持ってきたらいけないんじゃなかった?」


「まあそれはだな・・・。バレなきゃいいっていうかさ・・・」


 傑は突然あたふたとし始めた。さっきから名探偵の様子がおかしい。僕のイメージする名探偵は、どんな時も落ち着いていてズバッと謎を解決するイメージなんだけどな。


「それは置いといて、ちょっとこれを使わせてくれ」


 傑はそう言うと、スマホに何かを入力し始めた。そして・・・。


「よし、こっちだな」


 そう言って、自信満々に右の道に向かって歩き出した。さっきまでキョロキョロしてどっちに行けばいいか分からなそうだったのに。


「・・・ねぇ、そのスマホで調べたの?」


 僕が尋ねると、傑は決まりが悪そうな顔をして言った。


「ま、まあな、ナビってみた」


 僕は傑のその顔を見て、ふと朝の光景を思い出した。


「・・・ねぇ、もしかして、このメモの謎、スマホで調べたりした?」


 僕の問いに傑は分かりやすいほどハッとして、うっかりスマホを落としそうになっていた。その姿を見て、僕の方が今度はすべての謎が解けた。


「・・・なるほど、トイレに行くって言って五分いなくなったけど、その間にトイレでスマホを使って調べていたんでしょ」


「な、なんてこと言うんだ!?しょ、証拠があるのかよ」


「その慌てた様子が一番の証拠だと思うよ。そういえば、住居侵入罪のことを教えるときも、僕に背を向けて何かしてたようだけど、あれもスマホを使っていたんだね。ついでに言うと、洋一の謎解きクイズを解いたって言うのも・・・」


 どうやら僕の推理は当たったようだ。傑は大きくため息をつくと、参りましたと言った感じで全てを認めた。


「・・・それだけスマホが便利なんだよ。これさえあれば勉強だってゲームだってアニメだって見ることも出来るんだから」


「だよね、だから僕も欲しいんだけど、お母さんは高校生までダメだって」


「へぇ、お前の母ちゃん、お前が登下校中に何かあってもいいのかね」


「や、やめてよ、そういうこと言うの。本当にそんな悪い人が来たら怖いじゃないか」


「まあそれは置いとこうぜ。んじゃまあ、バレちまったし、このクイズの答え合わせにいくとするか」


「やった!ねえ、早く教えて」


 傑は僕からメモを受け取ると、立ち止まって僕の目の前にそのメモを突き付けた。


「ほら、あるの方の言葉の頭の一、二文字を上手く抜き取ってつなげてみ?」


「ある方の頭の一、二文字・・・?」


 僕はメモと二回目のにらめっこを始めた。今度も中々の長期戦だったけど、やがて思わず「あ!」と声が出た。


「算数の算、チョークのチョー、メダカの世話のメ、あやとりのあ、基地ごっこの基地・・・」


「そう、それをくっつけると?」


「算チョーメあ基地」


「そ、つまり三丁目の空き地ってわけだ。そこに宝があるんだろう」


 なるほどなと、僕は感心してしまった。でも、うっかり傑に感心してしまいそうだったけど、傑はスマホでこのクイズを調べただけだ。ここはこのクイズを作ったどこかの誰かさんに感心しなくちゃいけない。


「まあ同じクイズがネットに出てたから分かったんだよ。ついでに言うと、洋一の考えたっていう謎解きクイズも同じサイトに載ってた。あいつもズルしてたんだな」


「まあ洋一のことは置いといて・・・。でも、三丁目の空き地ってあそこかな・・・」


「ん?お前、心当たりあるの?ナビでは確かに三丁目に空き地があるんだけど」


「うん、多分、もうナビはしなくてもいいと思う。あそこに間違いないと思うから・・・」


 僕がぼんやりそう答えると、傑は分かったと言って、スマホをポケットにしまった。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る