デジタル名探偵
セイロンティー
第1話 さすが!名探偵!
僕は教室に入ると、六年生になってからの恒例となった朝読書が始まる前に、このことを一刻も早く彼に伝えたかった。
「おはよう、おケツ、ちょっと話があるんだけど」
おケツこと
「その呼び方はやめろって言ったろ?」
これから頼みごとをしようとしているのに悪いんだけど、僕はちょっとおケツをからかいたくなった。
「だって傑ってケツって読めるって聞いたから」
「あのな、俺の名前は親がすぐれた賢い人間になりなさいって意味で付けてくれたんだ。だからこうして読む本も探偵小説だろ?」
そう言いながら本を見せてくれたおケツの顔は本当に迷惑そうだった。さすがに僕もこれ以上はおケツ呼ばわりするのはやめて、本題に入ることにした。
「実はさ、これが朝起きたら僕の部屋の勉強机の上に置いてあったんだよね」
おケツ、いや、傑は、僕が渡したメモ用紙を受け取ると、そこ書いてある文字をわざとらしく大きな声で読み出した。
「あるなしクイズ。算数にあって国語にない。チョークにあって鉛筆にない。メダカの世話にあってうさぎの世話にない。あやとりにあってなわとびにない。基地ごっこにあって隠れ家遊びにない・・・。そこに宝が眠る?」
「何だと思うこれ?」
「あるなしクイズだろ。図書室にもクイズブックが置いてあるじゃん」
「それは知ってるけど、誰がこんなもの・・・」
「お前の母ちゃんは?」
「知らないって。でもなぁ、何か隠してる気がするんだお母さん。僕が聞いた時になんかいつもと違った」
「ふ〜ん」
「だからこのあるなしクイズの答えを解けば、メモを置いた犯人が分かると思うんだ」
「犯人って、別に犯罪じゃないんじゃないの?」
「とんでもない!僕が寝てる間にこっそりと部屋に入ったってことだよ?これは立派なじゅうきょ・・・ええと、なんとか罪?ニュースで言ってたんだけどな」
僕が困っていると、傑はなぜか僕に背を向けて、机の下に潜り込むような勢いで身体を縮ませて何かをしていた。声を掛けようとしたが、それをする前に傑はまた僕の方に向き直った。
「住居侵入罪だな。人の家に勝手に入るのは立派な犯罪だ」
得意そうに言う傑。でも、僕は素直に感動していた。
「すごいな、傑はやっぱり名探偵だ。だってさ、この間も洋一が考えたっていう謎解きクイズを解いたっていうじゃない。傑には解けない謎は無いんだよね?」
「まあな、任せてくれよ。この俺にかかれば解決まで五分もかからないね。このメモ借りるぞ」
傑は僕のメモを持ったままトイレに行って来ると言って教室を出て行った。僕は傑に任せておけば大丈夫だろうと安心していた。だって住居侵入罪なんて難しい言葉を知ってるんだもの。
五分後、傑はまた得意そうな顔をして教室に帰って来た。そして僕の所に例のメモを片手でヒラヒラとさせながら近づいてくる。
「謎は解けたぜ!」
「本当!すごいや、さすが名探偵だね。で、答えは?宝って何?」
「まあそれは放課後までのお楽しみだな」
「え?どうしてさ」
「百聞は一見に如かずって言うだろ?」
「え?なにそれ聞いたことない」
「チッチッチ、ダメだなぁもっと勉強しなくちゃ」
そう言いながら人差し指を振る傑。多分僕は馬鹿にされているんだろうけど、今は怒りよりも、この名探偵の謎解きの方がずっと興味があって、放課後がまだかと待ち遠しいのだった。
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