第39話 最終決戦

「はぁ~まさか君達と一緒に本物の邪神と戦う事になろうとは思ってもいなかったな。とはいえ浅斗君、朽木、はっきり言うと今の僕は足手纏あしでまといだ。だから正面切って戦うのは悪いが君達に任せる。僕はここで井須君の精神が入っている浅斗君の体を守りながら君達を援護するよ」


「あぁ、その方が俺も浅斗も戦いやすい。成神、井須を頼む」


「あまり後に立たせたくない人ですが、今は信用しましょう。サボらないでくださいね成神さん」


 奇妙な共闘。しかし、この事態において3人は互いをしっかりと信用していた。何故なら敵対する存在の大きさにいがみみ合っている場合では無いと理解していたからだ。


 ヨグ=ソトースは銀色の液体の球を放つ。ソノ球に触れた所は腐食し溶けていった。分厚い金属の壁さえ難なく溶かす球。触れたら間違いなく即死だ。球の直径は約5m。ソノ死の球が何個も向かってくる。

 スピードは無いが範囲があまりにも広いため避けるのが困難な攻撃。成神が魔術で軌道をずらしているが全部の球をずらす事は不可能。また、ずらせる範囲もわずかであり井須の精神が入っている浅斗の体と成神自身を守るのが限度であった。

 突如として朽木の視界を複数の銀の球がおおう。避けれない。朽木は必死に炎を放つが銀の球は燃える事も、軌道がずれる事もない。


        『死』


 の文字が頭をよぎった時、浅斗が朽木の前に立ち迫りくる銀の球に向けて手を伸ばした。

 すると朽木の炎を全く意に介さなかった銀の球が一瞬にして消した。


「我が力を消し去るとは素晴らしい。やはり、お前だけは他のまがい物以下とは違うな。後の虫けら2人は恐れるに足りない」


 ヨグ=ソトースのおぞましい声が辺り一帯に響く。


めるな。燃え死ね」


 朽木はヨグ=ソトースに向け炎を噴射するがソノ禍々しい炎はやはり当たる事なく、組織ユニオンで対峙した時と同様に本体に触れる寸前で別空間に吸い込まれる様に消えていった。


「自身の周囲の空間を歪めて攻撃をかわしているのか。出鱈目でたらめなヤツだな。ならば俺が直接触れて消滅させる」


 浅斗が飛び出そうとするのを朽木が首根っこをつかんで止める。


「待て、ヤツに近づくな。別の場所にとばされるぞ。ヤツの目的はお前だ。お前を孤立させる事ができればヤツは加減する事なく力を振るうだろう。そうして俺達を殺して何もかもが終わった後に絶望したお前をゆっくりととりこむつもりだ」


「クソ、じゃあどうすればいいんですか?このままだと完全にジリ貧ですよ」


「落ち着け。今、俺も必死で考えているんだ…」


 キレ気味の浅斗を朽木がなだめる。しかし、朽木も冷静というわけでは無かった。いや、どちらかといえば朽木自身が一番焦っていた。何故なら一番の足手纏あしでまといは現状では間違いなく朽木自身であったからだ。

 ヨグ=ソトースの言葉はおおむね正しい。ヤツの脅威になるのは浅斗だけだろう。成神はサポートするのが限界だ。直接的な脅威にはならない。そして俺は浅斗をサポートするどころかこの様に浅斗に守ってもらって足を引っ張っている。酷い有様だ。ここまで来て浅斗を助けれないのか?それどころか俺が原因でまた浅斗が傷を負うことになるのか?

 その時…

 自身に対する失望の中で朽木は思わぬ希望の声を聞いた。ソレは精神に直接語りかけられたモノだった。

 そして朽木はヨグ=ソトースに向け自分の魔力を使い切る程の炎を放った。


 ◇

 ヨグ=ソトースは苛立っていた。己の勝利は確実であり目前である。それは奴らも分かっているはずだ。それなのに何故、無駄な抵抗をやめない。特にあのクトゥグアの力を使う男。取るに足りない虫けらの分際ぶんざい鬱陶うっとうしいにも程がある。真っ先に殺してやりたいが何故か浅斗が奴をかばうのでやりにくい。

 怒りが頂天に達しそうな時、奴が今まで以上の炎を放った。

 これには流石に視界を奪われ、数秒の間だけソノ炎の対応だけに力を使うはめになったが、所詮は人間の猿真似。


「人間にしては凄まじいがモデルである生ける炎と呼ばれた邪神クトゥグアの炎には遠く及ばないな」


 時間は少しかかったが今までの炎と同様に別空間にとばした。視界をおおっていた炎が消えると奴1人が突っ込んで来るのが見えた。唯一の脅威である浅斗が動いている様子は無い。


「目眩ましのつもりだったが無駄な事を。先のが全力か。察するにもう炎を放つ力も残っていないのだろう」


 好都合だ。これで浅斗の目の前で邪魔なこいつを殺す事ができる。理解し難いがこの場でのやり取りを見るにこいつは浅斗のお気に入りなのだろう。なら、目の前でむごたらしく殺せば浅斗の精神に大きな傷となろう。精神が崩壊した人間の精神ほど容易たやすく物にできる。

 ヨグ=ソトースは何の疑問も持たずに朽木の接近を許し、念入りに避けられない距離で攻撃を放とうとした時…


「残念でしたね。朽木さんではなく浅斗ですよ」


 接近を許した人物に体の大半を消滅させられて己の過ちに気づいた。


 ◇


 宗浅斗そう あざとの体は火傷の跡は痛々しいが教会の科学と魔術によって治療は完了されていた。にも関わらず浅斗が目覚めなかったのは彼の意志と精神の抵抗による問題が大きかったからだ。

 逆説的に浅斗の体に入れられた井須晋太郎には意識があった。しかし、長い年月の間まともに動かなかった体という事と接続された生命維持装置の影響で上手く、その事実を伝えられずにいた。その中で井須は朽木達の窮地きゅうちを救いたいと思う一心で赤星と同じく精神に語りかける能力を会得した。その能力を使い一番に縁のある朽木に現状の打開策を提案したのだった。


 それは朽木と浅斗を入れ替わるという単純な作戦であった。まず朽木と浅斗井須が入れ代わり、その後に朽木井須井須浅斗が入れ替わる。


 異能は精神に宿やどるからこその作戦だった。ヨグ=ソトースが朽木浅斗の接近を本当に許すのかが最大の不安要素ではあったが


「後の虫けら2人は恐れるに足りない」


 という発言に偽りが無く、ヨグ=ソトースが朽木を完全に侮っていたからこそ勝利する事ができた。いや、その虫けらにすらカウントされていなかった井須の働きあってこその勝利というのが正しい。力なき故に全知全能の外をついたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る