第40話 決断

「馬鹿な。我が消滅するなどありえない…ありえない…」


 ヨグ=ソトースの体が崩壊していく。このありえない敗北に対して理解が追いついていないのだろう。同じ言葉を繰り返している。


「いやー本当に殺ってくれるとは僕も組織ユニオンの局長として鼻が高い」


 突然、そこに新たな乱入者が現れた。組織ユニオンの局長である。しかし、局長が何故ここに?そう疑問に思っていると


「裏切りモノが…いや、今はその様な事はどうでも良い。我を助けろニャルラトホテプ。このままでは終われぬ。我はまだ…」


 組織ユニオン局長に向かってヨグ=ソトースがそう叫びだした。邪神達の大半が封印された後も自由に動けていた唯一の邪神ニャルラトホテプ。組織ユニオンの局長のまさかの正体がヨグ=ソトースと同じ邪神という事実に唖然あぜんとなる。


「ここまできて命乞いとは往生際が悪いよ君。もうどうにもならない事は君自身が理解しているはずだよ。それに君はつまらないから興味が無いんだ」


「何だと…貴様…」


「それよりも浅斗君。この宇宙の唯一神になる事に興味はないかな?」


「何を言っているのですか貴方は?ソイツの仲間ではなのですか?」


 ソノ邪神にいきなり意識を向けられた朽木浅斗が困惑しながらも言葉を返す。


「同族みたいなモノだけど仲間では無いよ。それにもうほら…」


 ヨグ=ソトースの体が完全に崩れ落ちる。そして中から禍々しく黒く光る球体が表れる。


「権能の元である神核だけ残して消えちゃた。まぁ、これも僕の計画通りなんだけどね」


「計画だと…貴方は面白ければそれで満足ではなかったのか?」


 何かを知っていそうな成神が震えながら問う。


「面白い事をするにも計画は大切だよ成神君。まさか君と朽木君との再会は偶然とでも?まぁ、ヨグ=ソトースが倒れるかはの悪い賭けだったけどね」



「………」


「それよりも浅斗君。君がこの神核を取り込めば君はあらゆる神を上回る存在になるだろう。なにせ、時間と空間を司るヨグ=ソトースの権能と破壊と創造を司る権能の両方を持つ存在になるのだからね」


「そんなに存在になって俺に何のメリットがある?」


「世界を作り直して過去に君が夢みていた世界を作る事ができる。不幸な争いは無く、少年は普通の学校生活をおくり、仲の良い姉妹が引き裂かれる事も無い、むいていない殺しの仕事をする必要も無い、そんなifを夢物語の世界を君なら現実にできる。破壊の権能しか目がなかったヨグ=ソトースとは違ってね」


 その言葉に誰もが言葉を失う。それは確かに素晴らしい世界なのかもしれない…


「それに今の世界ではどうあれ君達は最終的には淘汰とうだされる。なにせ、今や君達が人間の一番の脅威だ。個々の力が無くともその様な存在を潰すのが得意なのが人間社会だ。君達も分かるだろ?」


 朽木浅斗は無言で黒く光る球体に近づく。ソレがニャルラトホテプが言っている神格なのだろう。ソレに手を伸ばすと…















 ソレを跡かともなく消し去った。


「昔の俺だったらその言葉に通りにしていたかもな。これは愚かな行為かもしれない。だがこいつの決断と頑張りを…なかった事にはしたくなかった。それに…いや、ともかくだ。井須だったかな?聞こえているなら異能を解いてくれ。悪いが久しぶりに俺も疲れた。後は勝者であるお前達が良いように決めてくれ」


 その声が大きく響いたかと思うと精神が各々おのおのの体に戻った。


「朽木さん。迷惑かけてすみませんでした怪我とか大丈夫ですか?」


 それと同時に誤りながら勢いよく井須が朽木に駆け寄る。


「あぁ…問題無い。それに謝るべきは護衛に

 失敗した僕の方だ」


 朽木は井須のその様子を見て安堵あんどし、優しく返答する。その目には涙があった。


「まぁ、ある意味それで上手く行ったみたいだし、2人共もっと軽く考えたらいいんじゃあないかな?」


 何故か当たり前のように成神も笑顔でその輪に入ってくる。


 問題のニャルラトホテプは


「あぁ、人間から唯一神が生まれるの見てみたかったなー。まぁでも平和な世界はつまらなそうだし、充分に面白いモノは見れたし、君達をこれからも眺めるのは楽しそうだし、今回はコレで良しとしますか。それじゃあ人間またいつか会おう。組織ユニオンの局長はもう辞めるけど、混沌の闇はいつでも君達のそばにいるよ」


 そう言い残して消えて言ってしまった。


 残った邪神の力の脅威、浅斗の処遇、組織ユニオンの今後など残った問題は山積みだが、個々の力が弱いが故に協力し合う事もできるのが人間だ。過去の因縁や過ちさえもを乗り越え、だからこそ俺達は邪神とさえ戦えたのだ。何か良い道はあるはずた。最善では無いが失敗もするかもしれないがそれでも俺達は進まなければならない。より良い道を切り開くために


    「まずは皆の元へ帰ろう」


 この物語はここで一旦幕を閉じるが俺達の苦難は更に続く。




 完

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