第34話 戦況

 戦場はこの世のモノとは思えない光景であった。数え切れない程の教会の適合者が異形化し、怒涛どとうの勢いで組織ユニオンを攻める。組織ユニオンもそれに対し全力で応戦する。

 組織ユニオン側は板川流風いたがわ るかを始めとする数少ない適合者の活躍と豊富な現代兵器の用意もあって旗色は悪く無かった。教会の総戦力とも十分に渡り合えると希望を持ち始めていた。しかし、その希望は直ぐに崩れた。


 突如としてこの混沌とした戦場には場違いなゴスロリ衣装の少女が現れた。


「さぁ、来なさい。仔山羊達こやぎたち


 少女はそう言葉を発すると何処からともなく無数の黒い塊を出現させ組織ユニオンを襲わせた。現れた黒い塊は全長が3mから6m程の大きさでひもの様な黒い触手の集合体でソノ姿はどこか樹木を連想させた。しかし、足となっている触手の先はにひづめがついており、体の表面にはよだれを垂らす大きな口がいくつもついていた。

 黒い塊の体は特殊で銃火器などの現代兵器での損傷が少なく、数が多くない魔術師や適合者をコレに対し費やす事になった。また少女はコレを際限なく召喚できるのか、黒い塊は減るどころか増えていった。

 単純な物量での圧倒。教会のマスターの1人である千原詩久羅ちはら しぐらは成神と比較すると能力の多様性には欠けるが、力だけの戦場において彼女は成神をも上回る存在であり、彼女1人で教会最強の異形軍団なのであった。


 また後衛では白衣の男がどこか禍々しい血清を適合者達に打ち始めた。


「さぁ、殺ってこい哀れな下僕共」


 血清を打たれたモノ達は爬虫類の様な鱗が体に出現し、体がより巨大化し、力を急激に増していった。

 教会のマスターの1人である蛇川育へびかわ いくは単純な戦闘力では他のマスターに到底及ばない。本来の基準ならマスターではなく、良く見積もってもマスター候補にすら入るのすら厳しいレベルだ。だが彼は素晴らしい研究成果を上げて教会の発展に大きく貢献した。それによってマスターの地位を得るまでに至った。ソノ前例の無いおぞましい研究成果が今、当に組織ユニオンに牙を剥く。


 この2人によって戦況は一気に一方的な展開に変化した。どちらか片方だけでも大きな脅威である教会のマスターが2人同時に送りこまれる異例の事態。

 加えて組織ユニオン板川流風いたがわ るかと並ぶ大きな戦力である朽木群司くちき ぐんじの謎の消失により戦力が大幅に低下していた。板川流風いたがわ るかだけでは際限なく現れる黒い塊の大群を何とか押し止めるのが限界であり、それも長くは保たない状況であった。

 この絶望的な状況を打開するには一刻も早くこの状況を作り出した2人を叩く必要があるのだが、それができる人物は誰もいない。最早、万事休すかと思われたが…

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