第31話 全面戦争
その時は突然にやって来た。いや、マスターである成神が
それでもこの地獄絵図とも呼べる光景に俺は自分の目を疑った。
数え切れない程の
「何なんですかコレはー。ヤバ過ぎますよ」
俺は混乱して今までに無いくらい大きな叫び声を上げる。異常過ぎる光景に頭が追いつかない。
「見ての通り教会が全面戦争を仕掛けてきた。それだけ成神の敗北が奴等にとって大きな衝撃だったのだろう。今回はいつものチームは関係無しで各自に
この異常な緊急時にも朽木さんは冷静に指示をしてくれている。それはそうと…
「あの‥俺は?」
この事態、俺には何ができるのだろうか?というよりも俺の処遇は‥ここにきて不安になる。何しろ異例の事態だ。あまり考えたくはないが、どのような判断がくだされてもおかしくない。
「井須君には緊急処置として簡易的な隔離用の部屋を用意したからそこで少数の護衛と待機だ。そこまでは僕が付き添う。可能性は少ないがこの機に乗じて教会が君を狙ってくる可能性も否定できないからね」
「はぁ…解りました」
思いのほか処遇が悪くなかった事の安心感とこの事態に対して何の力にもなる事ができない無力感という何とも言い表せない複雑な気持ちが俺を苦しめる。
「足でまといとは言わないが、今回はお前が活躍できそうな感じでは無いからな。まぁ、敵は俺達が食い止めるからお前は安心して待ってろ。何せ、全面戦争だ。ヤツ等もお前を狙う余裕は無いさ」
「胸を張って、そもそも君は巻きこまれた側なのよ。罪悪感を感じる必要は無いわ。だから今回は自分の身を守る事が重要な任務だと思って堂々としていて。それに私達は少なくとも井須君の無事を願っている。君が安全なら万全に戦えるわ」
中村さんと油江さんが今までに無いぐらい優しい言葉を俺にかける。それが嬉しくもあり、不安であり、悲しくもあった。この2人だって巻き込まれてこの様な冒涜的な世界に足を踏み入れた側であるのは察しがつく。それなのに俺にこんなにも気を使ってくれている。これ以上は迷惑や心配はかけられない。
俺は涙を必死に堪えながら、できるだけ凛とした感じを作り
「はい、解りました」
とだけ返事をした。それ以上の言葉を口から出すと自分の中で何かが崩れてしまいそうだった。
2人と別れて朽木さんと部屋まで向かう。
「悪いね。本当は僕が護衛に付きたかったけど、教会との戦力差を考えると難しくて。でも護衛は信用できる人達だから安心してくれ」
「……」
途中で朽木さんがそう言葉をかけてくれたが上手く返す事ができなかった。覚悟は決めたつもりではいる。
だが、親しくなった人達がこれから死ぬのではないか?もしかしたら護衛は建前で俺は邪魔だからこのまま消さるのでは?など様々な不安が頭を支配していた。朽木さん達と別れる事に
その時、突如として前方に黒い空間と共にローブの様な物で姿を覆った
「お前は…何で…」
朽木さんが戦闘態勢にはいる。護衛の人では無いという事は直に理解できた。
だが目の前のアレは桁違いだ。
「ふむ、我を知っているのか?悪いが出来の悪い信者には興味がなくてな。それに貴様には用がない。早々に後ろにいる人間を差し出して立ち去れ」
脳内に直接言葉を入れられている様な不快な感覚。俺は一体、何と対峙しているのだろうか?先程とは違う恐怖に頭が真っ白になる。
「ふざけるな」
朽木さんが怒りで声を絞り出しながら目の前のモノに対して炎を放つ。しかし、その炎はソレを燃やす事は無く、ソレの直前でまるで別空間に吸い込まれる様に消えていく。
「邪魔だ」
ソレは滑走する様に浮遊し、朽木さんに近づき軽く触れる。たったそれだけの動作で気づくと朽木さんの姿は一瞬で消えた。
「不敬、殺してやりたいところだが感謝しろ。適当な所に飛ばすだけにしてやる。あまり力を使い過ぎて守護者やヤツに勘付かれると面倒だからな。そもそも我自身が動く事さえ本来ならリスクが大きいのだ。だが使える駒がいないのでは仕方ない。結局、作ったモノの大半は役立たずだったしな。さてと来て貰うぞ」
黒い空間が俺を飲みこんでいく。そうして俺はソノ得体の知れないモノに呆気なく連れ拐われてしまった。罪悪感、情けなさを感じながらもあまりの恐怖で体が全く動かなかった。計り知れない恐怖が頭を支配する。
俺は助けを呼ぶ声、悲鳴も上げる事もできずに、ただ嫌だ、嫌だ助けてと何度も心の中で叫ぶ事しかできなかった。
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