第28話 再び
俺達は『女王』を撃破した後、人質になった人達とこの場から離脱する準備をしていた。
板川さんや朽木さんの状況が気にはなるが今は2人の邪魔にならないように一刻も早く離脱するべきと判断しての事だった。
「門の準備をするわね」
先程の戦闘で田中さんは魔力をほとんど使ってしまったので油江さんが門の魔術を発動しようとする。その時
ドーン
物凄い音と揺れに襲われた。激しい戦闘が行われているのだろうか?朽木さんと板川さんは大丈夫だろうか?不安に駆られていると
「安心して〜今、知覚機能を広げて〜他のポイントの状況を〜確認したのだけど〜2人共勝ったみたいだわ〜」
赤星さんの言葉を受け、俺達は歓喜の声を上げる。勝ったのだ。国1つ落とせる実力とも言われる教会のマスターに、
「それじゃあ、急ぐ必要が無くなったから、門は2人を回収してからだね」
油江さんが門の発動を中止する。この時、俺達は自分達の勝利を確信し、完全に油断していた。
その為、夜の闇と完全にとけこんだその迫りくる触手に気づかなかった。
「ぐっ」
気づいた時には俺はソノ異形に捕らえられていた。ソレは巨大な
「ルールを破るようで気が引けるけど、最低限の仕事はしないとね。悪いけど井須君はこのまま貰っていくよ」
「そうは行くかよ卑怯者」
瞬時に中村さんが異形の羽を狙って銃を撃った。『機械の主』が亡き今、弾は問題無く放たれその翼を貫くはずだった。しかし、放たれた弾はその羽を傷つける事なくすり抜けた。
「悪いね、この姿の僕にダメージを与えたければ魔術でも使うんだね。まぁ、今の君達に僕をどうにかできる程の魔力が残ってはいないとは思うけど、さっさと退散するとしよう。万が一の可能性もあるし、厄介なのが来たら敵わないしね」
異形が飛び立つ。
俺は触手で捕らえれた体を必死にできる限り動かすが異形の体はびくともしない。
(クソ、実体が無いのか、有るのか解らない都合のいい体しやがって)
必死にもがく
油江さんが小型に改良した電気銃。威力はお粗末だろうが成神は今、俺を見ていない。触手を緩めるきっかけになれば‥
「ギャー、熱い…熱い…焼ける…」
成神が苦しみだし俺を空中に解き放って逃げ去った。それはまるで大きな火傷を負い、その原因から離れる様なリアクションだった。この異形は光に関して異様に弱いのかもしれない。
空中に投げ出された俺はふと、冷静になる。
「ヤバい、このままだと落下死する俺」
間抜けなことに逃げ出す事に必死でその後の事を考えていなかったのである。そんな俺に再び触手が絡まる。ソレは闇にとけこむ様な触手ではなく、植物の根の様な触手だった。
「ナイスキャッチです。赤星さん。本当にありがとうございます」
「無茶し過ぎ〜でも無事で良かった〜」
赤星さんはゆっくりと俺を地面に降ろす。直に皆が駆け寄ってくる。俺は皆から心配の言葉と罵倒を受ける。その地獄でもあり、幸福でもある時間は朽木さんが来るまで続いた。その後、ほとんど崩壊したエリアで大の字に寝ている板川さんを回収し帰路についた。
「成神には逃げられたが、成果としては大きいな。何しろ教会のマスターを僕達だけで撃退したのだからな。
板川さんはルンルン気分であったがそのような甘い話は全く無かった。
何しろ板川さんと朽木さんの戦闘エリアは修復不可能と言われる程に崩壊していた。
奪還任務でその基地をほぼ自分達の手で破壊した様な結果であった。相手が悪かったという事と人質の生還を考慮しても手放しで褒め称えるのにはかなり無理があった。
それでも叱責とペナルティが無いだけ救いであったが、期待していた待遇とは違い板川さんは
まぁ、帰還して直ぐに変えの爆弾首輪をつけかえられた俺からしてみれば十分すぎるぐらいの良い待遇だと思う。あれは本当に悲しくなった。血も涙もない。本当にもう少しだけでも手心というものを‥
ともあれ、一時的ではあるが、大きな危機を俺等は退けた。成神を逃し、奪還した基地はほぼ壊滅というマイナスな結果かもしれないがそれでも大きな成果だったと俺は思う。
うん、多分、きっと、そう思いたい。
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