第26話『機械の主』

『機械の主』のポイントに到着した朽木群司くちき ぐんじはソレを見上げる。そこにはロボットアニメに出できそうな巨大な人型機械生命体が君臨していた。


「ドウダイ、カッコイイダロウ?」


 成神と思われる機械音声が響く、こんな時でも巫山戯ふざけた奴だ。その問いかけを無視して炎を放った。

 しかし、金属の体を燃やすには至らない。たとえ異質の炎であれ、ただ炎を放つだけでは熱が分散されてしまい、金属を燃やし溶かす温度までに達しない。


「クソ、最悪な相性だな」


 板川の勘にのったのが失敗だったと後悔する。熱源体である自分自身の体を直接、一点集中で当てれば可能性はあるかと考え接近を考えるが…


 ダダダ…ダダダ…


 相手の銃撃がそれを許さない。咄嗟とっさに建物の影に身を隠す。ここが格納庫がなどの建物が沢山あるフィールドで助かったと思うのもつかの間であった。


 ドーン


 大きな音と共に建物の1つが崩壊する。詳しくは解らないが恐らく、戦車などの巨大な砲弾に切り替えたのだろう。


「ザンネン、ハズレカー。ドコカナー。ココカナー」


 無機質な機械音声だがまるでゲームを楽しんでるかの様に次々と建物を破壊していく。辺りの建物が全て無くなるのも時間の問題だ。瓦礫がれきに隠れてもあの破壊力では丸ごと殺られてしまうだろう。

 プライドを捨て板川とバトンタッチする事も考えたがあちらの戦況も解らないし、下手な離脱はまとになるだけだ。

 そして何よりもコイツにだけからは意地でも逃げたくない。過去の因縁。そして今の仲間達の顔が思い浮かぶ。

 今までの戦いも困難な事が多かった。それを何とか乗り越えてきたのだ。何か方法は有るはずだ。経験を元に思考を巡らす。


「それにしても思い返せばあいつ等と一緒になってから随分ずいぶんとハチャメチャな戦い方をしてきたな」


 絶望的な状況にも関わらず、思わず笑みがこぼれる。その時、1つ策が閃く。それは成功する可能性が低く、リスクが大きいものだった。しかし、朽木は決意し直に行動にでた。


 ◇

 成神はカメラの目でその光景を見ていた。辺りに炎が撒き散らされている。隠れている朽木が炎を至る所に放っているのだろう。炎は大きく燃え広がる事は無いが、『機械の主』の付近に関しては火の海とも呼べる光景になっていた。

 ただ力を消耗するだけとも思われる朽木の行動に考えを巡らせる。アイツがヤケを起こすのは考えにくい。今の僕が生身とは違い熱で苦しむ事が無いのは恐らくアイツも承知なはずた。

 だとすれば‥


(目眩ましが目的か、この炎に隠れ逃亡する事が目的か?いやアイツは僕を絶対に倒そうとするはずだ。この炎と爆発に隠れアイツは必ず僕に接近する。

 だがそれも無駄な足掻きだ。この無数のカメラの目がそれを必ず捉える。そしてたとえその体が砲弾を溶かす熱量をもっていたとしてもその衝撃がアイツを死に導く)


 この体になって現代兵器とは恐ろしいと改めて実感する。人を殺す事に関しては魔術より余程効率が良い。人の手で作られた機械の神が神もどきを撃ち落とす。そのはずだった。しかしその成神の勝利の確信はカメラの視界と共に消え去った。


 成神の敗因は2つである。まず1つは遊びに興じた事だ。素人の無理矢理な設計であるにも関わらず、ソレを見せびらかしたいが為に機械本来の限界を超えても短期決戦を良しとせず、無茶な駆動をさせ続けたのが小さな敗因の1つである。

 そして致命的なのは熱を感じなかった事危機を感じなかった事



 オーバーヒートによる機械エラーにより、様々な機能が次々と停止してく、更に火器などは暴発して壊れていく。故にその無謀にも己に向かってくる朽木の決心の突撃をかわす事も捉える事もできずに『機械の主』は倒れた。


(まさか負けるとはな…流石に予想外だ。全く、昔と変わらず僕以上にメチクチャな奴だ…)

 ◇


 朽木は動きが止まった機械生命体の胸部に突撃して中にあるコアと思わしき物を破壊した。それによって機械の駆動が完全に停止した事を確認し、ようやく勝利を確信する。

 胸部の辺りにコアがあると思ったのはほぼ勘でしかなかった。組織ユニオンに送られてきたコイツの組み立て中の映像と成神が昔、自分に語ってたロボットアニメの設定からなんとなくコアの様な物があるならそこだろうと思い、残る力を振り絞り突撃しただけだった。

 成神の怠慢があったとはいえ、オーバーヒートから何から何まで無謀な賭けでハチャメチャなやり方だった。


「冷静に考えるとヤバいな。あぁ…でもこれくらいやらなければ出し抜けなかったか…」


 自分に対して言い訳の様につぶやく。もしかしたら、熱が籠もっていたのは自分の方だったかもしれない。

 まだ終わったわけではい。ヤツの化身を1つ倒したにすぎない。だが、それでも少しだけだが今まで上に見ていたモノに手が届いた感覚がした。

 その喜びとも感傷的とも言える感情を抑えながら朽木はその場を後にした。


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