第24話 作戦開始

 決戦当日、俺達は板川さん達の部隊(板川流風いたがわ るか田中重蔵たなか じゅうぞう赤星遥菜あかぼし はるな)と合流して例の基地まで来た。巨大なへいに囲まれた。基地はあらゆる者の侵入を拒んでいるようにも見える。


「見ているんだろう。成神、貴様の要求通りに来たんだ。人質を解放しろ」


 唯一の出入り口である門の前に田中重蔵たなか じゅうぞうさんが出て交渉を始める。

 すると突然、閉じていた門が開いて沢山の人が外に出てきた。出来た人達は虚ろな表情だが、目立った外傷などは無さそうだった。


「遠路はるばるご苦労様、君達の誠意に感謝する。一部の人質を解放した。だけどこれ以上の交渉は僕の領域でお願いするよ。せっかく、色々と準備したのにこのまま帰られたら敵わないからね」


 門にあるスピーカーを通じて成神の声が響く。俺達は改めて覚悟を決め、門の先へと足を進めた。全員が通り終えると同時にその門は独りでに閉じた。そして再びスピーカーから成神の声が発せられた。


「さてさて、ようこそおいでくださいました。組織ユニオンのトップクラスの害虫共。今までの君達の素晴らしい活躍はこちらとしては迷惑極まりなかったよ。でもそんな君達の健気な努力も結局の所は無駄な悪あがきでしか無かったという事を今日ここで僕が証明しよう」


「相変わらず、ふざけた男だ。ささっとルールを説明してよ。君の事だから普通に殺るつもりは無いんだろ」


 板川さんが成神の言葉を遮る。


「僕が格好よく決めている最中さいちゅうなのにマナーの悪いプレイヤーだ。ゲームマスターの言葉を遮るなんて。まぁ、特別に許そう。なんたって特別なゲストだしね。って言っても今回は本当に単純なんだ。残念ながらゲーム性は皆無に等しい。とりあえず、そこに落ちているタブレットを拾ってみてくれ。ちゃんとした人数分を用意したから1人一つずつ取ってくれ」


 恐る恐る、各々が置いてある手のひらサイズのタブレットを拾うと基地全体の地図マップが画面に映っており、更にその地図マップの3箇所にポインターが表示されていた。さらにポインターの上には『女王』、『機械の主』、『血塗れの舌』という短い表記がされている。


「察していると思うがこの3箇所には僕の分身体が配置されている。それを倒せば君達の勝利だ。単純で解りやすいだろう?あとこれはついでにだ」


 ガチャリ


 そう音が聞こえたと同時に俺の首輪型の機械が外れた。


「ゲームの賞金に物騒な物がついているのは気分が悪いからね。解除させていただくよ。でも安心してくれ、賞金をかすめ取るような真似は僕の矜持きょうじにかけてしないから。それに今回の目的はあくまでも組織ユニオンの現主力である君達を潰して教会の威厳を取り戻すことだからね。それじゃ、待っているよ」


 成神の声が止み、戸惑う俺達を見兼ねて板川さんが仕切り出した。


「確かにヤツにしては単純だな。さてどう分担しようか?」


 その言葉に驚き、俺は声をあげた。


「バラバラに行動するんですか?皆で集中して個別撃破の方が良いんじゃあないですか?」


「普通はそうかもしれないけど、井須君。僕達の場合はそれは悪手だ。僕も朽木も君達がいない方が戦いやすい。まきこんでしまうからね。それに強大すぎる力は連携が難しいし、互いの邪魔なるから僕と朽木は単独で戦う方が良い」


 そうだった。下手したらこの二人に殺される。それに別々の隊が上手く連携をとれるかも怪しい。足を引っ張り合いかねない。


「それじゃ、俺達は二人が闘っている間は何を‥」


「私達は主力である二人が気兼ねなく暴れられるように人質の解放に動く。その為に組織ユニオンに送られてきた映像に映っていた謎の女性を叩く必要があるだろう。アレが洗脳状態を作り出している犯人と考えるのが妥当だ。人質もそこにいる可能が高い」


 間髪入れずに田中さんが俺の疑問に答える。


「うん、そうだね。お願いするよ。恐らくだけど、『女王』って表記されている所がソイツの場所だろう。洗脳が君達にも影響ありそうなのが不安点だけど、人質がいそうな所だと僕と朽木は全力で戦えないしね。それに最悪、洗脳に関しては赤星の能力で対抗できるかもしれないし、人質の回収に田中さんの門の魔術が役立つだろう。朽木、機械の方を任せてもいいかな。僕の直感だけどそれが適任だと思う」


 その板川さんの軽い言葉に朽木さんは


「解った」


 と短い返事をした。


「よし、決まったことだし作戦決定だ。全員無事でここを出よう」


 こんな状況でも板川さんが明るくふるまってくれたおかげで、恐怖で固まりかけている体を何とか動かせる。

 今まで以上に厳しい戦い、だけどやるべき事に向け皆が動いている。自分がその歩みを止めてはいけない。

 短い別れを済ませ俺達は各々歩みを進めた。







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