第19話 展開

「なんかもう、朽木さん単独の方が強いのでは」


 キャンプ場での出来事、というか今までの事を振り返り疑問がわく。

 特にこの前の爆発に関しては神がかりな運動能力を持つ中村さんに庇われなければ大怪我は免れなかっただろう。また油江さんのバイオ装甲が上手いこと緩衝材になったのは大きかった。

 これらを踏まえても軽症で済んだのは奇跡としか言いようが無かった。


「まぁ、実質的にそうなんだかな。適合者の単独行動は原則禁止されている。精神の乱れによっては大惨事に成りかねないからな。俺みたいな監視がつくのがセオリーだ。朽木さんレベルが暴走したらどうしようも無いような気もするがな」


 中村さんが説明してくれた事は自分も理解はしている。だが、みすみす命の危機にさらされるのも、足手まといになるのもやはり好ましくはない。味方を殺してしまうなど朽木さんにとっても好ましくないだろう。例えそれが仕方の無い結果だったとしても。


「それに朽木君が万能ってわけでもないの。調査何かは私や井須君の方が適しているし、戦闘面でも周りに被害を出したく無い場合や精神的な攻撃等をしてくる相手には中村君の方が良いのよ。だから足手まといってわけではないわ。チームとしてのやり方をもう少し考えていく必要はあるかもしれないけど」


 油江さんが上手く俺の気持ちを上手く代弁してくれた。


「まぁ、朽木さんから上手く離脱する算段は考えておく必要があるな。一番なのは門の創造なんだが」


 門といえば教会の成神星斗なるかみ ほしとや潜入調査の時に田中重蔵たなか じゅうぞうさんが使っていた魔術だ。空間と空間を繋げ、行き来を可能にする魔術。確かにそれがアレば今まで比べ緊急時の離脱が楽になりそうだ。


「問題は誰がソレを習得するかってところだな。精神に負担がかかる魔術の習得は原則的に適合者には禁止されている。神格クラスや危険人物には特に。まぁ、普通なら監視者の俺の役割なんだが」


「中村君は魔術に関しては何故か才能ないのよね。不思議な事に理論の方は驚く程に優秀なのに実技の方がからっしき。正直、理解不能なレベルよ。合ってないとしか言いようが無いわ」


「適合者クラスでも必要性があるなら魔術の習得が認められる可能性はあるが。神格クラスの朽木さん、危険人物の井須は論外。この中で一番に魔術の才能があって可能性が高い油江の姉御なんだが…」


「私、過去に色々と勝手に調べたりしたせいでちょっと目をつけられているのよね。テヘ」


 わざとらしく、可愛く笑う油江さん。本当にこの人は何をやらかしてきたのだろうか。


「人員も増やしてもらえないだろうし、門の創造は夢の話だな」


 落胆し、諦めムードになったその時


「いや、それが今なら油江さんの魔術の習得の申請が通るかもしれない。ここ最近、教会の動きが活発化してきているんだ。この前のキャンプ場の時みたいに複数の強力な適合者が現れるケースが増えている。それにより組織ユニオンは規制を緩めてでも人員の強化等をしなければ戦いにならないのが現状だ」


 朽木さんの説明で可能性が見えてきた。無論、手放しで喜べる状況でない事は承知だが、門の創造があれば生存の可能性は今までよりも上がる。


「本当にー。まぁ、この際はダメもとでも申請するつもりだったけどソレは嬉しいニュースね。早速、申請しないと」


 油江さん今までに見たことがないくらい楽しそうにしている。なんだが逆に不安になってきた。変な使い方とかしないよな。最早、味方の方に恐怖を感じる



 ◇


 真夏の日本海。この日も高い気温が観測されていた。そんな中、辺り一面が死の氷の世界と化した異様な光景が広がっている。更に異様な事に巨大な2体のおぞましい異形の怪物が全身を氷漬けにされていた。

 一体は複数の触手を持った巨大な軟体生物じみた姿をした化け物。あらゆる物を溶かす消化液と10本の巨大な触手により多くの船を沈めた。

 もう一体はその軟体生物より遥かに大きいトカゲの様な姿の化け物。船を何隻も呑み込みまた1km以上も伸びるネバネバした舌で遠くに控えていた部隊にも多くの死者を出した。

 2体共に神格クラス。戦いのコンビネーションも素晴らしく紛れもなく、最強クラスの刺客に違い無かった。


「しかし、神格クラスが2体とは大盤振る舞いにも程があるね。被害は大きいし、さすがの僕も疲れたよ」


 そのおぞましい2体の異形をほふった組織ユニオントップクラスの化け物板川流風いたがわ るかは涼しい顔でそうぼやいた。


「ここ最近〜教会の動きが急に活発になりだしたみたいだね~」


 同じチームである赤星遥菜あかぼし はるなの労いの言葉が精神を介して伝わる。彼女の能力のおかげて海中の敵の探知する事ができた。また他の部隊の避難誘導も上手くいった。力まかせの能力の自分にとっては彼女の存在はとても有難い。


「逆に今までがおとなしすぎたのかもな。井須君の事が原因か、それともようやく僕達がちゃんとした敵として認識されたのか。どちらにせよ、今後は今まで以上に大変な事になりそうだ」


 もしかしたら教会のマスター達との戦いも近いのかもしれない。そうなれば今までとは比べモノにならない程の厳しい戦いになるだろう。大きな被害も避けられない。


「正直、朽木達がまた何かヤラらかさないか心配だな。まぁ、なるようにしかならないか」


 板川は一人、氷の景色の中で月を見上げ呟いた。






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