第17話 深度

「板川さん見て改めて思ったんですけど、適合者の中でも差がありすぎませんか?」


 俺は先日の凄まじい光景を思い出しながら今更ではある質問をする。


「朽木さんや板川さんのはお前とはモデルとなっている異形の格が違うからなぁ」


 それに対し、中村さんが返事を返す。


「神格クラスっていうやつですか?あんまり理解してなかったんですけど、神様の力って事ですか?」


「そうね、簡単に言ってしまえばそのようなものね」


 油江さんも会話に入ってきた。


「神の力って言っても邪神のだけどね」


 朽木さんが苦笑しながら補足する。


「人知の及ばない異形達の中でも更に強力な力を持っていたために神と信仰されてきた者の力がモデルとなっているものが神格クラスと命名されているの。朽木君が言った通り、人に害しか与えないから邪神なんだけどね」


 神も仏もいないような状況だが邪神はいると。

 うん、救いが無いはずだ。


「邪神なんていたら、それこそ世界の危機のような気がしますけど。」


「いくつかの文献によれば多くの邪神達は今は活動を停止しているみたいね。また、広い宇宙に存在する彼の者達にとってみれば人間なんてそんなに興味を引く対象では無いのかもしれないわね」


 なるほど、興味すら持ってない程に力の差があるのか。虫けら同然という事か。そこまで差があるのなら、むしろ積極的に関わってくる奴の方が変わり者だ。


「俺の能力とは比較にならないとは思っていましたが、まさか本当に神様をモデルにした力とは」


「井須君や私みたいのは独立種族って文献だと言われてたりすることがあるわ。宇宙人やUMAみたいなものかな。神格クラスと比較するとパワー不足だけど、それでも普通の人間からしたら充分に脅威だし、中には井須君みたいに異質な能力があるヤツもいるから侮れないわよ」


 確かに、実際に俺は危険人物扱いであるし、単純な力だけでの比較は愚行だという事を身を持って知っている。


「油江さんの能力ってバイオ装甲ってヤツでしたっけ?」


「そうそう、よく覚えてるわね。打撃とか炎、電気なんからも身を守ってくれるんだけど、ネバネバして気持ち悪いのが難点かな。後ね、それとは別で実は翼みたいのを出して飛ぶこともできるの」


「飛行能力ですか。翼をはためかせて飛ぶなんて憧れます。かっこいいじゃあないですか」


 空を飛ぶのはどんな感覚なのだろう。子供の頃はよく夢見たものだ。ソレがおぞましい力の一端だと知っていても少し羨ましく思う。


「まぁ、でも上手く飛べないんだなコレが。翼みないなものも地球の生物のものとは全く違うし、宇宙人の構造って本当に謎だわ。だからこそ興味深いのだけど」


 冷静に考えてみれば得体の知らない生物の力が宿っているという事なのだが油江さんは楽しそうだ。研究者のかがみというべきだろうか。いや、さすがにコレはもう変人の領域か。


「研究熱心な事は結構だけど、深度を上げすぎて暴走とかしないでくださいっスよ」


 中村さんが油江さんに注意する。深度?新しい用語だ。何だろう?


「え〜と、すみません。深度ってなんですか?」


 恐らく自分にも関係あることだろう。今後の為にも疑問はこの場で解決するべきだ。


「深度っていうのは異形化の状態を表す言葉よ。深度を上げること、つまりは異形化の状態を上げることで更に力を引き出したりする事ができたりするの。適合率とも言ったりするわね。朽木君の変身状態が分りやすい例ね」


 適合率それは前にも聞いた事があったな。確か、朽木さんは適合率を一時的に上げて変身してるとか。


「それはモデルとなっている異形に近づくという事ですか?」


 何度か見た朽木さんの変身状態を思い返す。確かにあの姿は正しく異形そのものであった。


「その通り、だから諸刃の剣ね。深度を上げるほど精神が蝕まれて人として壊れていく。結果、中村君がさっき指摘したように暴走状態に堕ちいて、やがては異形その者に成り果ててしまう人もいるわ。そう成ってしまったらもう人間には戻れないわ」


「深度を上げないようにする方法って何かあるんですか?」


 ある程度は察しがついていた事だが、改めて考えると恐ろしい末路だ。朽木さん、中村さんとの最初の任務の光景が鮮明によみがえった。


「う〜ん、力をあまり使わない事と異形関係にあまり関わらない、意識しないかな?」


「それ、無理ゲーじゃないですか。俺の場合は役に立たないと、処刑されかねないんですから」


「まぁ、異形に負けない精神力が大切ね。大丈夫、井須君は強い子だと思うわ。なんか普通じゃないって感じするもの」


「油江さんには負けますよ」


 思わず、失礼な皮肉を言ってしまった。とりあえず、落ち着こう。精神的に良くない。


「ありがとうー。でもそうね。朽木君や板川さん達には負けるわね。なんたって神格クラスの適合者なのだから」


 油江さんは元気いっぱいにお礼を言ってきた。やっぱり変人だこの人。


「神格クラスだとやっぱり、負担が大きいのですか?」


「基本的に他の異形とは比較にならないわね。精神的が保たない。神格クラスの適合者なんて規格外、異常な精神力か元々イカれているかね」


 朽木さん本人がいるのにイカれているはダメだろ油江さん。


「だから、その力をしっかりと制御できている朽木さんと板川さんは組織ユニオンにとって貴重な存在なんだよ。しかも、二人は神格クラスの中でも強力な異形を宿している。精神力は俺達とは比較にならないだろうな」


 すかさず、中村さんがカバーにはいる。朽木さんは気にしている様子は無いが、気遣いは大切だろう。まぁ、このメンバー全員がイカれていると言われたら正直、否定できないが。

 ふと、自分に宿った能力、異形について疑問が浮かぶ。精神を交換する力。この異形はこの力を何の為に使っていたのだろうか?実は他にも何かあるのだろうか?

 適合者になった時に脳裏に浮かんだ異形の姿を思い返す。先端にハサミの様なものがついた触手を持つ巨大な円錐型の巨大な不気味な生物。ソレは自分の2倍くらいの大きさでクネクネと不気味に動いている。何故だろう、以前より鮮明だ。


「井須君、ストップ」


 朽木さんが突然、俺の肩に手を置いてそう静かに言った。


「えっ」


 気づくと俺の手は先程、思い返した異形と同じ、ハサミの様な手になっていた。


「ひっ」


 思わず、短い悲鳴を上げる。それと同時にいつもの見慣れた自分の手に戻る。


「深淵をあまりのぞくんじゃあないよ。戻って来れなくなる」


 そう朽木さんは忠告した。改めて自分を蝕む異形に恐れを感じるのだった。




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