第16話 潜入開始
作戦当日、俺は予定通り予め確保されていたパーティー参加者と精神交換を行った。
「作戦が完了したら取り出す予定だがその体の体内にも爆弾が仕掛けてあるから逃げ出そうとか変な考えを起こすんじゃないぞ」
と中村さんから脅しをかけられた。この体の人もこんな事に巻き込まれるなんて運が無いな。いや、他人事で無かった。この待遇に慣れすぎて頭がおかしくなっているな俺。
招待状を見せ、本人確認と持ち物検査を無事に突破し目的の会場に入る事ができた。
(無事に会場内に入る事ができました)
(了解したわ〜。会場の様子はどう〜)
(今のところは普通のパーティー会場に見えます)
(解ったわ〜。何か異常があったり〜、困った事があったら〜教えて〜)
どのようにしてこのような通話を潜入先で堂々と行っているのか、というと赤星さんの適合者としての能力である。彼女はある程度の範囲にいる人物と精神的な会話をする事が可能なのである。まぁ、テレパシーみたいな感じだ。なのでコソコソ隠れる必要も無いし、更に会話などで困った事があったらカンニングみたいな事もできる。通話範囲に関しては心配もあったが
(精神の扱いに慣れてるからかしら〜。井須君との会話は特に感度が良いわ〜)
との事で問題無く連絡が取り合えている。ちなみに眠そうなのはいつもの事らしい。こうして不審がられずに他の参加者と会話をしながら情報収集ができた。
しかしながら、少しも教会との繋がりを匂わせる様な情報が出てこない。今のところは普通のパーティーである。パーティーとは言っても、本当に参加者は限られた数名程度しかいないが。並べらている料理は、飲食店をいくつも経営しているだけあってとても美味しそうである。
「食べ物は何が仕込まれているか解らないから手を出すな」
と事前に中村さんに釘を刺されてなければ任務を忘れて食べまくっていたかもしれない。
パーティーの参加者は全員がそれなりの富裕層ではあるものの会話から不審な点は見られなかった。とりあえず、津秋とも直接会話をしなければと考え、広い会場でターゲットを探していると。
突然、会場の明かりが消えてステージがライトアップされた。会場内の人達が一斉に注目する。そこにはこのパーティーの主催者である
「皆様、本日はお越しいただきありがとうございます。料理はお口に合いましたでしょうか?自慢のシェフ達が腕によりをかけた料理ですので是非ともご堪能ください」
津秋は穏やかな笑みを浮かべている。普通の主催者挨拶かと思っていた時
「今回、皆様には資金援助をお願いしたくお招き致しました。いや、正確にはこれは命令です」
突然、不穏な事を言い始めた。会場内がざわつき始める。
「何だそれは。聞いてないぞ」
「命令とはお願いする態度かそれが」
「ちゃんと説明しろ」
次第に各々から不満の声が飛び交う。資金援助の話はともかく、命令とは何かがおかしいと世間知らずの俺でも異様さを感じた。
「貴方が混乱するのも無理はありません。しかし、時間が
そう言うと津秋は何やら呪文の様な言葉を呟いた。すると突然、先程までヤジを飛ばしていた人達が苦しみ出した。そして大きく口を開けたかと思うとそこからか黒い不定形の塊が姿を現した。それは形を変えながら不気味に
「料理と共に貴方達にはこの子達の召喚触媒を体内に取り入れてもらいました。下手に私に逆らえばこの子達が内側から貴方達を食べてしまいます。まぁ、でも心配はいりません。私も皆様とは長いお付き合いを考えてますから要求する金額は良心的なものにしますよ。おっと…」
津秋の目線が俺に向く。この異常事態の中で正常な人間がいる事に疑問を感じたのだろう。顔からは先程の笑みは消えていた。
「全く料理に手をつけて無かった人がいましたか。予想外ですが一人ぐらいなら問題無いですね。皆さん死にたく無かったらそこの人間を捕らえなさい」
そう、津秋が口にすると不気味で黒い不定形な塊を体内に入れらてた人間がこちらに近づいてきた。
「大変です。会場内の人が体内に化け物を植つけられて襲いかかってきます」
テンパりながらも何とか必要最低限の事を向こうに伝える。
(解ったわ〜。今から行くね〜)
さて、この体の人には悪いが精神交換を解いて脱出するべきか。絶対に無いと思うが爆弾とか起動されたら嫌だし。そう考えを巡らせていると自分の周りに以前に見た事がある黒い空間が現れた。そこからか中村さん達が姿を現した。
「井須君に事前に門を繋げておいて正解だったな」
「流石ッス。田中さん。難しい門の創造もこんなに簡単に扱えるなんて」
「うわー。これは面倒な事にになっているね」
「大丈夫だった〜?」
4人の乱入者を見て津秋も事態を理解したようだった。
「クソ、
その号令に従って会場内の人達が一斉に襲いかかる。厄介な事に人質を兼ねている。どうするべきかと考えていると中村さんに無理やりガスマスクをつけられる。見ると田中さんと中村さんもすでにガスマスクをつけていた。
「お前は適合者だから効かないとは思うが念の為だ」
そう中村さんが言ったかと思うといつの間にか周囲に花びらが舞っていた。どうやらその花びらは赤星さんを中心に出場しているようだった。
突然、津秋に従っていた人達の動きが止まる。様子を見ると誰もが虚ろな顔をしている。恐らく、意識がはっきりとしていない状態なのだろう。更にその口から黒い塊の生物らしきものが流れ出ている。
「クソ、この甘ったるい匂いは何だ。体内に侵入させた子達も出てきてしまっている」
津秋が怒声を上げる。その顔はおぞましい程に歪んでいる。
その間にも赤星さんは今度は植物の様な触手を出現させ動きが止まった人達を絡め取り拘束し、回収していく。
「仕方ないですね。貴方達は私自ら殺してあげますよ」
それにより、怒りが頂点を超えて逆に冷静になったのか、先程の怒声が嘘のように再び、穏やかな口調で津秋がそう呟いた。すると先程出てきた黒い塊の生物が這いずりながら津秋の周りに集まり、津秋を包み隠した。
そしてソレは不気味な姿に変容した。ソレは
「覚悟しろ。一匹残らず食い殺してやる」
そのおぞましい声と共に料理や部屋の壁など至るところから黒い塊の生物が大量に出現し始めた。
適合者の戦闘、この様なおぞましい光景は何度も見たが未だに慣れない。しかも、今回は数名の無力な一般人をこの大量の黒い塊の生物から守らなければいけない。中々に厳しい状況だ。
「田中君、悪いが死ぬ気で門を繋いで早く皆を逃してくれ」
板川さんが前に出る。その言葉に従い田中さんは苦しそうな表情を浮かべながら黒い空間を再び出現させた。
その瞬間、黒い塊の生物達が弾丸を思わせるスピードで突撃してきた。
ゴォー
しかし、それが当たる事は無かった。その黒い弾丸は突如として吹き出した暴風によって吹き飛ばされ壁に打ちつけれた。そしてその動きを完全に停止した。
「何だ、この風は」
怪物と化した津秋が吹き飛ばされた黒い生物達を確認すると一体残らず氷漬けにされていた。
「相変わらずヤバイな。板川さんは井須、俺達も巻き込まれないうちに早く脱出するぞ」
戦闘狂である中村さんのその言葉から状況のヤバさが伝わってくる。室内の温度がみるみる下がっていくのが肌で感じる。身も心も凍っていくようだこれが板川さんの能力なのか。
井須達は
「さてと、皆は無事に脱出できたみたいだし久々に思いっきりやるかー」
最早、普通の生物ならまともに生活できない極寒と変わり果てた室内で板川は笑っていた。その目は不気味に赤く輝いていた。
「己、許さんぞー」
恐怖のあまり自暴自棄になった津秋が突進しする。大きな口を限界まで開き板川を丸呑みにしようとした時、
ズドーン
変貌した津秋の巨体よりも遥かに大きい手がソレを弾いた。
「あー、でもこの狭い室内じゃあ、片腕も満足に開放できないか」
片手のみを変貌させた板川が笑う。完全に変身してしまうとこのビルを優に超える巨人になってしまう。なのでこれでも制御した方だ。それでもパーティー用の広々とした部屋はメチャクチャで津秋だったものは見るも無惨な姿に変わり果ててしまった。
後は駆けつけてくれる応援部隊に事後処理を頼むしかない。今回は巻きこまれた一般人も多いので大変だろう。
「また色々と言われそうだな。もう少し抑えろとか。これでも
地獄絵図となった室内を再度見渡し
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