第15話 合流

「井須、お前に別部隊から任務の協力依頼がきた。上からも許可がおりているらしい。」


 中村さんはそう言いながら、勢いよく部屋に入ってきた。


「別部隊?いつものメンバーから抜けるということですか?」


「あぁ、一時的にな。まぁ、俺はお前のお目付け役として同行するけどな。何でも今、追っている件でどうしてもお前の能力を借りたいらしい」


 力を借りたいと言われるのは悪い気はしないが、自分の能力と今までのパターンを考えるに物凄く嫌な予感がする。


「わかりました。どのような任務なんですか?」


 しかしながら拒否権など無いのだ。素直に従うのが身のためだろう。少しでも自分の処遇が良くなることを信じて頑張るしかない。


「詳しい内容は俺もまだ知らない。明日、その部隊から伝えられる手はずだ」


「その部隊の人達と中村さんは面識あるんですか?」


「ウチと近い感じの部隊だな。適合者2人と魔術が少し使えるベテランの戦闘員が1人の編成だ。適合者の2人は中々の変人だな。まぁ、元々そういう連中が多いかここは」


「どのような変人なんですか?」


「明日、お前のために自己紹介してくれるだろうからその時に自分で確かめな」


 中村さんは詳しい説明をするのが面倒くさかったのか、そう言うと迎えに来る集合時間だけを伝え部屋から出ていった。

 色々と不安しかないが、とりあえず交流を広める事は自分にとってもプラスだろう。大丈夫、中村さんの言った通り、変人には慣れているはずだ。


 当日、中村さんに呼び出されて部屋から出る。手錠などの拘束具をつけられる事は減ったが、それでも見張り無しで部屋から出る事は未だに許されない状態であった。

 そのまま集合場所となっている会議室に連行される。

 中に入るとそこには40〜50代と思われるいかつい顔した身長180cmぐらいの体格の良い男性、アイマスクをして寝ている20〜30代ぐらいの綺麗な長い髪をした身長170cmぐらいのスタイルが良い女性と身長が150cmぐらいの小柄で顔が美形で正直、男か女か判断がつかない人物の3人がいた。


「始めまして、私はこの隊の隊長兼、監視役の田中重蔵たなか じゅうぞうだ。今回は協力感謝する。よろしく頼む」


 戸惑っていると男性が自己紹介をしてくれた。いかにもベテランな感じがする。喋り方もなんだか重々しい。


井須晋太郎いす しんたろうです。こちらこそよろしくお願い致します」


 自分も自己紹介をする。相手側は知っているだろうが礼儀は大切だ。


「ふ~ん、以外に普通な人なんだね。もっと変わった人物かと思っていたよ。僕は板川流風いたがわ るかだ。よろしく頼むよ」


 美形の性別不明の人物はそう名乗った。声や名前を聞いても性別の判断が難しい。それどころか年上なのか、年下なのかも解らない。


「おい、いい加減にお前も起きろ」


 田中さんに起こされて寝ていた女性がようやく目を覚ました。


「う~んと、あっ、来たんだ。私は〜赤星遥菜あかぼし はるな。よろし〜くお願い〜しま〜す」


 寝ぼけながら彼女はそう自己紹介をした。自分が今、所属しているチームもかなりキャラが濃いがそれ以上かもしれない。やはり組織ユニオンは変人が多いのかもしれない。まぁ、それぐらいでないとここではやっていけないのかもしれない。


「早速で悪いんだが任務の内容を説明したい。席についてくれ」


 そう田中さんに促され、俺と中村さんも席につく。すると近くの大きなモニター画面に一人の恰幅かっぷくの良い30代ぐらいの男性が写し出された。


「彼の名は津秋魁斗つあき かいと。多くの飲食店を経営している実業家で、彼自身も美食家として世間ではそれなりに有名だ。秘密裏の調査の結果、教会との関わりが疑われているが明確な証拠は未だにつかめていない」


「流石はやり手の実業家だけあってガードが硬いんだよね。上手いこと内部に入れたらいいんだけど。それが難しい」


 板川さんが俺を見てそうボヤく、なんか凄まじく嫌な予感がしてきた。


「近々、彼が会員限定のパーティーを開く情報を入手することができた。我々はこれをチャンスだと考え、この会場に潜入する方法を模索したが、警備などが中々に厳重で潜入は難しいと判断した。しかし」


 そこで熱く語っていた田中さんの目線もこちらを向く。ここまで来たら嫌でも察しがついてしまう。


「井須君の能力を使えば潜入できる可能性があると思いつき協力を要請した」


「私の〜アイディアなんだ〜」


 赤星さんが俺に話かける。喋り方からまだ寝ぼけているようだ。大丈夫なのかこの人。


「具体的には我々が確保したパーティーの参加者と体を入れ替わってもらいパーティー会場に潜入してもらう」


 予想していた通りの展開だ。しかし、潜入任務は初めてだが普段の任務と危険度はあまり変わらないかもしれない。冷静に考えれば今の自分に安全など無いのだ。そもそも津秋魁斗つあき かいとが黒と決まったわけでも無い。


「潜入後はどのように動けばいいのでしょうか?」


「とりあえずは、特別な行動をする必要は無い。随時、パーティーの様子や気になった事を伝達してくれ。必要があればこちらから指示を出す」


「連絡は無線とかですか?」


「いや、携帯等の通信機は持ち物検査が厳しく没収されるらしいからそれはダメだな。他の方法を用意してあるから後で教える」


 なんだろう。魔術とかかな。少し気になる。


「それと君には潜入のためにパーティーでの基本的なマナーを覚えてもらう必要がある。そのための講師も用意した。あまり時間をかけられないから悪いが厳しくするように言ってある」


 そして俺は地獄のマナー指導を受ける事となった。それに加え、入れ替わる人の情報や喋り方なども覚えなければならず、それはもう本当にある種の地獄様な数日間であった。

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