第13話 中村の過去(出会い)
単純に本人があまり人と関わろうとしなかった事と、幼い頃から非常に目つきが悪く強面の顔だった為に周りも話しかけようと思わなかったからなのだ。また、文武ともに飛び抜けて優秀だった事も周りを寄せつけない雰囲気を作る要因のひとつになっていた。
幸か不幸か、そんな中村に対して嫌がらせや、変なちょっかいを出す連中もいなかった。
「ハァ~」
窓の外を眺めながら溜息をつく。新学期の新しいクラス。周りはもう何人かのグループができている。別に一人は嫌いでは無いし、むしろ気楽で好きなのだが。さすがに自分の世渡りの悪さは問題だろうと思い、少しだけ悩む。
かといって改善する気もさらさら無い。
「面倒くさいもんな」
一人呟く、クラスでは新しいクラス委員長を決める。話し合いが行われている。もしかしたら、押しつけられるかもしれないな。そんな事を考えている間に一人の女子が立候補していた。小柄で活発そうな子だ。名前は
黒板に書かれた名前を見て改めて認識する。クラスの自己紹介でも名乗っていただろうが、他者にあまり興味を持たない中村からしたら初めて見る感じであった。副委員長はその子が推薦する流れになったみたいだ。
まぁ、あの様な面倒くさい仕事も気の合う友人同士だけでやれるなら気楽で楽しいのかもな。自分には縁のない事だろうと想像する。
「それじゃあ、中村君お願いできる?」
自分と同じ苗字だな。まぁ、珍しくもない苗字だからな、何人もいるだろう。フルネームで呼んでやれよ。
「
「ハッ、えっ、俺」
思わず、大きな声が出る。そのリアクションに周りは驚きながらもクスクスと笑い初めた。新学期そうそう恥ずかしい。
「うん、だって中村君。スポーツも勉強もできるのに、何もやってないのは勿体ないと思うの」
とんだお節介に巻き込まれたものだ。よくよく思い返してみると、コイツ1年の時にも同じクラスだったような。
「それでやってくれるの?」
クラス全体の注目が向く、とても断れる雰囲気ではない。
「解った。やるよ」
かくしてクラス注目のデコボココンビが誕生したのであった。
クラス委員とは大層な肩書きであるが、基本的には雑用係の様なものだ。学校によっては違うかもしれないが。授業の始まりの号令、体育祭や文化祭などのイベントの決め事を仕切るぐらいだ。副委員長であれば目立つ様なことは尚の事少ない。俺の考えではクラスメイトからの注目は徐々に減っていく予定だった。
「中村君、凄い。中間テスト全科目90点後半ってクラストップどころか学年トップでしょ」
このウザ絡みしてくる女がいなければ。
「そうかもな」
どう返事を返すべきが分からず、素っ気なくかえしてしまう。これじゃあ感じが悪いだろう。千原さんも他のクラスメイトも気を悪くしたのではと思っていると。
「アッハハ、さすが、私が見込んだ副委員長は言うことは違うねー」
っと千原さんは高らかに胸を張った。
「委員長も見習えよー」
「中村すげぇー。今度、勉強教えろよ」
「かっこつけてないで、少しは自慢しろよー」
以外な事に周りからも俺を称えるような声が飛び交った。千原さんを通して徐々に俺はクラスにとけこんでいた。
「次回は中村君を中心に勉強会でも開こうかしら」
「面倒くさいなぁ」
「協力しないと委員長権限で体育祭のあらゆる種目に中村君を推薦します」
「解ったよ。あぁ、そうだな委員長にもせめて平均点ぐらい取ってもらわないとな」
クラス全体に笑いが起こる。あぁ、この時は本当に幸せだった。
結果として勉強会の成果か千原さんの次の期末テストの結果はギリギリ平均点だった。俺はなんだかんだで体育祭の種目を出場可能な限りやらされた。
二学期の期末テストが見えてきた頃、千原さんに勉強を見て欲しいと頼まれた。適当なように振る舞ってはいるが、実のところ彼女は真面目で努力家なのだ。むしろ真面目すぎるぐらい。その要求に対して俺はちょっとだけワザとゴネた後に
「仕方ないな」
と返事をして。休日にハンバーガーショップで勉強を見る約束を了承した。返事が決まっているのに我ながら面倒くさい男である。まぁ、そこは年相応の男心だったということだ。いや、高校生にして子供じみた対応だったかもしれない。でも楽しかったのだこのくだらないやり取りさえも。
ハンバーガーショップにて
甘いパンケーキとイチゴオレを受け取る強面の男子高校生と巨大なハンバーガー,Lサイズのポテトとコーラを受け取る小柄な女子高校生の変わった組み合わせがそこにはいた。最初は笑い軽く罵り合ったものの、もうお互いに慣れた光景である。
「中村君は、なんでもできて凄いよね。私も勉強ぐらいはって思っているんだけど中々、伸びないんだよね~」
「お前はなんでも焦り過ぎた。せっかく余裕あるうちにやっているんだから、まず基礎をしっかり理解しろ。でないと平均点からの脱出は難しいぞ」
千原さんの地頭はそんなに悪くは無いと思う。だが、コイツは異様な焦りがあるせいで基礎をあまり理解していないのに次に進もうとするのが問題だ。
例えるなら、足し算をしっかり理解してないのに九九を覚えようとする感じだ。それは表面上はできるが、絶対に行き詰まる。テスト前の一夜漬けならその方法を取るのも解るがコイツの場合はそうでは無いのが不思議だ。
「中村くんには大切な人がいる?」
「はぁ?」
突然の変な質問に思考が停止する。
「私ね。養子なの」
「家庭関係悪いのか?」
「良い人達よ。ただ、孤児院にいた妹と別々に引き取られたのは残念だったな」
「その妹については解ることは無いのか?」
「昔の事だからね。まぁ、でもいつの日か会えた時に自慢の姉に成っていたいわね。苗字も少しでも気づいてもらえるようにギリギリまでは変えないつもり。里親からは正式な養子縁組の手続き提案されているんだけどね。」
「そうか、頑張れよ」
自分には想像できない境遇で何と返せば良いのか解らない。ただ、そこまで思われているその妹は少し羨ましくはあった。
中村はそれなりに名のある家の三男として生まれた。兄たちは皆揃って優秀だった。幼い中村もそれに憧れ努力した。才覚もあり直に結果は出たが兄達との関係は悪くなっていった。優秀過ぎる末弟の存在はこの古い家訓の家のプライドの高い兄弟達にとってはあまり好ましくは無かったのだ。兄達の自分に対する態度にあからさまな変化があったわけでは無いが、その心情は成長するにつれて察することができてしまった。
やがて、情熱は消え他者ともあまり関わらないようになっていった。
「そうだ、帰りに寄りたい場所あるんだけどつき合ってもらえない?」
「近場だったら、一緒に行ってやる」
「いいの?」
「この際だからな」
「やったー。ありがとう。珍しいね、いつもは面倒くさがるのに」
「うるさい、まずは勉強を切の良いところまで終わらせるぞ」
何となく、このような暗い空気のまま別れるのが不安だった。送っていくなどキザな
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