第11話 黒山羊の彼女(出会い)

 教会にて


「クソ、あの脳内お花畑女ー」


 成神星斗なるかみ ほしとは珍しく感情を顕にしていた。どんな厄介な状況であろうが他人事のように嘲笑ってきた。美青年の顔が珍しく歪む。見つめる先の置き手紙には


【素敵な王子様を探して迎えに行かます】


 と理解不能な文言が書かれていた。


「ハァ~、いくらなんでも自由過ぎでしょ彼女」


 溜息の後に自分に似つかわしくない愚痴がこぼれる。

 さて、楽しくない面倒ごとは嫌いではあるが、無視する事はできない。彼女は強いがとても不安定だ。野放しのまま放置すれば、状況によっては捕虜として捕まったり、教会を裏切ったりする可能性もある。そうなってしまえば面倒事の域を通り越して教会の危機だ。


「捜索に関しては僕の部下に協力して貰うことできるけど、連れ戻すのは僕自身だよな~。ハァ~こうなったら頑固だもんな彼女」


 気分が重い。溜息が止まらない。


 ◇


 場面変わって

 中村忠広なかむら ただひろは久々の休日を商店街で堪能しようとしていた。

 組織ユニオンは外出に対しては物凄く厳しい。適合者なんかはまず、任務以外での外出許可はでない。中村は適合者では無いが、それでも自由な外出は滅多に取れない。

 ちなみに中村の隠れた趣味はスイーツ巡りである。この日も事前に目をつけていた店を何店か巡る予定であった。

 男でもスイーツ好きは珍しくは無いが、なんとなくの恥ずかしさからこの趣味は秘密にしていた。しかしながら昔から組織ユニオンにいる朽木や油江などにはとっくにバレている事ではある。

 外出できない井須への土産を口実にいつもより多めに買いこむかと浮かれていた。その時


「貴方、私と恋をなさいませんか?」


 可愛らしい声が中村にかけられた。振り向くと、そこには身長は150cmぐらいでロリータファッションというのだろうか、おとぎ話のお姫様のような服を身にまとい、黒い山羊ヤギをモチーフにした変わったペンダントを胸に飾った少女が立っていた。


「子供が一人でいると危ないぞ。親御さんは?」


「失礼なお方ですね。私はこれでも17歳の立派なレディーです」


「未成年ならまだ十分ガキだぜ。それで俺になんのようだ」


「私とデート?というのをしてくれませんか?そういうのに憧れがありますの」


 綺麗な眼差しで話しかけてくる。キチガイなナンパかはたまたなんらかの詐欺の様なモノか。どちらにしろ無視が正解なのだが。


「気が済んだら大人しく家に帰るか?」


 あろうことか、中村はこの怪しい誘いにのることにしたのだった。というのも、目の前の少女の顔が昔の知り合いと瓜二つであり、放っておけなかったのだ。違うところはその知り合いは綺麗な黒髪で、目の前の少女は白銀の白髪だという点くらいだ。それと生きていれば年齢も違う。


「本当に!!嬉しいわ。狭い部屋の中でずっと夢見ていたから」


 少女は眩しいぐらいキラキラとした笑顔をこちらに向ける。どこぞのお偉いさんの箱入り娘だろうか?しかし、こんな見るからにガラの悪い俺に声をかけるとは。


「あぁ、少しだけだぞ。あと、約束はしっかりと守れよな」


「解ったわ。それよりも、貴方のお名前を教えてくれるかしら?」


中村忠広なかむら ただひろだ。お前は?」


「忠広さんね。私は千原詩久羅ちはら しぐら。好きなように呼んで」


「詩久羅。お前、年の離れた姉とかいなかったか?」


「最初にしては変な質問ね」


「あぁ、ちょっと気になってな」


「私は昔、孤児院にいたみたいなのだけど、その時には確かに姉がいたみたいだわ。ただ、別々に引き取られたみたいで姉の事はよく知らないわ。それに幼い頃ろの記憶であまり覚えていないの」


「そいつは悪い事を聞いたな。済まない」


「本当よ。せっかくのデート中に他の女性を話題に出しちゃダメじゃない。まぁ、下の名前で読んでくれたのは嬉しかったので特別に許します。フフ、以外に積極的で嬉しいわ」


 昔の知り合いと同じ苗字。まぁ、よくある普通の名字なので気にしても仕方ないのだが、瓜二つの少女を同じように呼ぶのは何だが気が引けた。

 当初予定していたスイーツが人気なカフェに誘う。想定していたよりも空いていたが、店内は若い女子だらけ。店の雰囲気もフワフワした女子向きの感じだった。世にスイーツ男子が浸透しているとはいえ、ガラの悪い中村1人ではアウエー感は否めない。千原詩久羅ちはら しぐらと遭遇した事は幸運だったのかもしれない。まぁ、年齢や格好とか不自然な組み合わせかもしれないが。20代(後半)と10代ならそこまで変じゃ無いだろうか多分。

 詩久羅は物珍しそうに当たりを見渡している。席に案内され、俺に習いお店のいち押しのトッピング山盛りのパンケーキを注文した。運ばれてきたパンケーキ見て歓喜の声を上げ、幼い子供のように頬張る姿は彼女というよりは年の離れた妹のようだった。


「お口に合いましたか?お嬢様?」


「えぇ、とても気にいったわ」


「それは良かった。しかし、ナンパなんてお嬢様がするもんじゃないぜ。最近じゃこの辺も治安が良いとは言えないしな。」


「大丈夫、私は強いもの。それこそ貴方なんかより強いわよ」


「他者を甘く見るな。武道か何か嗜んで心得あるかもしれないが、そんな調子だと痛い目を見るぞ」


 華奢な体つき、仮に習い事などで武道の心得があったとしてもダメだろう。ましてやよこしまな連中は卑怯な手口を使うことも少はなくない。


「そうですね。この様な時は男性の方を立てなければなりませんでしたね。何かあったら守ってくださいね、忠広さん」


 コイツは珍しく俺が心配しているのに話を聞いていない。想像以上に頭の中がお花畑だ。


「お前みたいなのがいたら、家の人は苦労が絶えないだろうな。今頃、心配で慌てふためいているんじゃないか?」


「そうかもしれないですわね。上手く逃げ出した反面、見つかると面倒なのよ」


 予想はしていたが、面倒ごとに巻き込まれるリスクが増えた。早いところ満足して帰ってもらわないと俺の身も危ないかもしれない。


「デート気分は満喫できたか?」


「うーん、ちょっと物足りないかな」


「また何か注文するか?あとお勧めは…」


「いや、お腹はいっぱいよ。ただもう少しだけ付き合って欲しいの。」


「悪いが、俺もそこまで面倒事に長く付き合う気は無い。デートらしいこともあまり思いつかないしなぁ」


「どこか景色の綺麗な場所を一緒に散歩するだけでも構わないからお願い」


「それで本当に最後と誓えるか?」


「誓うわ」


「解った。それぐらいなら、心あたりもあるしな」


「ありがとう。忠広さんは良い人ね」


 お代は当然のように中村が払った。詩久羅が払うと中村が余計に変に見られそうなのでこれで良かったのかもしれない。そもそも財布を持っているのかも怪しい。久しぶりに大っぴらにスイーツ談議できたので良しとしようと自分を納得させるのであった。










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