第10話 魔術

 魔術それは現代の科学によっても完全に解明することができない。宇宙の冒涜的な知識の一部。


「魔術って聞くと簡単に凄いことできるイメージがあったのですが、色々と難しい感じなんですね」


 井須晋太郎いす しんたろうは今更ながら魔術について勉強させられていた。前回の事件からやはり基本的な知識は必要だと判断されたのだ。


「ファンタジーなのを想像していたのかもしれないけど、残念な事にそんな夢みたいなものじゃ無いのよ。使用するたびに精神に大きなダメージがあるわ。それに魔術によっては大きな代償を伴う物も多々あるわ」


 油江さんが丁寧に教えてくれている。この人の知識は科学に限らず、かなり雑食であると思い知らされる。


「でも、正直なところ魔術とかって少し憧れますね。ちょっと使ってみたいかも」


「お前は危険人物だから魔術を覚えさせることはねーよ。あくまでも罠とかにかからない為の基礎知識の勉強だ」


 中村さんに夢を即座に壊される。まぁ、確かに危険人物に武器になるようなものを身に着けさせるわけにはいかないのは理解しているが、少しぐらい夢を見させてくれても良いのでは無いだろうか。


「そう言えば中村さんって魔術使えるんでしたっけ?」


「俺は魔術とはなんか相性が悪くってな。身体を少しだけ強化するヤツしか使えねぇよ。情報統制とか担っている部隊なんかの連中は記憶を曖昧にする魔術を身につけているらしいがな。一般人に見られたりすると不味いからな。まぁ、ウチだと油江のねえさんがやってくれている」


 あの人間離れしたような運動能力は殆んど素なのか。俺なんかより化け物じみているんじゃないか。


「やっぱり、油江さんは魔術を結構使えるんですか?魔術に対しての知識も豊富みたいですし」


「期待しているところ悪いけど、私も派手なのは使えないよ。中村君が言った記憶を曖昧にさせるヤツと治療関係ぐらい。私も興味はあるんだけど魔術に関しては規制が強くってあんまり深くまで勉強できないの」


「そうなんですか?それだけ危険ということなんですか?」


「身につけようとするだけでも精神が汚染されるからな。必要以上の研究は専門の部署でないとあんまり許可がでないぜ。特に適合者は精神が壊れて暴走状態に陥る危険性が大きいから普通は許可なんてでない。油江のねえさんが特殊な方だ」


 もしかしてルール無視して勝手に研究したのでは油江さん。


「やっぱり、魔導書とかで習得するんですか?」


 危険な物だと理解はしたし、自分が身につける事は無いのだろうが、やはり興味は尽き無い分野だ。


「今は基本的にはコンピューターでデータ化したので学ぶ感じね。本物の魔導書って凄く危険なのよ。現場で見つけても見ちゃダメよ。呪われたり、精神に大きなダメージを受けたりするんだから」


 もしかして油江さん魔導書を過去に勝手に見た事あるのでは?


「まぁ、適合者が魔導書ぐらいで呪われるのは稀だがな。用心するに越した事は無いって事だ」


 なるほど、だから前回の時は中村さんが狙われたわけか。


「遅くなって済まない。勉強は順調かい井須君?」


 朽木さんが部屋に入ってくる。


「上への報告、お疲れ様ッス。まだざっくりとした説明が済んだところって感じッスね」


「そうか、まぁ、少なくとも魔術的に正しく警戒できるように成る必要はあるから頑張ってくれ」


「はい」


 命の危機に関わる事はなるべく回避したい。ただでさえ、現状お先真っ暗なのだから。


「それで朽木さん、井須に関して何か上の連中はまた何か言ってませんでしたか?」


 それは俺も気にしていた事だ。組織ユニオンにとって自分の存在は最初の時よりも厄介なものになっている。

 まず教会にとって俺の生死はあまり関係無く、死体でも回収できれば良いという点。これではいざとなったら殺すだけでは不十分ということだ。相手に死体すら渡さないようになるべく跡形も無く消し去る必要がある。

 それに加え前回みたいな組織ユニオンへの侵入や襲撃が増える可能性がある。

 悲しい事に命を張って活躍し、少しでも印象を良くしようとしてきたが、それ以上に新たにできたマイナス点が大き過ぎる。


「正直な話、かなり揉めたよ。侵入や襲撃が増える事は最初から予想されていたことだからあまり問題にされ無かったんだけど、死体でさえ回収されたら不味いっていう点はかなり睨まれたな。もしもの時は責任持って僕が処理すると説得したが、さらに強力な爆弾の装着とかは義務付けられるかもね」


「それで済むなら致し方ないって感じッスかね」


 致し方無い。致し方無いのかぁ〜。まぁ、どうせ死んだら身体が残ろうが、どうなろうがあんまり関係無いか。ヤバイ、俺の精神状態とっくに手遅れかもしれない。

 しかしながら、とりあえず朽木さんが必死に説得したのは伝わってきたのでそれだけでも有り難い事だと思うべきなのだろう。


「それと井須君はこの書類に目を通すようにだそうだ」


 朽木さんから封筒を手渡しされる。開封すると1枚の紙が出てきた。手書きの文書らしい。その場で目を通す。


 @☆€#÷<〆\>@>〒>○<€#%☆>÷÷>○〆|→€>


 その瞬間、わけの解らない理解不能な言葉が頭いっぱいに広がる。俺は気持ち悪くなりその場にしゃがみ込む。


「何…なんですか…これは?」


「こんなのに引っかかっているようだとまだだまだ勉強不足かな?」


 しまった。手書きの文書は注意が必要だった。何も警戒せずに素直に受け取って見てしまった。


「朽木さんの…意地悪…。やり過ぎです…よ」


「いやー、ごめんね。でもこれも上からの指示だし、君自身のためにもこれぐらいの警戒心は身を持って勉強する必要があるんだよ」


「うぅ…確かに身を持って学びました」


 納得いかないところもあるが自分の無警戒さ、学習能力の無さも否めない。今回は甘んじで耐えよう。


「それにしても流石さすがに適合者になっただけはあるね。それぐらいで済むなんて。これなら井須君は並大抵の魔術には耐性あるって上にも報告できるよ」


 笑顔で話す朽木さん。

 おいまて、かなり苦しいんだが、いったいどんだげ危険な物だったんだよ。やっぱり、この組織ユニオンはまともじゃない。


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