第9話 首無し殺人
「しかし、見事な断面でスッね。こんなの余程の居合いの達人でもない限り無理ですね」
「中村君でも難しいとなると適合者による異能力での殺害の可能性がやっぱり高いと僕は思うね」
過去に様々な現場を実際に見てきた
「現場の状況も不自然だもんね。遺体の周りには血がなく、切断された頭部も見当たらないってのはあきらかに異常だわ」
チームの紅一点であり、天才技術者の
「井須、お前もなんか意見あるか?」
「俺は特に…無いです」
慣れない死体の写真を見て今にも吐きそうになるのを必死で耐え、なんとか中村さんに返事を返す哀れな青年こと
「さすがに慣れないうちはキツイか」
「朽木さんは甘やかし過ぎるんスッよ。いい加減にこれぐらい慣れてもらわないと。それにこの間の化け物よりは幾分かマシッスよ」
「それはそれ、これはこれです…。人間の形がしっかりと解る分くるのもあるんす……。それにこの間の化け物を俺は最後までよく見ていなかったですし」
前回はほとんど石化した状態だったので幸運にも?自分はおぞましい化け物の姿はあまり見ていない。中村さんいわく、今までで1位2位を争うぐらい醜悪な姿だったとか。
ちなみに今回の任務の背景を端的に説明すると
仕方なく、確保できた他の団員から話を聞き少しでも情報を集める事になり、まずは軽い尋問がその場でおこなわれた。その最中に団員の一人が不自然な死に方をした。代表の人物、尋問中に死んだ団員も頭部だけが消え去って死亡していた。それ以外の外傷は無く、争ったりした形跡も無い。
その団員に尋問していた人いわく。
「自分もわけがわからないんです。突然苦しみ出したので応援を呼ぼうとして一瞬、目を離したら頭が消えていたんです」
との事、ちなみにこの時の目撃者は一人しかいない。なんでも想定以上に団員がいたらしく、人手が足りなかったらしい。口封じの為のなんらかの呪いなどがかけられていた可能性もあるとして調査が行われたが、死体からは少なくとも既知の該当する魔術の痕跡は発見され無かった。
また、他の団員達に対しても魔術的な気配は感知され無かった。しかし、適合者の独自による異能力に関しては感知する事が難しい、また教会独自の魔術で
さて、嫌な予感しかしないのだが早いとこ自分の疑問を解決しよう。
「あの……、その取り調べが何で俺たちに回ってきたんですか」
では何故、この隊に今回の取り調べを行う命令が回ってきたかというと、正直なところ察しはつくのだが……。認めたくないのが本音だ。
「あぁ、それなんだが井須君が団員と精神交換をして体を入れ替えれば、もしかして呪いとかが上手く発動しない可能性があるかもしないから試してみろとのことだ」
察してはいたが朽木さんから通達されるある種の死刑宣告。解りきっていたが俺に人権無さ過ぎない?
「何それ、なんの根拠も無いんでしょ。ワンチャンに命かけ過ぎじゃない」
油江さんが反論してくれるのは心底ありがたく、嬉しいのだが俺達に拒否権は無いのだろう。
「少しでも、異常が見られてら直ぐに精神交換を解いて良いとの事だ」
なんの気休めにもなら無い言葉を朽木さんは続ける。本人も本意ではない事は雰囲気などが読み取れる。
「仮に死んだとしても死刑候補の井須なら問題無しってのが上の考えッスね。クソだが理にかなっていやがる。しかし、そうまでしても聞き出す価値のある情報があるのか。神の手の子供達の会は今回で完全に壊滅したんですよね」
中村さんのこの様な歯に衣着せぬ言い方は周囲に反感を買うかもしれないが、俺自身としては互いに余計な気を使わない関係は嫌いで無いし、なんだかんだ気にはかけて貰っていることは自分もよく知っている。
「まぁ、そうなんだがなんでも代表の
単なる口封じかもしれないが、何かを見落とした時の代償は大きい。それ程までにこの世界は理不尽であることは全員が理解していることだろう。
兎にも角にも、拒否権は当然のように無いわけであり、この人権なんぞを全くもって無視したようなクソの様な作戦は実行されるのであった。
当然のように拘束具をつけられる。もう、逆になんの抵抗も感じ無い自分が怖い。
小さな部屋に入れられる。近くには同じように拘束された人物、取り調べされる団員の一人だろう。部屋の中に他に人は話を聞き出す朽木さんと見張りの中村さんがいた。油江さんには部屋の外からカメラを通して部屋を観察して異常が起きた時の為に備えてもらっている。
普段つけている手袋が外され団員と思わしき人物に触れさせられ精神交換が行われる。
入れ替わった相手は当然、混乱はしたみたいだがなんとか落ち着かせ話を聞き出す。
コレを何人に対しても行った。
結果を言うと取り調べは問題無く終わった。いや、終わってしまったと言うべきであろうか。当然のように中々、口を割らない連中もいたがやはり朽木さんも中村さんはこのような取り調べに関してもプロなのかは上手いこと脅しなどをかけ次々と口を割らせていった。
俺の体が使われているので俺もかなり精神をすり減らすはめになった。しかも、複数人に対して行ったのでかなり疲れた。まぁ、突然、頭部が消えるという事態に襲われたかっただけ幸いと思うべきなのか。
だが、これだけ苦労したのにも関わらす、成果は無しに等しかった。
団員達から有益な情報は得られ無かった。強いて言えば代表の
だが、この情報に関しても事前に調べられていた情報の裏付けにしかならない。そもそも、そのような噂があったからこそ
これでは体を入れ替えたから大丈夫だったのか、それともそもそも有益な情報を持っていない連中だったから大丈夫だったのかさえも解らない。なんとも残念な結果になってしまった。
まぁ、俺としてはなんにも起こることなく無事に終わったのは良いことなのだが。
「何事も無かったの嬉しいが、成果も無しか」
「マジで無駄骨だったッスね。口封じは最初の二人で済んでいるってことッスかね」
朽木さんも中村さんもさすがに疲れたようだ。しかし、一向に謎は深まるばかりだ。
「失礼します」
沈んだ空気の中、新たなる訪問者が扉を開けて入ってきた。
「すみません。資料に漏れが有ったらしく、今更ながら届にきました」
現れたの最初の資料にも記載が有った頭部が消えるのを実際に目撃した人物、確か名前は
「今更かよ。まぁ、それにしてもわざわざ持って来るなんて面倒なことしなくてもデータ飛ばしてくれれば良かったのに」
中村さんが対応する。数枚の紙の資料が手渡された瞬間、中村さんはソレを見もせずに丸めて朽木さんに投げ渡した。
「えっ…」
思わず、俺と師陸さんは同じ反応をする。さらに中村さんは突然のことで固まっている師陸さんに飛びかかり、その場に押さえ込んだ。
「何しているんですか中村さん。いくら苛ついているからって、失礼過ぎますよ」
俺は混乱しながら中村さんに叫んだ。ふと焦げ臭い匂いがしてきた。振り向くと朽木さんがさっきの資料を燃やしていた。
「えっ、えー、朽木さんも何やってるんですかー?」
中村さんはともかく、普段は温厚そうな朽木さんも変。どうなっているんだ。
「落ち着いて聞いて、井須君。中村君が今、抑えている杢師君は偽物か操られている可能性が高いわ」
油江さんが混乱する俺に対して今、起きている状況を優しく解説してくれる。
「えっ、どうしてそんなことわかるんですか」
確かにそれなら、中村さんと朽木さんの行動には納得がいく。しかし、そんな怪しい素振りは見られなかったような?長年の付き合いで解るクセとかか?
「ここでは紙の資料はご法度なのよ。特に手書きの文なんて論外。機械などを通してデータ化し、実物を直接見ないようにするのがルールなの」
「そうなんですか。初めて知りました。確かに最初の資料もデータで端末に送られてましたね」
「魔術的な細工による
なんて恐ろしい世界なんだ。てかそんな大切なことは最初にしっかりと教えてくれ。
その時に中村さんに押さえつけられていた
「アー、クソ。せっかく思惑通りにターゲットに接近できたのに。不自然でも無理やり見せるべきだったか」
その巨人は不気味な声で喋り始めた。
「大方、俺らの中の誰かと入れ替わって井須を誘拐するつもりだったか。さっきの手記がなんらかのトリガーってところだな」
中村さんは立ち上がり、朽木さんと共に戦闘態勢にはいる。目の前の巨人は確かに恐ろしい姿だがこの二人には敵わないだろう。相手もそれについては直ぐに理解し逃走を図ったが、背後の扉に電流が流れている事に気がつき足が止まる。
「もしもの時の
それは本当は俺の逃走防止の為の
巨人も
「いやー、僕だとやり過ぎて捕獲が難しいから助かるよ」
ソレを見て朽木さんが中村さんに声をかける。
「無駄に基地を荒らすわけにもいかないッスからね。これぐらいなら任せてぐださい」
倒れた巨人を見て俺は悟る。どんなに理不尽な待遇でも下手に逃走を企てると俺もこうなると。いや、俺の場合は即殺か。全くもって笑えない。
その後の取り調べ?拷問?により巨人の正体はやはり
襲撃時、彼女は他の団員と入れ代わり逃走を図ったが失敗し捕獲される。その時に暗示を
というのが事の経緯であった。
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