第3話 異能力よりも現代兵器

 成神の襲撃の後、俺は拘束具を外してもらうことができた。俺は組織ユニオンの戦力として働くなら一定の行動の自由を与えるということになった。能力者はそれだけ貴重で危険な存在だと説明された。

 まぁ、表向きはそうでも大方は前回のようなおとり、人質というよりは盾代わり役わりだろう。後は場所の特定をされない為の処置でもあるかもしれない。

 それでも、世界の破滅をもたらすかもしれない存在に対しては破格の待遇だし、拘束具を外してもらえるなら何だってすると思うぐらい監禁生活で精神が病んでたので俺は2つ返事で了承した。

 今は拘束具の変わりに首輪みたいのがつけられている。万が一のためのGPSと言われたが多分それこみの爆弾だ。警告も含めあえて解りやすい物にしているのだろう。

 俺の配属されたチームは俺含め3人。後で追加で人数を増やす予定だが人手不足らしくとりあえずはこれでいくらしい。チームメンバーを説明すると

 朽木群司くちき ぐんじさん。この人は俺を救ってくれた?炎の異形の鬼の正体だ。俺と同じ適合者であり、その中でも神格クラスという何か物凄いヤバイ分類に入るらしい。組織ユニオンの中でも発言権がある方らしく俺を処刑しないように強く説得してくれたのもこの人らしい。何でそこまで気にかけてくれたのか解らないがもしかしたらこの人も適合者として似たような苦労とかがあったのかもしれない。

 もう一人は中村忠広なかむら ただひろさん年は22歳で身長は170cmぐらい。朽木さんが優しいサラリーマン風なら中村さんはヤンキー上がりのサラリーマンみたいな感じだ。キチンと整えているようでどこかダラシのない感じがある人だ。この人は適合者では無いらしいが武器の扱いが上手く立派な戦闘員らしい。朽木さんと俺の見張り役でもあるらしい。


 教会によって作られた適合者のなりそこないが多数暴れているとの報告があり、その殲滅任務が俺達に与えられた。力に適合できなかった者は死んだり自我を失った完全な怪物と成り果てたりするそうだ。任務への移動中の車内で朽木さんが教えてくれた。

 場所は人気の少ない海辺だった。すでに別部隊により人が入らないように封鎖されていた。そこには生臭い悪趣味を放つ魚人のような怪物が数十体、玉虫色たまむしいろの気持ち悪いスライムのような化け物が数体いた。説明はされてはいたが俺はその光景に吐き気がした。とてもアレ等が元々は人間だと信じられない。もしかしたら、俺の最終的な運命もあのような化け物なのだろうか。


「今回ぐらいで慣れとけよ。でないとやっていけねぇぞ」

 

 俺の様子を見て中村さんが声をかけてきた。


「ハイ。大丈夫です」


「かわいそうだけど、アレはもう殺すしかないね。僕一人で大丈夫そうだから、中村君は井須くんの見張りお願いしてもいいかな」

 

 朽木さんはそう言いながら炎の鬼の異形の姿になった。この姿は一時的に適合率を上昇させる事で化け物の力を引き出す事でなっているらしい。ただ加減を間違えると精神が壊れ化け物になり果てるみたいだ。


「了解ッス。それでよろしく願いします」

 中村さんが軽い返事を返すと朽木さんは直ぐに化け物の集団に向かって行った。


「朽木さん一人で大丈夫なんですか」

 

 俺は中村さんに問いかけた。


「あの人は神格クラスなんでアレぐらいの化け物なんともないよ」

 

 その中村さんの言葉通り、距離が離れていても朽木さんが圧倒しているのがわかった。数がいるので時間はかかるだろうが、負けることは無いだろう。


「中村さんは朽木さんとは長いんですか?」


「それなりに」


「化け物に慣れる良い方法ってありますか?」


「死んでも慣れろ。てかお前もバケモンだろう。」


「怖いとか思わないんですか?」


「化け物に関してならあまり思わない」

 

 ヤバイ会話続かないし、気まずい。そう思っていると後ろから一人の青年が現れた。人払いをしていた部隊とは装いが違い明らかにイレギュラーな存在だとわかった。服に沢山の血がついている。


「ゴミ捨処理とか雑用面倒くせーと思っていたが思わぬ幸運が舞い込んだな」

 

 青年はそう言うと高さ10mぐらいの巨大な魚人のは姿に変貌した。


「教会の適合者か。それ以上動いたらコイツの頭を吹き飛ばすぞ」

 

 中村さんが俺の頭に銃を向ける。まぁ立場的には正しい行動なんだけど。やっぱり何か悲しくなる。


「残念だったな。ある程度体が残っていれば死体でも良いとのこと」


「あぁ、例の禁呪か。それは面倒なことを」


 中村さんと巨大な魚人の会話を完全に理解したわけでは無いが、俺に盾の役割としての価値も無いことは理解できた。最近の俺氏、悲報しかない。

 魚人の大きな手が俺達に向かってくる。つかまれると思った瞬間。魚人の叫び声が響いた。巨大な指が周りに落ちている。目の前には刀を構えた中村さんが立っている。


「肉体強化の魔術か。小賢しい。」


「正解。まぁ、俺は魔術と相性悪いみたいで

 それぐらいしか使えないんだよな。井須、朽木さんどうも囲まれてて遅れそうだからこの場で俺が殺る。お前はそこの岩かげに隠れてろ。逃げたら殺す」


 俺は言葉通りに岩場に身を潜めた。しかし本当に中村さん一人で大丈夫なのだろうか。相手は巨大な異形の怪物。対して中村は肉体強化の魔術はあるらしいものの普通の人間。かといって俺がいても足手まといだろう。どうすれば。


「ふざけるのもいい加減にしろ。ただの人間一人が俺に勝てるとでも。俺は選ばれた人を超えた存在になったんだぞ。」


「一つ教えてやるよ。デカブツ、神殺しも怪物殺しも英雄ニンゲン様の仕事なんだよ」


 その言葉でキレたのか。怪物は中村さんめがけて腕を振り下ろすが躱され腕を何回か切りつけらる。次に怪物は口を広げて襲いかかる。鋭い牙、人間をいともたやすく貫く多数の凶器が迫りくる。中村さんははそれも呆気なく躱すと同時に口の中に何かを投げ込んだ。そして頭に飛び乗り刀を刺して口を無理やり閉じさせた。数秒後爆発が起こる。

 投げ入れたのは手榴弾。手で扱える小型の爆弾だが殺傷能力は十分またその脅威はその飛び散る破片にもある。物によっては弾丸なみの威力で飛び散り人間をズタズタにするらしい。それが口の中で飛び散るなど怪物であれ悲惨だろう。怪物は動きが少し止まったがまだ倒れない。その間に中村さんは俺の所にきてある作戦を話した。

 怪物が意識を取り戻したと同時に俺と中村さんは別方向に走り出した。怪物は混乱したものの本来の目的である俺を捉えようと俺の身体の方を追いかけてきた。怪物は直ぐに俺の身体に追いつき捉えようとした。


 ここ数日で俺の能力で判明したことは身体を直接触れた人物と精神を交換できる。しかし強力な適合者の場合は相手に拒否権がある。また元の身体に戻るのは触れなくても自分の任意のタイミングで可能である。


「こんなひ弱な身体でもデカブツを倒せるっていうのが現代兵器のいいところだよな」

 

 俺と精神交換していた中村さんが目的の場所くるまから取り出した物を放った。

 ロケットランチャーは恐らく歩兵武装では最強クラスの威力を誇るものだろう。高速で走る巨大な弾丸は脅威的な衝撃を与え、さらに大きな爆発を引き起こす。頑丈な戦車さえ破壊する現代の魔弾を油断していた怪物はもろに受け倒れた。

 それを確認して途中からUターンして戻ってきた中村さんの身体に入っていた俺は精神交換を解いた。元の身体に戻った中村さんは直ぐに倒れた怪物の喉を刀で刺し殺した。


「案外お前の能力は使えるかもな。現代兵器には劣るけど」

 

 そう冗談を言いながら目の前の狂人かいぶつはにこやかに笑った。


 後々でこの人は神格クラスの討伐数などもトップレベルでだからこそ俺や朽木さんがここまで自由にできるのだと知った。

 味方の殺傷力がエグい、俺の苦難は続く。

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