第2話 鍵となる者

 俺は更に目隠しと耳栓もされ完全な監禁状態にされていた。どこかの建物に運ばれたようだが正直良くわからない。

 なんか夢にまでも見た異能力者に目覚めた見たいだがこんな状態はご面下げ。今にも狂いそう。闇堕ちしそう。僕たちと一緒に世界を救ってよなんて展開実在しないのかよ。

 そう考えていたところ顔の拘束具が唐突に外された。目の前には少し年上だろうか美形な顔立ちをした青年が立っていた。身長は170cm後半ぐらいだろうか。真っ白な広い部屋に自分とその謎の青年しかいないみたいだった。


「やぁ、元気かい。気分はどう?」

 場と状況にそぐわない明るい声で青年が喋り始めた。


「気分が良いとはとても言えないですね」


「こんな状況でも皮肉を言える余裕あるんだ。君って本当に一般人?」


「さぁ、どうなんでしょう。今までは自分でもそう思っていたんですけどね」

 

 少なくとも普通の生活に戻れる気はしない。


「ははは、そうだね。もう普通の人間とは言えないね。それに今君は教会にとって重要な存在だしね」


「教会?」

 

 また新しいキーワードが出てきた。謎が増えていく。


「あぁ、そうか君はまだ何も知らないのか。それは確かにかわいそうだな。よし、特別に僕が説明してあげよう」


「お願いします」

 

 こんな変なヤツの説明が信用できるものとは思えないがとりあえず何かの手掛かりにでもなれば。


「昔、異形の者について研究をしている者達がいた。それはやがて教会と名乗るようになった。教会は最初は信仰心から異形の者の研究をしていたがやがてそれを自分達の力として取り入れようとするようになった。そしてその研究は一様の成功を得た。極一部の適合者に限るが異形の力を取り込ませることができるようになった」


「それが俺が得た力なのですか?」


「そう、教会はこの力を使い世界を自分達の都合の良い世界に作り直すことを目標とするようになった。しかし、教会内でこれに反対して人類の為にこの力を使うべきだと言う集団が現れた。その集団はやがて組織ユニオンと名乗り教会から独立していった。君が今監禁されているところは恐らく組織ユニオンの施設の一つだね」


「じゃ、俺は能力者として2つ勢力から狙われているわけですか?」

 

 話しが正しければ今の俺の状況はどちらの味方になるか解らない危険人物としての扱いなのだろうか。


「特に君の場合はさらに事情が特殊でね。教会側からしたら長年の夢が叶う鍵となる存在なんだ」


「意味が解らないです。俺の宿した能力がそんなに重要なのですか?」

 

 恐らくは他者と身体、いや精神を入れ替える力が俺の能力。これをどうするつもりなのか想像ができない。


「実は教会は世界を壊し作り変える異形、いや邪神の力を宿した能力者を作ることに成功したんだけど組織ユニオンの妨害で酷くやられてしまってね。何とか命を取り留めたものの中半死んだような状態で目覚めることは無いみたいなんだ」


「つまり俺の能力でその能力者の精神を移し替えて復活させるのが教会の狙いということですか?」


「大正解。幸いにも能力は肉体でなく精神に宿るし、君が拒否しようが催眠なんなりで無理やりやらせるのが教会の方針」


「それじゃ、組織ユニオンの方はそんな俺を保護して守ろうとしてくれてるわけですか」


「残念なことにそれはちょっと違う。組織ユニオンも君に対しては2つに意見が別れている。処刑か保護か。保護といても人質としての意味もあるかもね」

 

 青年の話した内容は正直、信じたくないが嫌なくらいに筋が通っているし、理にかなっている。しかし、今の会話で新たな疑問が生まれた。


「その情報は俺に話すのはどちらの陣営でもメリットになら無いと思うんですけど、貴方は何がしたいのですか?」


「最初に言ったように何も知らないのはかわいそうだと思ったから話した。あと僕は僕が面白くなると思ったように行動するだけさ」


「よくまぁそんな勝手が許されますね」


「僕には色々と力があるがゆえだね。大抵のことはできるし。そう言えば自己紹介がまだだった。僕は教会のマスターの一人、成神星斗なるかみ ほしと。君を回収するため組織ユニオンに侵入しました」

 

 急展開過ぎる状況に混乱し何も言い返さない俺に対し成神は淡々と話し初めた。


「いやぁー。狂子ちゃんが君にしたマーキングが残っていて助かったよ。組織ユニオンもあまいね。魔術の痕跡はちゃんと調べないと。まぁ、それでもだいぶ薄くなってたんだけど僕レベルなら門を問題無く繋げれたよ」


「俺に何をする気ですか」


「それはさっき言った通りだよ。君には世界を作り変える協力をしてもらう。心躍るだろう。それにここにいるよりもしかしたら待遇はいいかもしれないよ。まぁ、どちらにせよ君に選択肢なんて無いんだけどね」

 

 成神の前に黒い空間が現れる。


「門の稼動も済んだし呆気あっけないけどこれで終わりだね」

 

 成神が俺との距離をさらに詰めようとした時、見覚えのある炎の異形の鬼が成神に殴りかかった。


「クソ。あますぎると思ってはいたが罠かよ。おとり作戦とか倫理に反して無いですか」


 寸前でかわした成神が叫ぶ。周りにはいつの間にか武装した集団が駆けつけてきていた。


「それにしても朽木君か。色々な意味で相性が悪すぎる。悔しいが引くしかないか」

 

 成神は異形の鬼を睨み、黒い空間に消えていった。黒い空間は成神とともに直ぐに消えていった。


「逃したか。想定以上に門の創造が速すぎる」


「もっと近くに配備していた方が良かったのでは」


「いや、これ以上はさすがに感づかれる。」

 武装した集団がそのような会話をしている。成神が話していたことは全くの嘘では無いらしい。現に俺はおとりとして使われたのだ。

 察するに俺の危機は続く。

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