ここに四日また五日
ここにいよっかまたいつか
死について思う。たぶん俺は、苦しんで死ぬ。痛みでのた打ち回った末、殺してくれと叫びながら喉を詰まらせるかもしれない。老化による認知能力の低下で何が起きているのかもわからないままただ迫りくる恐怖に震え続けるかもしれない。誰かに殺されるかもしれないし、自分のうっかりで死ぬかもしれない。首を裂かれ肺を焼かれ内臓は破裂し全身が腫れあがり、やがて虫や動物に貪られながら死ぬのかもしれない。病に冒され二百何十本ある骨の全てがキリキリと痛み、毒に汚染された血液が体中を駆け巡り脳の髄から末端神経まで灼熱に焦がされるような苦しみを味わいながら死ぬのかもしれない。ただ、運よく痛みも恐怖も感じる前にポックリ死ぬかもしれない。
どうなのだろう。あいつとの話を思い出す。永劫回帰だったか。自分はこの姿で何度も生まれ変わる。あるいは意識の同一性の話をしたっけか。全ての意識は同じ領域に存在しており、誰もが本質的には同じ存在だと。だが、プロトタイプは同じでも与えられた要素は異なるのでどこまでも違う存在だとも言えるという話もした。
俺は死ぬ。それは確定事項だし、生まれ変わろうが不老不死になる手術を受けようが、俺の身体は何かしらの力によって不死化するまでは死ぬものとしてできている。そうした中で、一個体の記憶が一続きになっていなくても別の誰かと同様の人格と見なすことのできる可能性をこの宇宙は孕んでいる。魂は不滅だと、そう叫ばれる。ならばその魂は恒河沙那由多の苦しみを経験していくのではないか。無限に思われる螺旋の内で仏の魂も幾度となく罪人の悲嘆をその身に受けてきたのではなかろうか。でなければ、どうして万人を救うことができる? その人の苦しみも知らないで。
だが、人生なんて所詮は一過性の熱病のようなもので、人が死ねばその肉体を構成していた物質たちはけろりとして去っていくのかもしれない。二度と現れることのない唯一無二の存在で、どれほど似通ろうとも決して交わらない孤高なのかもしれない。
「今日の夕陽、なんだか綺麗だね。太陽が何かを成し遂げたような顔をしてる」
「確かに、綺麗だ」
それでも願わずにはいられない。この二人の永遠を。この世界の永遠を。だからあいつは永劫回帰を唱えているだろうか。いや、あいつにとっては永劫回帰もなんだか面白い考え方の一つでしかないんだろう。
俺は死ぬ。死に続ける。もし俺が唯一でも、俺が死んだあとに俺みたいな奴がこの世界に生まれるはずだ。きっと、これまでもそうだったのだ。ならば、その俺みたいな奴があいつみたいな奴に会うことだってあったし、これからもそうなることがある。そしていつの日かその二人が語り合う時が訪れる。
どれほどの苦しみが繰り返されようとも、そう、俺は望んでいる。
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