第29話 一人立ち
2022年5月4日
直接言われた訳ではないけれど、この頃から先生の指示は減っていった。いずれは彼とのやり取りも私ひとりでやらないといけなくなる。先生がもう私ひとりでも大丈夫、任せられると思ってくれているような気がして、私からその事について触れることはなかった。彼に会いたいと言われてから、彼とのやり取りは続いていた。
次の日も彼の追いLINEから1日が始まった。
「おはよ。元気?」
「元気よ。いい天気やね。」
「仕事せんとでかけたくなるわ。」
「お散歩行っといでよ。気持ちいいよ。気分晴れるかも。」
「うん。散歩いくわ。今日は仕事?」
「私も出掛けるよ。」
「デート?」
私が誰と出掛けるのかが気になるのだろうか。彼は度々探りを入れてくるようになった。最も彼にはやきもちを妬いて興奮するという性癖がある。だから聞いてくるだけなのかもしれないが。。
「子どもとおでかけ。」
「親子水入らずやね。楽しんできてね。」
「ありがと。」
昼頃、
「今、実は大阪おるねん。いつもの雑貨卸の店。」とまた連絡が入る。
「そうなんや。私もまた連れて行って欲しいな。。」
「いつでも連れてくよ。」
「ありがとー、助かる。」
その時、嫁ブログを見るとお店は臨時休業だった。奥さんと買い出しに出ているんだろう。じゃあ今から子どもとそこに行くわ、とか言えば焦り出すんだろうな。
「昨日はありがと。またやらかしてまうとこやった。助かったよ。」
「?」
「また間違い犯すとこやった。誘われててんよ。」
「セフレ?」
「セフレはいないよ。ヤリモクの人にまた誘われて迷ってしまったの。」
「迷うよね。性欲たまるやろうし。」
「うん。Rさんが止めてくれたわ。」
「止めてないよ。」
「止めてくれたから思いとどまれたんよ。Rさんも友達に誘われたんやんね。。」
「いや、私はそんなんじゃないねん。」
「でも流されそうになってたんやろ?僕もそーやもん。」
私の場合は流されそうになった訳ではなく、上手く説明できなかった。やらせてあげるという気持ちに近かったが、そんな上から目線な言葉を今彼に言いたくなかった。何故か盛り下がるような気がしたのだ。
「一時の感情でやったら後が面倒って思っただけ。付き合ってって言われてる訳やし。」
「僕もそれで前にしてめちゃ後悔してたのに またしたくなってしまっててん。」
「付き合って欲しいって言われてるの?」
「いや。ただセックスしてストレス解消してあげるって。」
「割り切った関係やから、楽じゃないの?
私の場合とは違うと思う。」
「でもやった後、後悔がすごいもん。。。余計にストレスたまったから。性欲だけでするセックスはメンタルによくない。」
「そんなもんかなあ。。わからない。」
「とにかく止めてもらえてよかったわ。」
だから、止めてない。。でも、ショックな事に慣れてきて、彼が何をしても耐えられるようになってきたのかもしれない。どうでもいいと迄はいかないが、正直、本気で止めたいとは思わなかった。
「自分が付き合ってる時、満たしてあげれなかったから。」
「結果的に止めてもらえたから。それに、裏切ったんは僕やもん。ヤケクソなったんは僕やから。」
「満たされてなかったからやし。」
「いや。満たされてたよ。でも性欲に負けただけ。」
「寂しかったって。。」
「うん。Rさんに対して寂しいんやなくて、このまま体調どんどん悪くなって生きていく自信無くなって死ぬんが怖かった。」
「死なないから。大丈夫。」
「でもパニックなる毎日がしんどい。」
「毎日パニックなん?」
「今少し落ち着いたけど。ちょっとまえまで精神薬がぶがぶ飲まんと過呼吸なってやばかった。」
「そうやったん。。しんどかったね。。」
「波があったからね。」
「そうなんやね。少し落ち着いて良かったわ。」
「性欲ってこわいわ。」
「男だからね。」
「そうなんかな。」
「そのへん歩いてる人にレイプするよかまし。」
「でも今Rさんに会ったらレイプしてまうわ。。」
「少しも落ち着いてないやんw」
「だから女性と会わんようにしてるねんて。」
「そか。私としてた時も後悔してた?」
「Rさんと?」
「付き合ってた時。」
「全然してないよ。」
この人が何を考えているのかわからないし、嘘の塊である事は間違いないのだから、真面目に聞いたつもりはなかったけれど、ヤリモクとするのは私に悪いと思っても、私とするのは奥さんに悪いと思わないということか。考えるのを止めよう。理解できない事は考えても仕方ない。
「あまり聞くのやめとくわ。ごめんね、しんどいのに。」
「いや、むしろ聞いて。」
彼は私にもっと興味を持って欲しくて、こんな事を言ってくるのだろうか。これ以上何を聞いて欲しいというの?おそらく奥さんの事を聞けばまた逃げ出すだろうに。呆れる。。
「明日も晴れるといいねー!」私はそう返事し、それ以上は何も聞かない事にした。
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