第18話 虚無

2022年3月14日


 一夜明けて新たな問題に直面することとなった。また彼から追いLINEが入ったのだ。

「正直言うね。アプリで会った人とお金でセックスした。人肌恋しかったけど虚無に落ちた。もう落ちるとこまで落ちてくる。」


 なにこれ。心がズキンと痛んだ。キツい、胸が。。どうしてこんな事、私に打ち明けてくる?もう付き合っていないから、これは浮気にはならないけど、知らなくてもいい情報。ただ、傷付くだけの情報。わざわざカミングアウトしてくるのは何?意地悪するため?何を考えているのか理解できなかった。それでもここで挫けていては前に進めない。彼の力になりたいんじゃなかったのか、私は。慈悲の気持ちで対応したい。私の目標はいつでも慈悲の心を持つ事。それが、彼に対してはどんどん乱れてくる。

「先生、こんなのきました。慈悲の気持ちで頑張りたいとは思っています。」

「信頼が出来てきてます!返事を返しましょう!」

 信頼。。そんなもの。信頼の代償がこんなに傷付く事なら、もういらない。でもここで終わるなんて悔しすぎる。逃げたくないからもう少し耐えてやる。

「そういうことも打ち明けてくれて嬉しいよ。1人で抱え込まなくても、吐き出せるなら、色々と話して欲しい。」

「でも、Rさんの事も傷付けてしまってるから、もうカミングアウトは止める。もうRさんと会う事もないやろし・・・ごめんね。」

「わかったよ。私ともう会わないの?」

「うん。合わせる顔ないわ。」

「そんな風に思わなくていいのに。気にし過ぎよ。」

「いや。みっともなくて合わせる顔ないよ。」

「そんな風に思ってないよ。気にしないでね。」

 凄い。。何とかやり取りが続いている。先生がいなかったら心が折れそうなくらいキツい。

「ごめんね。僕の事はいいから良い人見つけてね。」またこれか。罪悪感からの、良い人見つけてね。

「そんな風にならないで。また落ち着いた頃に。」

「もういいねんよ。」

 それから返事はせずにいた。先生は、やはり「罪悪感が強い。」と言った。そして、「許してくれるか確かめようとしている。」とも。


 次は話題を変えてLINEを入れる事になった。少し話題を逸らせて明るい雰囲気にする為だ。彼の事を責めない。むしろ、その話題には興味がない、「それがどうしたの?別に気にしてないよ?」とでも言うかのように流し、明るい話題にもっていく。

 さて、何を話そう。そうだ、もうすぐ桜が咲く時期じゃないか。平野神社の前を彼と歩いた時、春になれば一緒に見に来ようと約束した。その事に少し触れてみたらいいのではないだろうか。

「春になれば一緒に桜を見に行こうねって約束してたんです。あの神社の桜は咲いたかな?とかはどうでしょうか。」

「いいですね。そこに繋がるように入れて行きましょう。」

「はい!」


 続きのLINEは明日入れる事になった。3月14日はホワイトデーなんだ。私たちには関係のない話ではある。2月14日のバレンタインの時はギリギリ付き合っていた。彼は不眠症だから、お茶は麦茶だけだったし、珈琲も飲まない。でもカフェに行くと何故か珈琲よりカフェインのきつい紅茶は飲んでいた。砂糖多めで。単に珈琲が好きではないだけなのかもしれない。チョコレートもカフェインが入っているからと食べないと言った。健康の為にトマトジュースを飲んでいたので、バレンタインはチョコレートをあげれないし、ちょっといいトマトジュースなんかどうだろうと考えたりもしていた。

 彼の嫌いなものは納豆だったかな。体にいいのにと言うと、ナットウキナーゼのんでるからいいと言っていた。彼は体調が悪いから、健康に気をつかって色んなものを試していた。好きな物は黒糖のふ菓子だった。

 「バレンタインは何が欲しい?」と以前聞いた時、「チョコバット。」と答えた。「え?チョコレートやん。」「ちょっとコーティングされてるだけやん。大丈夫。」「そう?わかった。じゃあバレンタインにはチョコバットあげるね。」「うん、ありがと。」


 人は話した内容というのを比較的覚えているものだ。過ぎた事は思い出に変わると誰かが言ったけれど、私にとっては彼との事をまだ思い出として残す事が出来なかった。

 彼への執着は私にとって意味のあるものなのか。。それはたぶん・・・ないだろうな。

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