第12話 回想編⑨紅葉

2021年11月27日


 彼のお店の庭には紅葉がある。彼が送ってくれた写真でしか見た事がなかったが、その紅葉が色づき始めた。京都の紅葉はとても綺麗だ。「紅葉が見たい。」と言うと、「お店の近くに北野天満宮があるから見に行こうか。」と言ってくれた。

 27日、見るなら紅葉のライトアップがよかったので、夜に会う事になった。「来るならお店に寄って。」と言われ、駅からお店まではタクシーを利用した。始めての彼のお店。テンションもあがる。店の前で彼が出迎えてくれてお店に入った。オシャレな雑貨カフェといった感じで、物は多かったが白を貴重としているのでスッキリしているようにも見えた。奥には庭があり、大きな紅葉が一本立っていて、赤く色づき始めていた。本当に素敵なカフェ。このお店で毎日ひとりで仕事をしているんだ。。私とは違う世界だった。


 彼は私を招き入れて、キスをした。お店で。。と思ったが、ここは彼のテリトリーで、お家みたいなものだからと思い、全く抵抗がなかった。「お店でとかエロいよね。」と彼は言ったが、とても落ち着く空間だった。事が済むと、「遅くなるといけないから。」と言って紅葉を見に行くことになった。


 歩いて5分ほどで着いたと思う。北野天満宮の隣には平野神社があって、「ここは桜が綺麗だから、春にまた見にこよう。」と彼が言った。小雨が降っていたが、それもまた雰囲気がいい。天満宮の裏口から入り、正面まで廻った。もう何度も来ているんだろう。馴れた感じで前を歩いて行く。御土居に入ると350本の紅葉が出迎えてくれた。ライトアップで紅葉が色づき、本当に素敵だった。写真を撮ったり、2人で話しながら手を繋いで歩いたり、御土居を抜けると、和菓子とお茶の提供があり、彼が場所取りをしてくれて、和菓子をいただいた。「春は梅が綺麗なんだよ。」と教えてくれた。


 その日会っていた時間は1時間半だけ。それでも私にとっては充実した時間だった。彼はこの日、「あまり遅くまでは会えない。」と言っていたから、私も紅葉を見るとすぐに帰った。


 考えてみると不自然なことだらけだった。彼女とのデートの日ぐらい、夜遅くなってもいいのではないか。どうしてそんな早く帰ろうとするのか。既婚者だったとしても、40歳の大人が、そんな真面目に早い時間に真っ直ぐ家に帰る必要があるだろうか。

 仮に彼の言う事が本当だったとして、病気の母親の手伝いで家事があるから早く帰るのだとしても、父親も妹も一緒に住んでいるのに、たまには家事から解放されてもいいのではないか。

 そして、矛盾している事もあった。彼の趣味はソロキャンプだったので、ひとりで山に行く事があった。その時はテントを張って夜も泊まるのだ。家事は?という話になる。

 私は本当に愛されているんだろうか。この頃からそう思うようになった。いや、もっと前から、違和感を感じながら、自分の気持ちが彼に向いているから仕方なく、その違和感を、矛盾を、不自然さを受け入れるしかなかったのだと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る