第13話 回想編⑩金閣寺

2021年12月


 11月に彼のお店の紅葉をじっくり見ることができなかったのを残念がっていると、「うちの紅葉は色づくのが遅いから、クリスマス前まで大丈夫やし。ゆっくり見においで。」と言ってくれたので、11日の土曜日に再度お店に行くことになった。お店は土曜日も開いている。彼のお店の近くには金閣寺もあるので、私はそこにひとりで行こうと計画していた。そうすると、「お店は昼で閉めるから、一緒に行くわ。」と言ってくれた。

 その日、彼は比較的元気だったと思う。それに、クリスマスが近いこともあって、私の子どもにプレゼントを買ってあげたいと言ってきた。


「セックスしてから金閣寺に行く?それとも、金閣寺行った後、ホテルにいこうか。」

「お店でキスだけしたい。」

「キスしたら我慢できんなるわ。最後までする!」

「え。じゃあ、我慢させる。」

「無理。レイプしてでもする。」

「じゃあお店でしてから金閣寺行こ。」

「わかった。その後、駅前のスーパーのおもちゃ屋さんで、お子さんにクリスマスプレゼント買ってあげたい。」

「うん、わかった。ありがと。」


 当日、お店は昼までの営業なので、13時頃到着するように京都に向かった。お客さんは既に帰っていて、お店は閉めてくれていた。「何か飲む?何でも入れるよ。」12月の京都はさすがに寒かったので、温かい紅茶を入れて貰って、彼と奥のソファーに座りながらゆっくり話した。この日、私は彼にお弁当を作って持って行った。彼はいつもお昼はお店でお茶漬けを食べていたので、栄養面が心配だったからだ。好きな人が自分の作ったお弁当を食べる時の反応が私は好きだった。しかし、彼の反応はあまり良くなかった。彼女がお弁当を作ってくれたという嬉しさが全くなかった。今までの人はウキウキして食べてくれたのに。。有り難みのないこの態度は普段から誰かが美味しいご飯を作ってくれるからだ。それは母親の存在ではない気がする。やっぱり彼は既婚者なのかもしれない。

 その日、印象的だった話は、「今朝家に忘れ物をして戻ったら、おかんが煙草吸ってたから切れた。あんなに切れることって久々やわ。」「抗がん剤、あんなに苦労したのに煙草吸うとか呆れるわ。妹も父親もいて、何で注意せんねんってそれがいちばん腹立つわ。」そう言って彼は怒りをあらわにしていた。煙草は癌の再発率が上がるらしい。


 しばらく話してから私たちはキスして、セックスして、彼はオナニー用の動画を残した。それからお店を閉めて金閣寺に向かった。


 金閣寺に以前来たのはいつだっただろう。20歳になっていたか、なっていなかったかぐらいだった気がする。彼は10年ぶりぐらいと言っていた。「近いと行かないもんやわ。」と言って案内してくれた。

 金閣寺の前で彼の写真を撮った。私にも「撮ろうか?」と言ってくれたが、私は彼の写真ばかり撮って自分は撮ってもらわなかった。彼は嫌がらずすぐに被写体になってくれたので、写真を撮られ慣れているように感じた。

 金閣寺では和菓子とお茶を頼んで、ゆっくりした。和菓子は小さな白色の落雁で、少しモチモチした触感だった。とても美味しくて私好みだった。すっかり気に入ってお土産も購入した。この和菓子はここでしか買えないらしい。


 それからお店に戻り、駅前のスーパーのオモチャ屋さんに行って、おもちゃを選んだ。選んだおもちゃが大きい箱で、持って帰るのに苦労したが、彼が子どもの為に買ってくれたクリスマスプレゼントがとても嬉しかった。そう言えば以前、卸のお店で文房具を買ってくれた時、子どもは彼にお礼の手紙を書いた。今回もきっと喜ぶと思うから、何かの形でお返ししないとな。と考えながらその日は帰った。


 12月は年末の27日にも会う事ができた。年末にもう1度会おうと言われて休みが合ったのがこの日だったからである。この日もお店はお昼に閉めてくれた。お店でするセックスは興奮はするがやりにくさもあり、ホテルに行きたいとお互い思いながら、結局お店でしてしまう事が続いていた。この日はキスをたくさんしたくて、長いか短いかはわからないが、私たちには珍しく30秒連続でキスした。そのままセックスをして、話をして、お店から少しだけ歩いたところにあるケーキ屋さんに行き、ケーキをご馳走してもらってまたゆっくり話した。


 その後私はタクシーに乗せられ、駅まで帰った。彼は私にこの辺を歩かせるのが好きではなかった。「中途半端な坂がいちばん疲れるから。」とか、「歩くならこっちの道の方が近い。」と言って大通りから離れた方を歩かせたり、何か変だな。と思う言い方をするのだった。これも違和感を感じた1つだった。


 2021年も終わりに近づいていた。

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