第8話 回想編⑤窶れた顔
2021年8月25日
初対面の日の帰り、手を繋いで駅まで歩き、「またね」と言って雰囲気よく分かれたはずだったが、その次に会ったのは、その日から約50日後だった。本当は2週間後に会おうと言う話にはなったけれど、コロナの補助金の関係で保健所の抜き打ち監査があるから彼は店から離れられなくなった。お店に会いに行くとも言ったが「病み上がりやし、コロナも流行ってるし、こんな遠くまで来なくていいよ。」とあっさり断られてしまった。次はお盆に約束したが私の子どもの都合で流れてしまい、よくやく8月の半ばに監査も終わって、25日に私がお礼参りで梅丸大神に行く日に会おうという事になった。
初めて対面で会ったその日から彼は抗不安薬の量を減らす努力をしていたせいで精神的にも不安定だった。そのせいか、LINEのやり取りも減っていた。私にやっと会えた事で燃え尽きになっているのかと思うくらい距離感も感じた。まだ付き合って会い始めたところなのに思うように会えず、不安な気持ちがモヤモヤと私の心の中を支配していた。
25日、私たちは再会した。彼はその日仕事をしていて、私のお礼参りが終わるとお店を準備中にして出てきてくれた。彼のお店の近くの少し大きなスーパーの前で待ち合わせし、そこから歩いて3分ほどのホテルに入った。
この日彼はかなり具合が悪そうで窶れていた。目の下のクマも酷かったし、顔色も悪い。会った瞬間も無表情でぼや~としており、薬が効いているようだった。イライラしているようにも見え、落ち着きもなかった。「顔色悪いね。」と私が言うと「病んでる。」と一言返ってきた。
ホテルに入るとすぐにセックスが始まった。その後2人でお風呂に入った。その頃は少し落ち着き始めているように見えた。会った時は、抗不安薬を飲んですぐだったのかもしれない。薬を飲んで30分ほどは特に頭がボーっとしている状態らしい。
お風呂に浸かりながら首や肩が辛そうなので少しマッサージしながら話していた。
「次は大阪で会おう。お茶でもしながらゆっくり話して。セックスもいいけどそういう時間も大切にしたい。思い出も作りたいし。」精神的に安定しない事も多く、そっけない時も多いが、たまに嬉しい事も言ってくれる。だからハマってしまうのだ。他にもこんな事を聞いてきた。「前の彼氏はお子さんと会ってた?別れていなくなったら、その彼氏と仲良くなってた子どもが可哀想やね。」私は「以前の彼氏のことは、子どもが小さい頃だったからあまり覚えてないみたい。」と答えた。私は彼が子どもの事を気にしてくれていた事に意外さを感じたが、「彼女の子どもの事、気にしない訳ないやん。」と言ってくれたので嬉しくなった。でも彼は身体の不調のために、自分の事で精一杯になっているし、私は子どもの事は自分だけで十分だと思っていたので、子どもを彼に会わせたいとか、子どものパパになって欲しいとか、そういう事はあまり考えていなかった。だから、彼が子どもの事を考えてくれるのは嬉しかったが、さほど乗り気ではなく、スルーする形になった。
この日はホテルでゆっくり過ごしただけで、彼はその後店に戻り、私はそのまま大阪の自宅に帰った。
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