第4話 回想編①出会い
2021年2月
カウンセラーの友人を介してLINEのやり取りが始まる。
彼は2年程前から耳鳴りに悩まされており、夜も眠れない。睡眠薬と抗不安薬を服用していた。彼の耳鳴りは大きく、耳の中に常にセミがいて四六時中ジージーと音が鳴っている状態。そのストレスでパニック障害とうつ病を発症していた。そして彼が持っていたのは耳鳴りだけではなかった。自律神経失調症からくる首こり、肩こり、頭痛、眩暈、気圧の変化による体調不良。ほぼノイローゼだった。
そんな状態だったので、気を紛らわせる為もあってLINEで話し相手になっていた。そして、そんな状態でも毎日彼は仕事に出ていた。
彼のカフェは白を基調としたお洒落なお店で、持ち家の1階部分をお店にしており、従業員を雇わずひとりで営業していた。近くに大学があるので、「バイト募集していませんか?」と聞かれることもあるらしいが、忙しい時もあれば暇な時もあるので一人でのんびりやりたかったようである。
「娘さんとお茶しにおいでよ。」と言ってくれることもあった。彼は自分の事を人見知りだと言っていたが、気さくで感じのいい人だと私は感じていた。
住まいは大阪で、毎日京都まで出勤していると言った。コロナが流行する前まで店はディナーまで営業していた。終わるのは21時半で家に帰ると遅くなるので、外でご飯を食べて大阪へ帰る毎日。月曜から土曜まで、休みは日曜日のみ。コロナ禍になってからはディナーはせず、早くお店を閉めて帰るようになった。かなり暇になってしまい、
「コロナ貧乏」「交通費を稼ぎにきてるようなもん」と愚痴ることもあった。
以前はお店の2階に住んでいたこともあるらしいが、7年程前に母親に癌が発覚し、実家に戻ることになった。以前、2階へは屋内の階段で繋がっていたが、改装し、階段は外についている。そして2階はテナントとして人に貸していた。
大阪では両親と妹、家族4人で住んでいた。この頃はまだ私は疑うこともなく、彼の言うことを信じきっていた。
2021年3月
この頃、私に癌という病が発覚した。幼い子どもと2人で生活していた私は自分が死ぬかもしれないと、とても不安になっていた。
彼もまた耳鳴りのストレスでノイローゼ状態だった為、しばらく連絡をとっていなかった。彼からどうしてる?と連絡があり、癌だと伝えた。彼の母親も癌だと聞いていたので、彼は心配して「癌ってこういう病気だよ。」と多くの事を教えてくれた。そして健康のために何が体にいいのか自分で調べ上げたことを伝えてくれた。
2021年4月
4月に入るとLINEの頻度が増え、ほぼ毎日やり取りするようになっていた。私の手術が終わって落ち着いたらお茶でもしようという事になり、その辺りから彼が私に興味を持ち始めたのがわかった。本来カウンセラーとクライアントは恋愛関係になるとカウンセリングの効果が落ちると言われている。それに、私には別れた夫がいてその元夫も精神的に弱く、色々と苦労してきたのだ。それなのにまたそういう人を好きになってしまうのか。。それだけは避けたかったので恋愛対象にはならないように自分の気持ちをコントロールしていた。しかし、癌になったことで彼に拠り所を求めてしまった。彼もまた、自分の体調が悪い事で私の病気の事も気にかけ、親身になって話を聴いてくれるようになっていた。
「自分が健康だったら、こんなに気にならなかったかもしれない。」
「お互い体の不調がなければ出会う事すらなかったかも。」
「耳鳴りは辛いけど、会えて良かった。」彼はそう言ってくれた。
そしていつしか私たちは惹かれ合い、支え合うようになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます