第2話 彼女の死

「悪かったな。で、今日はどうしたんだ?」

携帯をマナーモードに設定し、ポケットにしまいながら、待たせていた男に声をかける。

「ああ、一条に調べてほしいことがあるんだ」

九重とはたまたまBARで知り合い、ある事件をきっかけで俺が賞金稼ぎであることを知られている。

ただ、こいつは警察官という職業に誇りを持っているようなやつだし、俺もわざわざこいつに仕事の話はしない。

ただの飲み友達という関係がお互いにとって最良であるということを知っているから基本九重とは美味しい料理と酒の話、くだらない世間話がほとんどだ。

「珍しいな、九重が俺に頼み事なんて」

そんな九重が俺に頼み事をするのは珍しい、というより出会ってから初めてだ。


「とりあえず、この写真を見てくれ」

そういって一枚の写真を渡してきた。

写真には警察官らしい女性がいい笑顔で写っていた。

「この女性は?」

「俺の部下、だった…。3日前に、殺された」

「……殺された?そんなニュースは無かった様に思うが」

俺は仕事柄、世の中のニュースは良くチェックしている方だと思う。

だが、ここ数日で警察官が殺されたなんていうニュースは無かったように思う。

「ああ、表向きは自殺として処理された。」

「へぇ。でも、九重は自殺じゃないと思ってる、と」

九重は、自分の飲んでいたグラスを握ったまま、真っ直ぐカウンターの向こうのバックバーに並ぶ酒瓶を見つめている。

「ああ、そうだ。彼女の名前は椎名 実里〈しいな みのり〉という。真面目で正義感の強い俺の部下だった。だが、一昨日の早朝に還らぬ人となって発見された。死亡推定時刻は3日前の午前1時〜3時」

「発見したのは近隣住民か?」

「いや、第一発見者は俺だ。無断欠勤したうえ、連絡が取れない椎名を心配し、一昨日の出勤前に官舎まで様子を見に行った。その際、何度チャイムを鳴らしても呼びかけても反応はなかった。もしや中で倒れているのでは?と思い、玄関のドアノブを回すと鍵は開いていた。家の中で倒れている場合、一刻を争うと考えた。だが、女性の家に男が無断で入るのも躊躇われた為、俺は彼女の隣の部屋のチャイムを鳴らし、事情を説明し、住んでいた女性警官と2人で室内に入った。」

「そして、彼女は死んでいた、と」

九重は静かに頷いて、静かに肯定の意を示す。


「……リビングで首を吊っていた。室内は荒らされた様にも見えるほど荒れていた」

「女性の一人暮らしで玄関の鍵が開けっ放しなんて、普通に考えたら怪しいだろ。それに荒らされていたなら物取りの犯行と考えるのが自然じゃないか?」

「そうだな。ただ、家主と物取りが遭遇し殺されたという場合、撲殺か刺殺が一般的だ。絞殺ならまだしも、わざわざ手間をかけて首を吊る理由がわからない。それに、彼女が住んでいたのは警察の官舎だ。」

確かに、地図にも載っている警察の官舎をわざわざ狙って侵入する物取りはまず居ないだろう。

「まあ、そりゃそうだな。」


「このことから、彼女は自殺だと結論づけられた。部屋が荒れていたのは彼女自身が探し物でもしていただんだろう、と」

状況だけを聞けば、自殺又は事故という結論でもおかしくはない。

ただ、俺の中で一つだけ引っかかったことがある。

「だが、そんなに自分の部屋をめちゃくちゃにしなきゃ見つからない探し物ってなんなんだ?」

「それは、わからん…。」

確かに、探し物の件は気になるが、よほど大事な物を失くしたのであれば、家中をひっくり返してでも探したかった。ということは考えれない訳ではない。

まあ、妥当に考えれは自殺、最悪は事故だろう。

そんなことは、九重にはも分かるはずだ。


だが、こいつはある種核心を持って彼女は殺された、と思っている。


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