どっちが好きなの?

 場所は移って家の近くにある神社。前を歩く舞花は参道から外れた所で足を止める。周囲に人の姿はなく、陰っている。久しぶりに顔を覗かせたお日さまの光も、ここでは弱い。



「――さっきのあれ、なに?」


 そう訊いてきた舞花は背を向けたまま。彼女の顔が見えない事に安堵してしまっている自分がいる。



「あれは……その……」


「一人でしたなんてアホな事言わないよね? そんなの通用しないから…………下手な言い訳、考えないで」


「……………………」


「治親もだんまりなんだ……なんなの? 二人してあたしの事馬鹿にしてるの?」


「……馬鹿にしてるわけじゃ、ない」



 俺が言うと、舞花はギュッと握り拳を作りわなわなと震わせる。



「あの人と……シたんでしょ? それも3回も」


「…………ああ」


「いとこ同士でしょ? お互い、合意の上で至ったの?」


「…………ああ」


「なにそれ…………気持ち悪い」



 吐き捨てるように言った舞花。その直接的すぎる言葉に俺は下唇を浅く噛む。一般的にはやはり、そう見られてしまう。


 無風の中、しばしの沈黙を挟み、舞花は口を開く。



「どこでもいい…………どこかであたしの顔は浮かばなかったの? それとも、あたしの事なんか一ミリも頭になかった?」


「いや、舞花の事は頭にあった」


「それは……どのタイミング? 始める前? 最中? 終わった後?」


「……始める前だ」



 俺が答えると舞花は「ははッ」と乾いた笑い声を上げる。



「よりによってそのタイミングなんだ…………あたしからしたら一番最悪だよ、それ」


「……………………」


「彼女の顔が浮かんでいながらそれでもシちゃうって事はさ……所詮、治親の中であたしはその程度だったって、嫌でも思えちゃうじゃん」



 舞花の声は次第に震えていき、それは体全体にも広がっていった。



「治親は……あたしとあの人……どっちが好きなの?」



 舞花は嗚咽交じりの声を忍ばせ、季節外れの寒さを堪えるように自分の体を抱いて縮こまった。

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