ゴム

「お――お菓子持ってきたぞー! 二人共!」


「「……………………」」



 少しでも明るい空気にと俺は陽気なテンションを装って部屋に入り、テーブルの上におぼんを置いた。


 しかし、二人からの反応は得られず、俺は空気を読めない人間を継続する。



「ちょ、なんで険悪なムードのままなんだよ舞花~。さっき未希ちゃんに謝るって言ってたじゃ――」



 呑気な振りしていられなかった。雰囲気――いや、自分の事しか考えていなかった俺には見えていなかった。


 舞花が未希ちゃんの顔の前に提示しているそれ、生ごみを扱っているようにしてままれたそれは――昨日俺がティッシュで厳重に丸めて封じ込めた〝ゴム〟だった。


 舞花の周囲には大量のティッシュが散乱していて、両膝を床についてうなだれるように静止している未希ちゃんの傍にはもう二つのゴムが捨てられていた。



「どうしてなにも言ってくれないんですか? 聞こえてないんですか? その耳は飾りですか?」


「……………………」



 口をつぐんだままいる未希ちゃんに対し、舞花は聞こえるように舌打ちし。


 そして摘まんでいるそれを未希ちゃんに向かって投げつけた。



「――なんでお前が被害者ぶってんだよッ!」


「ま、舞花ッ! さすがにそれは――」



 ギロっ、と舞花の鋭い眼光が、途中で俺の言葉を遮った。



「さすがにそれは……その後はなに? 良くない? もしくはやりすぎだろとでも言おうとしてたの?」


「あ、いや……それは……」



 何故か声音は明るく、なのに顔がまったく笑っていない舞花。彼女はゆっくりとした足取りで、しかしながら着実に俺との距離を縮めてきている。


 そんな舞花の圧に恐怖を抱いた俺は同じくらいのペースで後ずさり、を保とうとする。


 が、やがて追い込まれ――。



「それ、こっちのセリフなんですけど」


 壁ドンのような状況ができあがってしまった。



『ちょっと治親、舞花ちゃんの声が下まで聞こえてきたんだけど、なにかあったの? ――あら、ドアが開かないわね』



 さきの騒ぎを聞きつけやってきたのだろう。部屋の外では母さんがドアと格闘しているようで、原因は俺が背にしてしまっているからに他ならない。



「あ、ビックリさせちゃってすみませんお母さん。ちょっとアニメのセリフを真似してまして」


『あらそうなの? だいぶ迫真の演技だったわね』


「思いのほか熱が入っちゃって」


『まあ、何事もないのならいいんだけど。あまり騒ぎすぎすぎないようにね? ご近所さんの迷惑になっちゃうから』


「はい。すみませんでした」



 機転を利かせた舞花のおかげで、母さんの足音は遠ざかっていった。


 母さんを誤魔化している間も舞花はずっと俺を睨みつけていた。そしてそれは今も――。



「場所、変えよ? 治親」



 俺は何度も首を縦に振ったのだった。







――――――――――――。

どうも、深谷花びら大回転です。


この作品について一言、よろしいですか?














主人公クズすぎw


同じくクズすぎだと思ったそこのあなた、試しに★つけてみよっか。


簡単だよ、ちょっとポチポチするだけだから。ほおら、ここ…………あ、そこわたくしのチク――。

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