一杯目② 町民は語りだす
その日、私はいつものように仕事をこなして帰宅の途につくところだったんだ。
いやなに、仕事自体はそれなりに終わったんだ。済ませたと言った方が良いかな?
とにもかくにも、仕事が終わらせた私は、ほどよい疲労感を感じる身体を労りながら、町に向かって歩いていたんだ。
だからと言ってゆっくりのんびり歩いていたわけではないよ。
いつもどおりに、周囲に気を配りながら歩いていたんだ。
そうして、もう少しで町に着くというところで、違和感に気付いたんだ。
そう、違和感だ。
いつも通りに歩いているはずなのに・・・。
いつも通りの道を辿っているのに・・・。
いつもとは違う道を歩いているのは、何故だろう・・・?。
そして、この見覚えのない場所は何処だろう・・・?
私は、いつの間にか迷子になっていたんだ。
可笑しな話だろう?
私はこれでも、この辺りの地理には詳しいつもりだよ。
長年、仕事で行き来している道だ。
間違えるはずがないんだよ。
それなのに、だ。
私は、迷子になってしまった。
知らない場所を歩いていた。
正直、混乱したよ。
だって、そうだろう?
人間、いきなり知らない場所を歩いていると気づいたら混乱もするさ。
どうしようと、混乱なしながら、その場をウロウロしていたら、ふと気づいたんだ。
水の匂いがする。
私は藁にも縋る思いで、その匂いの元に足を速めた。
走ることはしなかったよ。
なんでかって?
店主、私を馬鹿にしているのかい?
これでも、一応それなりに場数は踏んでいる身だ。
こういう時こそ、周囲に気を配りながらいかないと、なにがあるか分かったもんじゃない。
それでも、私も気が急いていたんだろう。
少し速足で、その匂いのもとに急いだんた。
そうしたら、見つけたんだ。
いや、見つけてしまったんだ。
ん?
なにを見つけたかって?
それは・・・次の酒を飲んでからだよ。
だから店主。
酒をおかわり!
居酒屋奇譚 犬塚 泉 @izumi-inuzuka
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