【DV男】生まれ変わる

三小宮

第1話 【DV男】生まれ変わる

 こういうことを、自分で言うのもなんだが、俺はクズな人間なんだと思う。他人のためだとか、家族のためだとか,そういった偽善者の戯言というものを、何度口にしたかわからない。


 でも、誰だってそうなのだろう。家族にやさしくするのも、友人を作るのも、そうすることで自分がの人生の障害物が増えないようにするために、やっているだけのことだろう。


 そんな自己中心的で、視野の狭いことを昔よく考えていた。当時、集団の中で様々なことを強要され、ストレスが溜まりに溜まった俺は、物事をネガティブに考えることしかできなくなっていた。

 

 世の中が発展し、人々の生活が豊かになるのは良いかもしれないが、人が多くなれば、多くなるほど、ストレスの原因となる物事の発生は多くなるだろう。


 ストレスで頭がおかしくなっていた俺も、前世で親友が俺を殺してくれたおかげで、昔よりはだいぶマシな、今の自分になれたと思う。 

 

 前世の俺は、人より色々と繊細で、ストレスが溜まりやすい癖に、ストレスの発散が下手だった。


 また、無駄にプライドも高く。人に何かを頼むことは、恥ずかしいことだと考えてていた。今考えれば、それはとても愚かで、誰よりも社会不適合であったと言えるだろうし、そもそも生きてくための全ての物事を自分一人で行うことなど、到底出来うることではなかった。


 しかし、何でもできるようになるという、高い目標を掲げていた俺は、年を重ねるごとに成長し、ある程度のことは、自分でできるようになってしまっていた。それが良くなかった。人に何か自分ではできないことを頼むたびに、俺の無駄に高いプライドは傷つき、人の何倍もストレスを感じていた。


 普通人々は、体を動かしたり、自分の趣味を楽しみ、ストレスを発散させることで、感情的になったり、心の限界が来てしまうことを防いでいる。しかし、俺は人生で、心から楽しいと思えることと出会うことができていなかった。


 だからストレスは許容限界までたまり続けた。


 俺がこんな人間になってしまったのは誰のせいでもない。ただの成り行きだった。両親が厳しかっただとか、いじめにあっていたとかそんなのはない。


 そもそも俺の両親は、俺が生まれてすぐに他界していた。両親が死んだのはただの不運な事故が原因だったし、俺を引き取ってくれた祖母たちに問題があったわけでもない。全ては、ただ、誰にも迷惑をかけたくないという、俺の思いから始まってしまったことで、全部俺が悪かった。


 誰にも迷惑をかけたくないという強い思いが、足かせとなって、祖母の支援を受けて入学した小学、中学と友人ができることはなかった。


 中学を卒業した俺は、高校にはいかずに就職し、一人暮らしを始めた。祖母たちに負担をかけたくなかったからである。仕事自体は順調だった。しかし、人間関係の方はやはりだめだった。仕事以外のことで、人と会話をしない俺は職場で煙たがられ、孤立した。それでも、孤立すること事態には慣れていたし、人と関わりたいなんて、考えたこともなかった。だから最初は特に気にもしていなかった。


 しかし、入社してから、一か月ほどたった頃だろうか。地味な嫌がらせを受けるようになった。いじめとは違う。地味で、陰湿で、ギリギリ問題にならないラインの嫌がらせだ。


 例えば、机の上に置いておいた携帯や資料、飲み物なんかを地面に置かれたり、わざわざ机の中に適当に戻されたり、俺にだけ情報を遅れて共有したり、要らないと言っているのにわざわざ飲み物を持ってきたり、ギリギリ、本当にギリギリで陰湿で気にしない人もいるような嫌がらせである。


 しかし、繊細な俺には十分ストレスだったし、そういったことをしてきていた連中もそれを分かっていたのだろう。


 おかげで俺は、毎日イライラしながら過ごすことになった。機嫌が悪いせいで、人はどんどん離れていくし、道を歩いていても避けられるようになった。


 そして、そんな毎日が続いて、半年ほどたった頃。俺はストーカー被害あった。そのストーカーこそ、俺を殺すことで、この社会から俺を解放してくれた、後の親友となる人物だった。


 あいつとは、楽しかった思い出もあるし、他人が聞いたら、絶縁されてしまうような、恐ろしく、おぞましい、思い出すことが苦痛になるような思い出もある。でも、やっぱりあいつは、俺が人生で唯一心を許すことができた相手だし、なにより俺を殺してくれた。


 俺が殺された後、あいつがどうなったのかは、わからない。でも、ただ誰よりも幸せになって欲しいとは思う。


 死後、俺は一度あの世に行った。行ったはずだったのだが、気づいた時には、再び生を受けることになっていた。理由はわからない。あの世に関して、覚えていることは、それだけだった。


 あの世の偉い人たちが、善意で俺にもう一度やり直させてくれるのか、前世の悪行に対する罰として、強制的に生を受けさせられるのか、どっちなのかは、わからない。でも、どっちみちろくな人生を歩めることはないのだと思う。

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