第11話
「リンゴぉー、飯いこうぜ飯」
「ん、はいよ」
課題のために学科棟でひたすら作業をしていると、いつの間にかいい時間になっていた。時計を見ればもうすぐ20時半を回ろうという所だ、この時間になってくると普通の店は閉まってしまう。
一応、24時間空いているラーメン屋はあるものの、俺は正直あんまり得意な味ではない、まず店が臭い。
「どこ行くんだ?」
「ラーメン、どうすか」
「えー、あそこは嫌だぞ、臭いし」
柴田は好きなんだよな、あのラーメン。何がいいんだ……とまではいかないが、これに関しては趣味が合わない。
「じゃあどこならいいんよ、そろそろ閉まるだろ」
「まぁそうだけど……コンビニとかじゃだめか?」
「コンビニかーーーーーーーーーーーーいいよ」
「いいのかよ、溜めるな無駄に」
溜めに溜めたせいで何事かとこっちを見ている奴らもいる、がなんだ柴田かと思うとまた作業に戻っていった。アホが集中乱してすみませんほんと。
「で、その後どうなん」
と、コンビニに向かう道中柴田が口を開く。
「その後って何の」
「ユナちゃんよ。なんかいい情報とか無いの」
「そうなぁ、とりあえず彼氏はいないってよ」
「ほお、これは勝ったな」
「ならとっとと告白して来いよ」
「いやー、もうちょい好感度稼ぎてぇな」
そう言いながら暑い暑いと服の裾をはためかせて空気を入れている。この時間でもまだ気温は高い、日中少し雨が降ったせいで湿度も高いのが辛い所だ。
「お前はなんか誘ったりしてんの?」
「んー、まぁたまにな」
「で、約束は取り付けられたのか?」
「いや……まぁなんか忙しいらしい」
そうなんか、まぁ課題シーズンだしな。
「じゃあ今のところはこっちも課題やるしかないな」
「まぁな、早く終わらせねぇと」
そもそも柴田がどうアプローチをかけているのかはイマイチよく知らないんだよな。
俺は最近はたまにユナからLIINが来るようにもなった。内容はちょっとした世間話だったり、安かった野菜の使い道とかレシピとかそんな感じだが……
「結構LIINしてんの?」
「まぁ、ちょくちょく」
「ほう、どんな話してんの?」
「どっか遊びに行かない?とか」
話って言ってんのにデートのお誘いがまず出てくるのか……
「あとは?」
「どっかご飯食べいかない?とか」
「うん、あとは?」
「どっか飲みいかない……?とか……」
柴田も気づいたようである。
「うわ、もしかしてアタシけっこうキツい?」
「はい」
「ヤダーーー言ってよ早くゥーーー」
突然オカマになった柴田。ふざけているのは知っているがちょっと堂に入っててキモい。
「まずは会話からではないでしょうか?」
「うぃ……でもよ、会話って何すりゃいいんだ……?」
「会話なぁ……あんまりこうアレじゃないか。気になる人っていうか付き合いたいアピール前面に押し出して会話しようとしない方がいいんじゃねぇか?」
「つまり……?」
「わからんが……最近なんか面白いことがあったからシェアしたいとか、美味しいお菓子手に入れたからあげるとか……とにかくこう、デートに行こうみたいな感じじゃなくてこう、一言二言話すみたいなとこからの方がいいんじゃないの」
「そんなんでいいのか」
「いいっていうか……最初からデートのお誘いとかキツいしな、やり取りちょこちょこするようになって、会話するようになって、興味あること……例えば映画とかさ、そういうので話が合ったら一緒に行こうみたいな話になってやっとデートなんじゃないか?」
「ダリぃなぁ……」
分からんでもないけど、そういうもんらしいぞ。しかっちが言ってた。
「逆にそれすればユナちゃんが彼女になるかもと思えば安いもんだろ」
「確かに、じゃあ早速……」
といいながら携帯を取り出す柴田、この行動力はいいんだけどなぁ。
「何て送るん」
「最近あった面白いこと……、なんかあっかな」
「まぁ、別に急がなくてもいいんじゃねぇか、まずは飯かってとっとと戻ろうぜ」
いつの間にかもうコンビニ前である。店内に入るとじっとりとにじんだ汗が冷房で冷やされて体感温度が一気に下がる。こういう時にちょっと熱いもの食べたくなったりするんだよな、実際に買うと外じゃ暑くて後悔することになるから買わないけど。
とりあえずそれぞれ自由に夕飯と飲み物を購入し、また連れ立って学科棟へ戻った。帰りの話題は主に課題についてだったので、柴田がユナに何を送ったかについては分からないままだった。
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