第10話
「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」
「いや、美味しかったよ」
「いひひ、褒めますねぇ」
二人で手を合わせた後は台所に食器を片付ける手伝いをする。とはいえせいぜい二人分なものでちょっと持っていくだけではあるが。
「お、つけタライ」
「うん、すぐ洗わないならやっぱりね」
「嫌じゃなければ洗おうか?」
「お、おお……」
食べさせてもらった分……になるかは分からんがすぐに返せるようなものとなると洗い物くらいだ。
「まぁ台所触られるの嫌って人も多いから、嫌じゃなきゃだけど」
「あ、嫌じゃないよ。うん、じゃあ……お願いしようかな」
「おっけー、スポンジはコレで、洗剤これかな?」
「あ、ごめんそっちはシンク用で、食器用は捨てたばっかりだからこれ使って」
そういいつつ引き出しから出てくるスポンジ、よくある百均で4~5個入ってるようなやつ。自分も同じようなものを使っているから親近感……というか、こんな風に女子の台所に立つ機会が初めてだが、そんなに変わらないんだなと思ってしまった。まぁそりゃそうか
「またリンゴくんのご飯たべたいなぁ」
「ふむ……じゃあ機会があったら」
「お、やったぁ。遊びに行っていいのかな?」
「……そうか、そうだね」
ユナは部屋に戻らず、部屋との間のところでなんかもじもじしながら俺が食器を洗うところを見ていた。
「あれ、嫌?ごめん」
「あ、いやいや。言われてみれば全然ウチに招待するとか考えてなくて、どこでご飯作るんだよって話だね」
「あんまり人入れないタイプ?」
「うーん、結果的にそうなってるけど別に拒絶してるとかではないかな」
「ん?呼ばれることが多いとか?」
「そうだね、あとは呼ぶことが少ない……あれ、これ人入れないタイプか?」
「ふふ、そうかもね」
二人分なのでサクッと食器洗いも完了する。
「ありがとう」
「いやいや、ごちそうさまでした」
さて、食うものも食ったし長居するのもあれだからそろそろ帰るか。
「さて、じゃあ俺はこの辺で」
「え、帰っちゃうの?」
まだちょっと遊び足りない、みたいな顔をして背筋を伸ばすユナ。
「ん?帰っちゃう……よ?あれなんかあるっけ?」
「や、ないです。オツカレサマデシタ」
「どうしたどうした」
「いや、ごめんなんでもない。お疲れだもんね。気を付けて帰ってね?」
「うん、まぁ下るだけだしね、チャリでぴゅーっと」
「キキーッ……ガーン、みたいな」
「轢かれてんじゃねぇか」
「お気をつけて?」
「……はい、気を付けます」
鞄を持ってサクッと帰る。女子のお部屋、というのもなかなかときめきポイントが高いが、あんまり長居すると柴田に悪い……いや悪いのかは分からんけど、なんかトラブルの種になりそうな気がする。
「それじゃ、ごちそうさまでした。ご飯は……またどっかいいタイミングで連絡するね」
「うん、わかった」
ユナも靴を履こうとしたので見送りは遠慮させてもらうことにした。
誰かに見つかって噂になって……でトラブル、あると思います。
規模はともかく柴田だって見かけたところから噂になりかけたんだ、注意するに越したことは無いだろう。
「じゃねー」
扉が閉まったのを確認して、少しだけ周囲を見回して人がいないのを確認して自転車に乗った……ところでバカバカしくなった。
「別に荷物届けて帰るだけだしな、お礼にご飯もらったけど」
誰に聞かせるでもない言い訳じみた独り言。別に何かあった事実があるわけじゃない、付き合ってるわけでもないしな。
それより、思ったよりも進展していない柴田の尻をどう叩くか、ひとまず学祭の時に同行できそうな感じではあるけど……。
いつも通り……よりも少しだけ車に気を付けながら坂道の風を浴びて帰った。
■--- ユナ
「ほんとにすぐ帰っちゃった」
見送りもいいよ、じゃあね。とだけ言って玄関先でさっとリンゴくんは帰っていった。うちに遊びに来る男子はまぁ、割といないわけでは無いけどだいたいはもうちょっと粘ろうとしてくる。
私って魅力ない……?なんてことは思わないけれども、それでもこのドライ感はちょっと気になる。や、べつにリンゴくんが気になるわけではないんだけど。
なんだかんだでこう、下心を感じるような男子と比べたら全然話しやすくていい感じではある。もし……もし付き合ったら、悪くない気はする。
「ま、せっかく時間できたし課題やるか……」
今の時間は19:30……一時間くらいなら石砕けるかな?夜中になると流石に音がでる作業はできない、やるなら今のうち。
いつも家で作業するときはパソコンから音楽をかけている、リンゴくんは何が好きって言ってたっけな、せっかくだし聴いてみよう。そう思って検索バーに曲名を打ち込んだ。
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