第9話
「うーん、悩むね……っつってもいきなりお邪魔して食材とか大丈夫?」
「あ、うん。昨日いっぱい作ったのが冷蔵庫にあるから」
そうなんだ、家庭的ですなぁ。
「あ、嫌だったら大丈夫だよ。どっか食べに……はっ、それも嫌なら……」
「嫌じゃないよ、突然どうした」
「いやー、ちょっと突然のお誘いだったなと思って」
「ま、まぁとりあえず荷物置いてから決めよか」
坂道を上り、駐輪所にチャリを止める。電灯にたかる虫と蜘蛛の巣が気持ち悪い……アパートってだいたいこうだよな。蜘蛛嫌いとしては竹ぼうきが置いてないアパートは評価が低い。まぁ学生が住む安いアパートなんて大した管理もされていないのだけど。
「このあたりにまとめて置いといてもらえるかな」
「はいよー」
ユナの部屋はそこそこ小綺麗にされていて、その上で画材やらなんやらが部屋の隅にまとまっている。折り畳みの小さな椅子に座って絵を描いているんだろう、家具っぽくないそれが妙に印象的に見えた。
「あんまり綺麗じゃなくてごめんね」
「いやいや、片付いてる方では」
「比較対象は?」
「ピコ」
「あーー、まぁ、ピコ君よりはね」
この前の飲み会の時もそうだが、あいつの部屋で開催するときはモノをどかしてどかして積み上げてなんとかスペースを確保して開催する必要がある。汚い……というかモノが多すぎるんだよな。画材もそうだけどピコはとにかく作品が多い。
「えーっと……、リンゴくんちょっと来てくれる?」
「なにー?」
ユナに呼ばれて玄関の方へ、何だろうと思ったらタッパーを渡された。
「えっとねー、これが酢の物で、こっちが煮物」
「おお、うまそう」
「えへへ、ご飯もチンするだけだけど、こんなので良かったら食べてく?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「うん、じゃあ座って待ってて。テレビつけていいから」
「おっけ、なんか手伝うことあったら言って」
「ありがと」
お言葉に甘えに甘えてテレビをつけて床に座る。テレビちっちぇな……遠くないから見えるものの、画面上のテロップなんかはかなり見づらい。適当にチャンネルを回し、ローカルニュースで天起予報をやっているチャンネルがあったからそこで止めた。この土日は基本的に晴れらしい、暫く暑い日が続きそうだ。
「はい、おまたせしました~」
「おお、おしゃれ」
一人分ずつがお盆に乗って出てきた。こういうところに女子力を感じる。
俺も含めて男衆は大体食器一個一個出すもんな。
「箸はこれ使ってね」
「うん、ありがとう」
「あ、お茶いる?麦茶だけど」
「いるいる、そういや喉も乾いてた」
「待ってね」
至れり尽くせりだ。なんかちょっとだけオカンみを感じるが、それは言わないで置いた方がいいんだろうな。
「はい、どうぞー」
「ありがとう」
「では、頂きます」
「頂きます」
二人で手を合わせて食べ始める。メニューはご飯、酢の物、煮物、味噌汁だ。
「ん、この味噌汁……」
「インスタントです、手抜きで恐縮ですが……」
「いや、手軽でいいよね。俺も普段これだな、味同じだ」
「いいよね、ホントはちゃんと作りたいけど……」
「夏場はすぐ腐るからな……」
「ねー、そうなんだよ。味噌汁腐らせた時はショックだったなー」
うんうん、と頷きながら他のおかずにも手を伸ばす。しかし思っていたよりも家庭的で話が分かる。料理しないやつはホントしないからなぁ、女だからどうこう言う気は全くないが、そもそも一人暮らししてるなら料理は出来た方がいいに決まっている。
「あ、これ美味い、かなり好みの酸味加減だ。」
「ホント?やったね」
「かんたん酢?」
「ううん、自分で砂糖とかで調整してる」
「へぇー、美味いわ」
美味い美味い言いながらモリモリ食べていると、なんかニヤニヤしながらユナがこっちを見ていた。
「ん?」
「あ、ごめん。なんか嬉しくなっちゃって。いい食べっぷりだなって」
「美味いもん、俺この出来の作ったらその日の内に食べきりそう」
「誉めますねぇ、でもリンゴくんのご飯も美味しかったよ?」
「いやー、まだまだ精進しないと」
その後も料理トークを続けながら食事は続いた。美味いものを前にするとちょっとテンションが上がってしまうが、ユナもなんか機嫌良さそうで良かった。
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