第5話
ユナと坂を上り始めたころ、携帯が震えた。
「ん……?」
こんな時間に?ピコんちに忘れ物でもしただろうか、と思って通知を見ると柴田だった。
『お前ユナちゃんに手だすなよ、マジで』
思わずため息が出た。こいつホンマ……
「ん?どしたの?」
「あ、ごめん何でもない、ちょっとアホにダル絡みのLIIN送られてつい」
「仲いいんだ?」
「うーん……まぁ……多分」
「ふふ、友達多そうだもんねリンゴくん」
「いやー普通だと思うなぁ。小路さんは深く狭く?浅く広く?」
「うーん、どっちかって言えば浅く広くかなぁ。深い仲っていうの憧れちゃう」
「友達は多そうなイメージあるね」
「私に?そっかぁ、どのへんが?」
「話してみてこう、とっつきやすい感じ?」
「おおー、仲良くなれそう?」
「小路さんが嫌じゃなければなれるんじゃないですかねぇ」
「ありがとうございます。よろしくおねがいします」
ユナが立ち止まって軽く礼をしながら言う。
「何故か突然距離を感じる」
「あはは、かしこまっちゃった」
実際ユナはだいぶ気安く話せる印象がある。初対面の時もそこそこぶっこんで来たのもあるが、あまり壁を感じさせないような話し方をしているなと思う。
「でも、どっちかというとリンゴくんの方が距離とってない?」
「ん?そう?」
「今日集まったメンバーで私の事小路さんって呼ぶのリンゴくんだけだし、みんなユナちゃんって呼んでくれたから」
「あー、まぁなんだろ、ほら、よく知らないやつからあだ名で呼ばれるの何だコイツってならない?馴れ馴れしいな、なんだよコイツみたいな」
「リンゴくんは礼儀正しいマンなんだねぇ」
「礼儀正しいマン……距離感図るの苦手なだけかもよ」
「いやぁ、私はいいと思う。やっぱりグイグイ来られるとね、しんどいし」
聞いてるか柴田。もうちょっと落ち着け柴田
「なるほどねぇ、難しいねぇ距離感。まぁ仲良くなりたくてグイグイ行くんだろうけど」
「その気持ちは嬉しいんですけどぉ、ってね」
と、そんな話をしながら歩いているといかにも学生アパートですといった風体の建物前に着いた。
「つきましたー」
「おつかれさまでしたー」
「ありがとう、送ってくれて」
「いえいえ、どういたしまして。そんじゃあおやすみなさい」
「あ、うん。おやすみなさい」
ばいばい、と手を振るユナに見送られつつ来た道を戻る、曲がり角を曲がる前にちら、と振り返るとまだアパートの下にユナはいた。別に戻っていいのに、律儀だなぁ。と思いつつ、また手を振るユナに軽く手を振り返した。
「さて……」
あのアホは事故らずに家に着いたんだろうか。
『送って解散したわ。それよりお前グイグイ行き過ぎ、ちょっと引かれてんぞ』
LIINに変身を返すとすぐに既読が付いた。
『は?お前余計な事言ってないだろうな』
『言ってないわ、友達になった人との距離感的な話の流れでグイグイこられるとしんどいって言ってた。もうちょっと引け、な?』
『恋は攻めだよリンゴ君』
『何語っとんねん。とりあえずもうちょっとアプローチ考えないと厳しいぞ』
『フォローよろ、んじゃ寝るわ』
こいつホンマ……まぁ別にいいけど。まぁ盛大にフラれたらまた飲みにでも誘ってやるくらいでいいか。
協力してもらう気あるのか?と思うような雑なやり取りにちょっとげんなりしつつ、湧き上がる眠気を押し殺しながら家まで帰る。
この時間になると車の数もほとんどない。大通りであっても数分に一台、二台が通る程度。信号を完全に無視しても構わなさそうな空気、結構好きだ。ちょこちょこある飲み会の後、一人で家まで戻るこの感じは良い……。
しかし、柴田とユナちゃんがくっつく未来が今の所見えないな。いったいどんな手の回し方したらそうなるのやら……。なんかイベント事でもあればなぁ、とも思うけど。と思った所で来月には学祭があることを思い出した。学科単位で展示をやるのと、サークル毎に出店を出したりなんだり。そういうのを柴田とユナちゃんで回ろう、って言えるかどうかだな。まぁ複数人ならあるかもなぁ。
そんなことを考えながら家につき、眠気にぼんやりとしながらシャワーを浴びて眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます