第3話

「あ~、リンゴくーん」

 ほわほわとした声で呼ばれ、そちらを見るとまたほわほわした雰囲気の女の子がいた。

「おお、アルちゃん」

 そこにいたのは友人のアルちゃんだった。名前は酒田 美穂。酒田の酒がアルコールになり、アルちゃんというあだ名になったらしい。本人は酒好きだがすぐ酔う。彼氏持ちである。

「どしたの~?夕飯の買い物?」

「いや、今日ピコん家で飲みがあって買い出しかな」

「ああ~いいねぇ、私もいきたーい」

「残念だなのび太、今日は六人までなんだ」

「むぅ、残念~あはは」

 アルちゃんはけらけらと笑いながらもしっかりと値引きされたひき肉を籠に入れていた。

「アルちゃんは普通に買い物?」

「うん、冷蔵庫が寂しくなったので」

「二人分だと結構買わないとだよねぇ」

「そうだねぇ~」

 アルちゃんは彼氏と共に同じ大学に入り、故郷が遠いこともあって早くも同棲している。一度遊びにいったことがあるが、エスニック調のやや狭い部屋でよくここで二人暮らしできるなと感心したものだ。

「また知らない人呼ぶやつやってるの?」

「そうそう、ピコはよくやるよな」

「そういう機会でもないと知りあわないもんねぇ」

「最近は講義とかでも新しい出会いないからねぇ」

 俺とアルちゃん、彼氏のマロと知り合ったのも先月のピコ会である。俺の交友関係は同じ学科を除けば殆どがピコ経由と言ってもいいかもしれない。おかげさまで本当に知り合いが増えた。

「今日は誰が来るんだろうねぇ、可愛い子来るかな?」

「さぁ、どうだろ。男だらけかも知れない」

「ふふ、たまにはそういうのもいいね」

 適当に話をしながらお互いに欲しい物を籠にいれていき、レジに並ぶ。

「じゃね、可愛い子いたら紹介してねぇ~」

 ばいばーいと手を振り帰っていくアルちゃん、ちなみにちょくちょく可愛い子がどうこう言っているのはアルちゃんが服飾系の学科であり、いつもモデルを探しているからだ。他意はない、多分。


 さて、こっちはこっちで酒の肴、もとい夕飯を用意しないといけない。日中雨がふっていたものの、予報通り夕方以降は晴れになりそうだ。


「おーっす」

「おお、おつー」

「うぃー」

 ピコの部屋に着くと、そこにはピコとしかっちがいた。

「んじゃ台所かりるぞー」

「ういー、ありがとー。手伝うことあるー?」

「いや、特にないわー」

 毎度似たような会話をしているのでお互い慣れたものである。大体このメンバーとゲストたちでやるときは俺が料理担当になりがちだ。特にすごく料理が好きとか、凝っているとかそういうわけでは無いんだが、三人の中では比較的味が良いということで自然とそうなった。

 今日のメニューはもやし、ほうれん草のナムル。大根と鶏の煮物。炊き込みご飯だ。最初にナムルのためにもやしとほうれん草を茹で、終わったら大根と鶏を煮て放置。同時に5合分の炊き込みご飯を買ってきた素を使ってセットするだけだ。簡単。

 ピコが一人暮らしの割にこんな会をちょくちょくやれる理由の一つが、実家から送られてくる大量の米だろう。狭いアパートのシンクの扉を開ければ米袋が大量に出てくる。友達と腹いっぱい食べろよ!ということで送られてくるらしいが、消費が追い付いていないのが現状だ。ありがたく食わせてもらっているメンバーの一人としては脚を向けて眠れない。


「あーいい匂いしてきたー」

「今日は何?」

「ナムルと煮物と炊き込みご飯」

「あー最高、もう優勝」

「助かる」

「というかまだ来ないんか、そろそろじゃね?」

「おお、もう7時前か。あ、ちょうどLIIN来た……外にいるって、迎え行ってくるね」

「あいよー」

 そういってピコが上着を手に出ていくと、しかっちと二人残される。これもまたよくある光景である。

「リンゴは彼女とか欲しくないの?」

「どうした急に」

「いや、ピコとそういう話なって、リンゴって彼女の影見えないよなって」

「うーん、機会があればなぁ。別にピコもしかっちもそうだろ?」

「ま、まぁ機会があればね」

 なんとも歯切れの悪い答えだ。こいつさては彼女が出来たな?

「しかっち……さては」

 と言及しようとしたところでピコとゲストが戻ってきたようで中断、とりあえずそのうち聞き出そう。


「ただーいま、三人ともきたよ~」

「おじゃましまーす」

「おじゃーす」

「おつ~」

 と、それぞれ入ってきたのが柴田、知らない女の子、そしてユナだった。

「あれ、えーと……小路さん」

「あ~リンゴ君だ!お久しぶり~」

 ぱっと笑顔になりユナはなぜか俺の隣に座った。一応横目で柴田を見ると、何とも言えないような表情をしていた。まぁ落ち着け。

「久しぶり、学食以来?」

「うん、そうだねぇ、元気だった?」

「まーぼちぼちかな。そっちは……元気そう」

「えーなにそれ、元気?って聞いてよ」

「元気?」

「はい、元気です!」

「小学生か」

 この茶番感と開幕から元気な感じに正直面食らったものの、以前あった時と変わらず小洒落ていて可愛い印象が強い。柴田、あんまりこっち凝視すんな。

「じゃ、早速だけどご飯しながら乾杯しよっか」

 ピコの号令で台所から料理がバケツリレーされてくる。冷蔵庫からは酒やらジュースやらが取り出され、一人一本を手にしたところでピコが乾杯の挨拶をした。

「じゃー、各自の挨拶はとりあえずあとでするとして、お疲れさんでーすかんぱーい」

「「「「「かんぱーい」」」」」


 各自が一口飲み、それぞれ料理に手を付けたところで自己紹介が始まる。今回のメンバーはピコ、しかっち、俺。そして柴田とユナ、最後にノリちゃん。

「梅村 乃里花です、しかっちと付き合ってます。ノリって呼んでくれたら。よろしく~」

 ノリちゃんはなんとしかっちの彼女(なりたて)らしく、今回はお披露目というか、それこそ紹介のために呼ばれたらしい。やっぱり彼女できてたのかしかっち。

「ということでサプライズでしたー」

 ユナや俺からのなれそめ聞かせろ攻撃にでへへとニヤケながらも、あんまりベラベラ喋んないでよ?とノリちゃんにくぎを刺されていた。しかっちはやや調子こきがちなので、割と相性はいいのかもしれない。

 しかっちとノリちゃんは当然隣に座り、なぜか俺の隣にユナが座っているので、必然的に柴田はピコと座っている。やや狭い部屋ではあるがこういう機会に便利なゆるい三角のローテーブルではちょうど二人ずつ三組座ることが出来る。定員六名の理由でもあるが、当然大きくないので隣どうしの距離が近い。お前そこ代われという無言の圧を柴田からひしひしと感じる……

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