第2話

 梅雨の時期、あの学食での出会い以降なんだかんだと課題に追われる日々を過ごし、ユナと特にこれといった接点もないまま毎日が過ぎていった。

 大学では学部ごとの専門講義と、学部不問の共通講義があり、共通講義で隣り合った人と学食等ですれ違う時に挨拶を交わしたところから知り合い、友人になっていった奴らもいた。別の学部の友人が出来ると、そいつの友達と知り合いになり、飲みに誘われて……といったような形で徐々に交友関係は広がっていった。

 中でもよく遊ぶ仲となったのが工芸科の鹿間しかま、洋画科の堀越ほりこし二人で、どちらも俺と同じように機会があれば他学科の奴と交流を深めているような奴だった。時折誰かの家で飯を食いながらアニメを見たり、ダラダラと漫画を読んでる横で課題をやったり、バカみたいな話をしたりと、ゆるくも心地よい友人達だった。

 あるとき学食で一人飯をしていると、堀越が声をかけてきた。

「お、リンゴーおっすおっすー」

「おーピコ、おつー」

 ピコというのは堀越のあだ名であり、イラストレーターとしての活動名でもある。堀越は流石の洋画科だなと思うほどには絵がうまい。

「リンゴ今週の金曜暇?合コンやろ合コン」

「えー合コン?暇だけど合コンか……やったことねぇぞ」

「いやー合コンという名のいつもの宅飲みだけどね、しかっちとリンゴとボクで一人ずつ誰か連れてきて飲もうぜという感じの」

「あーそういう?おけおけ、男女問わず?」

「うん、男でも女でも」

「はいよ、また19時にピコんち?」

「うん、よろしく~」

 要件だけ伝えた所でピコは去って行った、学食を出るまでの短い間で何人かに手を振ったり声をかけられたりしている様子を眺めながら蕎麦をすする。相変わらずコミュニケーションのバケモノだな。


 さて、合コンか……基本的に面識のない奴を連れてって友達を増やそうっていう趣旨だと考えると建築で誰か声かけるのがいいかな。ピコもしかっちも建築で友達はあんまいないって言ってた気がするし。

 そんなことを考えながら実習課題を進めていると、柴田が声をかけてきた。

「おいーリンゴー、課題どうよ」

「まぁいつも通りって感じだな、柴田は……いつも通りか。たまには気合入れたら?」

「いやー気合入んねぇよ、雨はダリーし、面白いこともとくにねーし。リンゴさー、飲みにでも行かねぇか?」

「飲み……飲みか。なら丁度一人誰かに声かけようかと思ってたんだけど、金曜に合コンの予定があって一人連れて来いって話あるんだけど行くか?」

「お、いいねぇ。誰くんの?かわいい?」

「知らんね、まぁ当日のお楽しみってことで」

「おいー、大丈夫かよ。俺の目は厳しいぞ?」

 どこから目線なんだこいつは。そういうとこがモテない理由なんじゃねぇか?

 あの学食の日以来、特に柴田のほうでも進展があったわけでは無いらしい。何度か遊んだり飲んだりもしたが、これまでの恋愛遍歴と敗北の歴史をさんざん聞かされて来た。自他共に認める非モテマンである。今はちょこちょこモテないことをネタにしても怒らないくらいには仲良くなったと言えるだろう。

「とりあえず来るってことでいいな?合コンとは言ったけど主催が合コン(笑)っつってるだけで女の子が来るかはわかんないからな」

「はー?まぁいいや。つかなら合コンって名前つけんなよな」

「それが言いたきゃ当日直接言うんだな、俺と、工芸と洋画の三人がそれぞれ一人ずつ連れてきての宅飲みだ」

「ふーん、その二人はかわいいんか?」

「いや、男だなどっちも」

「えー、そいつらが男呼んで来たらどうすんだよ……お前も女の子呼べよ」

「男だけでも楽しかったらいいだろ、女の子に声かけたらお前来れないからな」

「っかー。はいはい、ワンチャンあることを期待してますわ」

「まず課題やっとけよ」

「うぃぃぃぃっす」

 うーんこれはいつも通りやらんだろうな。ま、誰か女子捕まえるのもなんとなくハードル高かったし、あいつも息抜きになればいいだろう。

 そんな軽い気持ちで決めた柴田の参加、これが最初の踏み間違えだった。後から振り返るとそう思う。大人しく女の子を誘っておけばよかったのかもしれない。

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