第2章 彩那視点
第8話 再会
【彩那さん、お疲れ様です。明日楽しみにしています】
【私も楽しみにしてる】
【嬉しいです……!】
送られてきたメッセージを見て、紫音ちゃんの照れたような笑顔が浮かんだ。
1ヶ月前、泣いていた私を抱き寄せてくれて、思いっきり泣いてください、と腕の中で泣かせてくれた。
あれが無ければ、きっと今もまだ引きずっていたと思う。
紫音ちゃんと出会った日、結婚を約束していた彼氏に振られた。お互いの親にも挨拶は済んでいたし、これから結婚式をどうするかとか、一緒に住む家を探したりしようねと話していた矢先だった。
少し前から考え込むことが増えていたけれど、色々と考えてくれているのかな、と少しも疑っていなかったからその分ダメージが大きかった。
私と付き合う前に結婚も考えていた人だったらしく、相手の転勤で遠距離になって別れたけど、お互い気持ちは残ってて、再会してからは何度も2人で会っていたらしい。
同期と飲み会だと伝えていたのに、どうしても会いたい、と言われて少し抜ければ、まさかの別れ話。悲しさより怒りの方が勝ってしまって、戻ってからは愚痴を聞いてもらいながらひたすら飲んだ。
1人は寂しくて、いっその事誰でもいいからそばにいて欲しい、なんて自暴自棄になっていたら美和子が同居人の紫音ちゃんを紹介してきた。
美和子曰く、顔よし、性格よし、家事能力も文句なし。成人した女の子だけど、中身は小学生の男の子、外見は滅多にお目にかかれないレベルの美形。そして美和子のヒモらしい。
……いや、女の子なんだよね? それに、ヒモ?? ツッコミどころ満載すぎない??
どういうこと!? と盛り上がった同期が色々と聞き出していたのを聞く限り、美和子にとっては年の離れた弟、という感じらしい。
実際に会ってみれば、穏やかで、人の目をちゃんと見て話を聞く子、という印象。
遊んでいたことを暴露されて慌てる姿も可愛くて、美和子曰く年上キラーらしいけど、納得出来た。なんか貢いであげたくなる感じ……相手には困らないだろう。
押しの強い美和子に追い出されるようにして、出会った次の日には同じ家に帰っていた。普段から美和子と暮らしているからか、距離感がとても心地いいし、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。
そして、私の家で預かった最後の日、好きだと言ってくれた。
別れたばかりですぐに次、と切り替えられなくて断ってしまったけれど好意は感じていたし、全く嫌だとは思わなくて、そんな自分に驚いた。
紫音ちゃんがいない家は寂しくて、3日間だけだったけど私の生活に彩りを与えてくれていたんだな、としみじみ思った。
明日は約束していた3人でのご飯に行く事になっていて、1ヶ月ぶりに紫音ちゃんと会う。なかなかタイミングが合わなくて間が空いてしまった。
メッセージは頻繁にやり取りをしていて、私が負担に思わない程度に気持ちを伝えてくれる紫音ちゃんの心遣いが嬉しかった。
「彩那さん、お疲れ様です。すみません、お待たせしました!!」
「彩那、おつかれー」
「お疲れ様。紫音ちゃん、時間通りだよ」
「いや、でもお待たせしてしまったので」
仕事を終えてお店の前で待っていれば、美和子と紫音ちゃんが到着した。
遅刻したわけじゃないのに、申し訳なさそうに眉を下げる紫音ちゃんと、そんな紫音ちゃんを微笑ましそうに見守る美和子。
「気にしないで。ほら、中入ろ?」
「……はい」
「さー、飲むぞー!」
「美和子ちゃん、程々にね……すみません、予約していた高宮です」
「お待ちしておりました」
紫音ちゃんが予約してくれていたお店は雰囲気のいい居酒屋さん。美味しいお酒が沢山あるらしい。
「彩那さんと美和子ちゃん奥どうぞ」
個室に案内されて、奥に座るよう誘導された。メニューを開いてテーブルに置いてくれたり、おしぼりを渡してくれたりと甲斐甲斐しい。
「……紫音ちゃん、どうかした?」
「あっ、すみません! 久しぶりだったので、つい……」
視線を感じるな、と紫音ちゃんに問いかければ照れたように笑っていて、1か月前が懐かしく感じた。一緒に過ごした3日間でよく見ていた表情。
「紫音、ずっと楽しみにしてたんだもんねー? 仕事中もずっとソワソワしてて。昨日の夜はきっとあんまり寝れてないよ」
「ちょっと美和子ちゃん!!」
「まぁまぁ、せっかく彩那に会えたんだし、落ち着きな?」
「誰のせい……!!」
隣に座る美和子に暴露されると睨みながら文句を言っていて相変わらず仲がいい。
店員さんを呼んで、注文をしてくれた紫音ちゃんと目が合った。なんだか目を逸らせなくて、見つめあってしまえば横からの視線。
「……ねぇ美和子ちゃん、無言でニヤニヤするのやめて」
前に座る紫音ちゃんからは良く見えているからか、耐えきれずに美和子に文句を言ったけど、美和子を喜ばせるだけなんじゃ……?
「ニヤニヤ」
「もー!!」
やっぱりね。
「お待たせ致しましたー」
「あ、ありがとうございます! 全部受け取りますね」
「ありがとうございます」
紫音ちゃんがお酒を受け取って、私と美和子の前に置いてくれた。紫音ちゃんの前には烏龍茶。今日は飲まないのかな?
「「「かんぱーい」」」
「うまー! 仕事終わりのビール最高!!」
「え、はや! 次も同じ?」
「同じで!」
美和子ってお酒強いんだよね。飲まなくてもテンションが高いのに、飲むと更に高くなるし。
「彩那さんはまだ大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫。今日はそんなに飲まないから」
「ちゃんと送りますから、潰れちゃっても大丈夫ですよ」
「紫音ちゃんは飲まないの?」
「はい。ですので安心して飲んでくださいね」
優しく笑う紫音ちゃんは本当に20歳? と思ってしまうくらい落ち着いている。
「酔わせて彩那に何する気なの!? えっちー!!」
「何もしませんけどっ!! 彩那さん、誤解しないでくださいね!?」
「ふふ、分かってる」
店員さんを呼んで、追加のビールを注文し終えた紫音ちゃんにニヤニヤしながら絡む美和子と、慌てたように私を見る紫音ちゃん。
「ヘタレー」
「えぇ、なんでヘタレ扱い……?」
3日間一緒に過ごしたけど、そういう欲を向けられた事は無かったからかな? 美和子には色々と話しているんだろうし。
「すみません、ちょっとお手洗いに」
「行ってらっしゃーい! ごゆっくり」
「……美和子ちゃん、余計なこと言わないでね?」
「はいはーい」
ある程度時間が経って、紫音ちゃんは不安そうにしながらも部屋を出ていった。
「はは、紫音めちゃくちゃ警戒してたなー」
「美和子がからかうからでしょ」
「だって反応が可愛くてさ。紫音、本当に楽しみにしてたんだよ。彩那と会えるの」
「え、そうなんだ」
「メッセージでも少し聞いたけど、先月紫音と3日過ごしてどうだった?」
紫音ちゃんが帰った日、美和子から連絡を貰って、強引だった事を謝られた。気にしなくていい、とは伝えていたけど、詳細までは話せていなかったから気にしてくれているのかな。まぁ、楽しんでいる部分も間違いなくあるだろうけど。
「……って感じで、凄く快適に過ごさせてもらっちゃった。ただ、気持ちに応えられなくて申し訳ないなって思う」
「そっか。良かった。それなら大丈夫かな」
「大丈夫、って何が?」
「実は……あ、紫音戻ってきたね。入って大丈夫だよー」
「あ、えっと、タイミング悪かったですか?」
何が大丈夫なのかを聞く前にノックの音がして、紫音ちゃんが戻ってきた。
「悪くないから大丈夫。紫音が今日をどれだけ楽しみにしてたか話してただけだから」
「ぜんっぜん大丈夫じゃない!!」
「大丈夫大丈夫。今日のために車を綺麗にしたらしい、なんて話してないから」
「ねぇ!? 今言ってるじゃん!!」
わざわざ車を綺麗にしてくれていたと暴露されてしまった紫音ちゃんが美和子に詰め寄っていて、さっきの話は聞くタイミングを逃してしまった。まぁ、必要なら後で教えてくれるだろうし、今は気にしなくてもいいかな。
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