第2話 これは、俺の物語だ。

「あっははは! 本当に海くんは僕のいたずらに引っかかりやすいねー。もう2年経ったのに、学習しないね〜」

「う、うるさい!」


 彼女の名前は、姫野ひめのさち。彼女――幸はいつも俺にいたずらを仕掛けたり、からかったりして楽しんでいた。そして、今もその真っ最中。


「じゃあ次、移動教室だから行こうか」

「あ、そうか。持ち物なんだっけな……。って、おい、幸。移動教室は次じゃなくね?移動教室は4時間目だな」

「あ、そっか。ごめんごめんー」


 まぁ、ちょっと抜けているとこもあるが……、これはこれで幸らしい。幸は容姿はとても可愛らしい。白銀色の髪色にトレードマークのカチューシャ。髪型はいつも、ポニーテールか下げているかのどっちかだ。ちなみに今日ポニーテールだな。


 これは、高3になって間もない頃だったか? それからもう、随分経ったな。もう卒業か……。早いな。夏には、高校最後の夏祭り。そこで初めて幸に仕返しができたんだったなー。あれは嬉しかったし、スカッとしたなー。それで、秋の文化祭では――


     〜高校最後の文化祭〜


「とうとう来たね! 文化祭!!」

「そうだな! 目一杯楽しもうぜ!」

「おや、海くんノリノリだねー」

「幸もだろ」


 これが高校生活最後の文化祭だ。この文化祭を楽しまないやつはどうかしてる。そして、今日俺にはとっておきの秘策がある!


「僕らの店当番って昼からだよね」

「そうだな。その間どっか行くか」

「だね」


 俺は元々友達が多いわけではない。なんかいつも知らないうちに幸と一緒になっている。なんの現象だろうか……。


「じゃあさ、まずは手始めに大食いチャレンジしに行って、その次に唐揚げ、たこ焼きと回って……」

「って、ちょっと待ってぇい!」

「ん? なに?」

「なにって……、誰が手始めに大食いチャレンジをしに行くんだよ!」

「誰って、僕に決まってるでしょ? バカなの?」


 ふぅぅー。落ち着け……落ち着け……、だめだぞ……幸に手を出したらだめだぞ……。……。ふぅ、落ち着いた。

 バカなのと言われたことに対してキレそうになったが寸前のところで抑え込んだ。


「その大食い行ったあとに屋台回るの? しかも食べ物系の……」

「うん。あ、海くんは大食いでなくていいからね」

「あ、うん」


 あれー? 幸って大食いだけ? めっちゃ細身な体型してるのに…。絶対途中で食べれなくなるやつだろ……。


 海は、去年一緒にランチに行ったときのことを思い出した。


 待て、あのときは何も思わなかったが、今思えばおかしいぞ……。確かにその時に注文したのって確か……。


『さぁ、始まりました! 第5回、櫻海さくらかい高等学校大食いチャレンジバトル! 今回のメニューは、焼き肉1.5キロでーす!』


 あ、そうだ。焼肉定食10人前だ……。隣の席にまでお皿が置かれてたな……。そんな幸に取ってこれは朝飯前か……。


『制限時間は30分! では行きます……。よーいスタート!』

「いっただっきまーす!」


       〜30分後〜


『5、4、3、2、1! 終了ですー。今回の優勝者はー! 3年2組の姫野ひめの幸さんでーす! おめでとうございますー!』


 うわー……、すげ〜。というか幸、あの量をたったの15分で食べきってたよな……。すげーとしか言いようがない。


「どんなもんよ!」

「すごいな。まさかあの量を食べきるとは……、思ってもいなかったわ」

「僕はこう見えて大食いだからねー」

「じゃあ、唐揚げでも買いに行こうか」

「え!? まだ食うの?」

「当たり前じゃーん。まだお腹、2割ぐらいしか溜まってないんだよ」


 うそ、あの量食べといて満腹度2割……。相当大食いなんだな……。幸って、大食いのテレビ番組出れちゃうんじゃないか……? 将来出てそう……。


「じゃあ、やることやったし店番にお戻りますか」

「うん、そうだね」


 正午を回る頃にはもう、幸の両手が食べ物でふさがっていた……。まぁ、ちょくちょく遊び系の屋台も行ったけど……、ほとんど食べ物屋台だった。


「んん! この、お餅おいしい! 海くんも1つ食べな!」

「え? あ、うん。ありがとう。本当だ! おいしい!」

「でしょー」


 そんなことを話しながら店番をしていた。


       〜後夜祭〜


『これにて、第26回櫻海高等学校、文化祭を閉会させていただきます。ご来場くださった皆様、ありがとうございました』


 これで、文化祭も終わりか。


『続きまして、後夜祭をスタートします。生徒の皆さんは校庭に集まってください』


 文化祭は終わったが、後夜祭は残っている。たった2時間程度の後夜祭。最後の文化祭は、悔いのないものになったのだろうか?


「ねぇ、海くん。海くんは悔いの残らない文化祭になった」

「ああ、完璧だ。幸は?」

「僕も完璧だよ」

「そうか」


 ここの学校の後夜祭はキャンプファイヤーをする。そこで今までの思い出を語り合ったりするんだ。


「ねぇ、海くん……。今まで色んなことがあったけど…、いつも僕と一緒にいて楽しかった?」

「ああ、もちろんだ」

「あはは。それは嬉しいな。このさ、キャンプファイヤーの光と音を聞いてると心がほぐれてくる」

「ねぇ、海くんはどこの大学に行くか決めた?」

「そうだな。まだだな。幸はどこの大学行くんだよ」

「僕はね、名古屋大学に行こうかなって思ってるよ」

「そっか、名古屋大学……」


 俺はまだ、どこに行くかは決まってないけど、決まった気がする。


「大学になると、僕たちも会うことは少なくなるんだろうね……」

「かもな」


 気のせいだろうか。幸の目に涙が見えたような……。暗くてよく見えなかった。

 そうだな。やっぱり、大学は幸と一緒のとこに行きたい!だから目指すは!!

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