一歩

Side:クリスティーナ

 

  学園に行く途中の道、私とお姉様は馬車から降りて歩いて向かう。お母様には健康のためだ〜とか、色々と説得するために言ったけど、本来の目的はお姉様と2人っきりの時間を多く作るためです。

 予想外だったのはお姉様が私に賛同してお母様を一緒に説得してくれたことだろうか。


 お姉様は次期生徒会長として忙しくしていたけど、隙間を見つけては私との時間を取ってくれた。それに、婚約が白紙になってからお姉様からのスキンシップが増えたような気がする。以前なら私から要求してたのに、今では――


「ティア? 手を繋ぐ?」

「はい!」


 こんな感じでお姉様から手を差し伸べてくれるようになった。嬉しいけど、時々無理をしてないから不安になる。


「お姉様、無理……してないですか?」

「無理? 全然してないよ」


 嘘じゃない。その事にホッとするも、お姉様の頬は少し赤くなっている。だから、お姉様が恥ずかしがっているのに、こうして手を出してくれているという事実が嬉しい。


 学園ではいろんなことがあった。前世でも学校にはしっかりと通っていたけど、ここまで濃い日常を過ごした事はないと言い切れる。そんな学園生活も残り2年となった。


 今日は私がこの世界で初めて先輩となる日、入学時にも感じたが、日本のように桜がないのが残念である。しかし、今日はそれだけではない!

 お姉様が生徒会長として初の挨拶をする日でもあるのです! そんなお姉様の勇姿を見過ごす訳にはいきません! この世界にビデオカメラがない事も残念でならない。


 そんな気持ちで歩いていると、学園の門が見えてくる。その近くには2人の人影……

 1人は知っていたけど、もう1人は偶然なのか、狙ってなのか。やはり出し抜くのは難しい相手だとつくづく思わされる。


「アイン殿下、ベル様、おはようございます。ですご、お2人はどうしてここに? 何か待っているのですか?」


 いつもは鋭いのに、こういう時だけは天然なお姉様に、2人の対応は……


「あ、いや……、ぐ、偶然今来たところなんだ!」

「もちろんリリアを待っていた。今日の演説、楽しみにしていると伝えたくてな」


 この差である。名誉のためにどっちがどっちなんて事は言わないでおこう。


「からかわないでください。そんな大それたものではありませんわ」

「何を言っている。これからもっと多くの人の上に立つ事になる。今日はその一歩となるのだろう?」

「それは……そうですが……」

「なら、俺が言っている事もわかるだろう?」


 将来、自分の妻になる者の勇姿が見れるのが楽しみという事ですね。コミュ力がある人は言うことが違います。もう1人なんて、『しまった!』みたいな顔をして悔しそうにしているだけですし……


「ぼ、僕も楽しみにしている!」

「殿下までも……ですが、ありがとうございます。精一杯頑張りますね」


 この2人からお姉様の相手は決まる。もう私にできるのはお姉様の話を聞くぐらいになるのかな?

 直接お姉様を助けることはもうないかもしれないけど、これからもお姉様のために頑張っていこうと思う。


「ティア」

「ひゃっ!」


 後ろから名前を呼ばれ、思わず変な声が出てしまう。勢いよく振り返ると、名前を呼んだ人物はロイだった。

 

「ロイっ、どうしてここに?」

「ティアを待ってた。言っただろう? 君の1番になると」

「それは……そうだけど……」


 まさかお姉様を待ち伏せする2人のように、校門で待っているとは思わなかった。


「まあでも、今はこれを言いに来ただけだから、後はリリア様とゆっくりと入っておいで」


 そう言ってロイは、私に背を向け歩いていく。


「殿下もベルフリート皇子も、そろそろ教室に戻りましょう」

「ロイ? ああ、わかった?」

「ふむ、そうするとしようか」


 あの2人も連れて……。取り残されたのは私とお姉様の2人。先程までの喧騒が嘘のように静かになる。


「お姉様、大丈夫ですか?」

「ええ、でも私を見てくれる人がいるってわかったから、今日は頑張らないとね」

「……私も見ていますから」

「ふふっ、そうね。でもティアも見てくれる人を気にしないといけないよ」

「うっ……」


 私も自分のことを考えると言ったのだから、ロイから目を逸らしてばかりではいられない。


「ティア、手を出して」


 お姉様に言われた通りに手を出す。するとお姉様はギュッと手を繋ぎ、前を向く。


「私もティアも、これからは自分の一歩を歩いていくと思うの。だから、最初の一歩は一緒に歩きたいな……って、ダメかな?」

「ダメじゃないです!」

「そう? なら行きましょうか」


 お姉様のためではなく、自分のために。自分がこれからどうしたいのかを考える。これはその最初の一歩。


 私たちは同時に一歩を踏み出した。これからの未来に少し不安を抱えながらも、自分にとってより良い一歩になるように。

 

 私たちはそれぞれ自らの道を歩み始めた。

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【完結】シスコン妹は大好きな姉のために、婚約破棄に奔走する 白キツネ @sirokitune-kurokitune

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