達成
Side:クリスティーナ
アレにボロを出させるつもりが、まさか丸々コッチに投げてくるとは思わなかった。
ここでお姉様が名前を間違えるとお互い様という話になってしまう。それでもアレの態度がアレだから仕方がない、そう思ってくれる人が1人でも多くいる事を願っていると奇跡が起きた。
「アウレウス様……でしょう?」
お姉様がアレの名前を当てた。一瞬、覚えていたのかと思っていたけど、チラッと見ていた時に不安そうな顔をしていたから、たまたま間違えたのが当たっていたのだと思う。
けど、そんな事を知るはずがない聴衆はこう思っただろう。やはりリリア様は歩み寄ろうとされていたのに、殿下が拒絶していただけだと。
「なっ……」
「もう要件もないようなので失礼しますね」
「ま、待て!」
「おそらく、もう2度とあなたと会う事はないでしょう。なので少しだけ、この場で言わさせてもらいますね」
アレの静止の声に、お姉様は帰ろうとしていた足を止めて振り返る。
「私はあなたと婚約者になって不幸としか思っていませんでした。常に愚かなあなたの尻ぬぐい、お世話、教育、躾……すべてをして来た上に、本来あなたがするはずの公務も代わりに行って来ました。ですがもうその必要はありません。清くその身を引いて下さる事を願っています。では……」
あーあ、お姉様は言いたい事を言ったつもりだろうけど、アレが馬鹿だという事を忘れてるんじゃないかな? それじゃあ1ミリも伝わる訳ないじゃない! まったく……お姉様ってばドジなんだから! ここは代わりに私が人肌脱ぐとしましょうか。
「殿下」
「おお、デン! やはり戻って……」
「そんな訳ないですって、それに私はデンではありませんよ。って、そうのために話しかけたのではありません」
「デン……?」
「あまり……いえ、まったく賢くない殿下はお姉様の言った意味がわからないと思ったので教えてあげましょうと思いまして……」
「……」
「あれっ? 怒っています? ですが否定できませんよね? まあそんなことは別にいいのです。お姉様が身を引けと言った意味は、もうお姉様に頼るなという意味ではありませんよ」
何も言わないけれど少し驚いた顔をしている。普通はそんな勘違いしないのだけれど、アレじゃあ仕方がないと思っている時点で私も毒されてきているのかな。
「あなたには無理だから王位を捨てろ。そう言っているのです」
「いくらなんでも不敬だぞ!」
乱入してきたのはいつもアレと仲良くしている殿下と同じクラスの男。
「どちら様ですか? 今は殿下と公爵家の娘が話しているのです。その話に横入りしてくるあなたの方が不敬だと理解していただけますか?」
「ぐっ、で、ですが! 今の発言は看過できん! 殿下に王位を捨てろと言うのか!」
「はい。あなたの言う通り、無能には無理なのでさっさと居なくなれと言いました」
「いや、私はそこまで言ってな……! それよりも殿下はこの国のために――」
「何かしましたか? 先程お姉様が言っていましたよね。殿下がするはずだった公務もやっていたと。さて、あなたがおっしゃる『この国のため』にしてきた事は本当にその人がやってきたことですか? 少なくとも、私がソレに近づいた時には国のためにしたこと、したい事はお姉様を追い出す事以外何も出てきませんでしたよ。自分の事ばかりでしたから」
「「……」」
なぜ黙るんですかね? 否定できないから? それとも薄々感じていた? 別にどっちでも構いません。お姉様が婚約者でない殿下ではもうアインに太刀打ちできないのですから。
「殿下の弟君であるアイン様は優秀なようですし、あなたが張り切らなくてもこの国は大丈夫という事です。では私も失礼しますね」
私は少し離れたお姉様の元まで小走りで向かう。
「ティア、私そこまで言ってないのだけれど……」
「あれはずっと我慢してきた私の分も入ってますから。お姉様は気になさらないでください」
「そう。…………ティア」
「? お姉様、なんですか?」
「ありがとうね、私を助けてくれて」
「……! はい! これからもずっとお姉様と共にいますから!」
ようやくお姉様とアレを引き離す事ができた。これで私の役目は終わり……かな?
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