婚約破棄
アレと決着をつけなければいけない。確かにそう思っていました。いましたが、まさか翌日に仕掛けられるとは思っていませんでした。
朝の通学時間、人が1番多い時間帯にアレはいました。そして私を見た瞬間に指を刺し、こう言い放ったのです。
「お前が未来の王妃としての立場をいいように使っているのはもうお見通しだ!」
アレがこんな難しい事を言えるはずがありません。つまり、誰か入れ知恵をした人がいるはずです。
横を見ると、ティアが私から目を逸らしている。
「……嫌われ「そんなことありません!」……じゃあ話してくれるよね?」
「うっ……騙しましたね、お姉様!」
「いつもティアがやってる事じゃない」
「そうですけど……」
ふふっ、いつも口ではティアに負けてばかりだったので、たまにはこういう時があってもいいですね。
そんな私たちのやり取りに不満を持つ者はただ1人。怒りで顔を赤くしながら私をギロっと睨みつける。
「いい加減にしろ! 散々私を無視しやがって……だが、そんな事をできるのも今日限りだ!」
私たちの周りを多くの生徒たちや教師が取り囲む。アレが何をするのか、それに対して私がどういった反応をするのか気になるのでしょう。
あっ……またアレの事を無視していたせいで、我慢の限界を迎えたようですね。心なしかアレが震えているように見えます。
「もう辞めだ! せっかく温情を掛けてやろうと思っていたが必要ないようだ!」
この時、この場にいた人たちは同じことを思ったことでしょう。『絶対嘘だ』と。
どうしてそんな嘘をつくのか。おそらくですが、自分が私の何もかもを操作できるのだという優越感に浸りたいのでしょう。そんなことは決してないのですが、わからないのですから仕方ありません。
「デンに対する散々な扱い、そんな奴にこの国の国母となる資格はない! 俺はお前と婚約を破棄する!」
ようやく、ようやくです。ずっと、小さい頃から望み続けた言葉が、聞きたかった言葉が聞けた。
「お姉様……?」
ティアが私を見上げる。
そうね、今度はちゃんと返事をしないと……ね。
「婚約破棄、謹んでお受けいたします」
そして人生で初めてあなたに感謝を……
「さて、ティア帰りましょう。今日はパーティです」
「はい! あっ! 後でスフィアも呼んでいいですか?」
「ええ、もちろんです。シシリアもあとで呼びましょう」
「まて! デンはなぜそっちにいるんだ! ようやくその女から離れて俺の下に来れるだろう!」
「はぁ? 私がお姉様から離れてあなたの下に? そんな事は死んでもあり得ませんわ」
「デ、デン……?」
何度聞いても、ティアがデンと呼ばれるのは違和感があります。まあアレにティアと呼ばれる方が嫌なので別に構いませんが。
それにしてもティアはようやく取り繕わなくていいと思っているのか、アレに対して辛辣に返しています。
今までと違ったティアの反応に、アレは困惑しているみたいですね。
「そんな……お前はそいつにいじめられて……」
「そんな事ありません。お姉様の婚約者ならそんなことはないと絶対にわかるはずなのですけどね。あっ、もしかして、お姉様の名前すら知らないんじゃないですか? 私の名前も間違って覚えているようですし……ねぇ?」
「それはお前が……!!」
ティアが嘘の名前を教えたからでしょう。流石にこればかりはアレに同情します。ですが、もう少し多くの人と、都合のいい事しか言わない人以外と付き合いが有ればもっと変わっていたかもしれないのに……。
「! それならそっちはどうなのだ。私は貴様から名前を呼ばれた事はないぞ!」
まあそう言ってくるとは思っていました。ですが、私はもう名前を覚えているのです。
「アウレウス様……でしょう?」
あれ、アレウスだったっけ? ですがどちらでもいいです。だってもう取り返しがつかないところにまで来てしまったのですから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます