選択肢

 あの後は授業を受ける気にもならなかったのですぐに帰りました。

 アレといる時間を少しでも少なくしたかったという思いもあります。変に撤回などと言われても面倒ですし、後はお父様に任せるとしましょう。


 ……1つ、1つだけ問題があるとすれば、お父様と一緒にレオ兄様がついて行ったぐらいでしょうか。その事が、何がとは言えないのですが、とても不安に感じます。


 その予想は当たったようで帰ってきたお父様の顔はひどく疲れ切っており、レオ兄様はその対象にとても嬉々とした表情をしていました。


「よかったねリリ、これで正式に婚約が白紙になったよ。そしてあの王もようやく理解したみたいでね。あの愚か者を幽閉したよ。幽閉と言っても場所までは言及できなかったからおそらく部屋で謹慎程度だと思うけどね」


 レオ兄様の言葉に少しホッとする。アレの事です。絶対に我が家に数回は来ると思っていたので、少しでも閉じ込めてくれているだけありがたい。


 ですが、婚約破棄を告げられたのが朝、お父様に告げたのは私たちが帰ってきてからで、その後すぐに話し合いに向かっていましたが帰ってくるのが昼前というのはいくらなんでも早すぎではないでしょうか?


「んっ? どうしたんだいリリ、そんなに目を細めて」

「……脅したりしていませんか?」

「あはは、僕がアレら相手にそんな面倒な事をするわけないだろう。少しの世間話と選択肢を与えただけさ」

「選択肢……ですか?」

「そう。リリとアレを両方手に入れる事は絶対に不可能だとようやく理解したみたいだからね。どちらを選ぶのか慎重になった方がいいと助言しただけだよ」


 嬉々としたように告げるレオ兄様。けれどその目はまだ不満そうです。おそらくですが、もっと言おうとしたところをお父様に止められたのでしょう。


「けれど、選択肢というのは何も王族だけの話じゃない。リリ、君にも関係のある話だよ」

「私にも……ですか?」

「ああ、リリは優秀だ。そんな君を適当な家にと継がせるわけにはいかない。それはわかるね」

「はい」

「という事で、リリにはこの国で王妃になるか、ベルと一緒に隣国に行って皇妃になるかの2択がある」

「……それは私に選択肢がありますか?」


 私が王妃になる事が確定というのであれば、それはローズ家と王族、皇族との問題。私に口を出す事はできないのでは?


「まぁ、リリの言いたいこともわかるが、家の両親はもうリリには我慢させたくないんだよ。だけどどこもリリを放置できない。ならせめてリリが選んだ相手に。そうなったわけだ」

「急にそう言われましても……」

「困惑するのはわかるが、だからと言っていつまでも放置できる問題ではない。だから期間を設けることにした」

「……期間?」

「リリが学園を卒業するまで。その間にリリには選んでもらいたい。自分を1番に思ってくれる人物を――」

「それではダメです。1番は国のことを考えてくれる人でないと」

「ふふふ、それもそうだね。今のは僕が悪かったよ。けどその調子で2人を見定めてほしい」

「……わかりました」


 レオ兄様に偉そうに国民を1番にと言いましたが、果たしてそれは私が言っていいことなのでしょうか? 私はこの国の民を守るべき立場であるにもかかわらず、それを放棄しようとしていたのに……。そんな私が本当に……?


 不安に思っていると、レオ兄様がポンッと優しく頭の上に手を置く。そのままアンが綺麗に整えてくれた髪をクシャクシャにしてくる。


「レオ兄様! 何をするんですか!」


 ボサボサになった髪を押さえつけながらお兄様に抗議の目を向ける。が、レオ兄様は笑っているだけ。何も伝わってない。


「ううっ……」

「ごめんごめん、でもリリが考え過ぎだったからね。確かに民のことを考えるのも大事だ。けど、それは自分を蔑ろにしてまでするものではないと思う。だから、リリももっと自分に素直になるべきだと思うよ」

「自分に素直……」

「(これも2人には頑張ってもらわないとな)」

「今何か言いましたか?」

「いや、なんでもないよ」

「そうですか……」


 自分に素直になる……ですか。今まで貴族とての義務を果たすために生きてきました。だから、考え方も民に関わる事が中心となっています。

 そんな私がどのようにして2人を選べばいいのでしょうか。


 アンに髪を整えてもらっている間も、私は考え続けたが何もいい考えは思いつかなかった。

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